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第87話 深夜の訪問者

話が盛り上がっている時、部屋の外で物音がした。


コツ、コツという足音。


遠慮がちなノック。


「誰?」


少女が警戒すると、ひょっこり顔を出したのは...


「あ、えっと...」


見知らぬ猫人間だった。


若い女性の姿に、猫の耳と尻尾。


キジトラ模様の、きれいな毛並み。


恥ずかしそうに、入り口で立ち止まっている。


「新入り?」


黒猫が聞くと、恥ずかしそうに頷いた。


「昨日、来たばかりで...」


「そうなんだ!よろしく!」


美久が明るく挨拶すると、新入りさんは驚いた。


目を見開いて、耳をピンと立てて。


「に、人間!?」


「あ、ごめん。怖かった?」


「いえ...でも、なんで人間が...」


少女が事情を説明する。


美久のこと、鈴のこと、共存のこと。


新入りさんは、目を丸くして聞いていた。


信じられない、という表情。


「そんなことが...」


「うん、美久さんは特別なの」


「でも、怖くないよ」


子猫が保証する。


「むしろ、あったかい」


「優しい」


「一緒にいると安心する」


新入りさんは、恐る恐る近づいてきた。


一歩、また一歩。


緊張した足取り。


3メートル。


2.5メートル。


2メートルで止まる。


見えない壁を感じているような。


「本当だ...変な感じ」


「変?」


「なんか...安心する」


新入りさんの素直な感想に、みんなが微笑んだ。


美久の存在は、もう祢古町の一部になりつつあった。


特別だけど、自然な存在として。


新入りさんの話


「よかったら、こっちに来て」


美久が誘うと、新入りさんは恐る恐る車座に加わった。


まだ緊張している様子。


「私、まだ名前もないんです」


「人間の時の名前は?」


「...思い出したくない」


暗い表情。


何か、辛い過去があるようだ。


「無理に話さなくてもいいよ」


ミユキが優しく言った。


「みんな、それぞれ事情がある」


「でも、もしよかったら...」


美久が促すと、新入りさんは少しずつ話し始めた。


都会での生活。


競争社会に疲れ果てた日々。


恋愛の失敗。


裏切られた記憶。


「もう、人間関係に疲れて...」


「それで、逃げてきた」


「祢古町にたどり着いたのは、偶然」


「でも、ここの雰囲気に惹かれて...」


そして、一晩で変化が始まった。


「怖かったけど、同時に解放感もあって」


「人間じゃなくなるのが、むしろ救いに思えた」


みんな、静かに聞いていた。


誰も、批判しない。


誰も、否定しない。


ただ、理解と共感だけがある。


「大丈夫」


少女が言った。


「ここでは、過去は関係ない」


「新しい自分として、生きていける」


「本当に?」


「本当よ」


新入りさんの目に、希望の光が宿った。

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