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第76話 朝の支度

部屋を出ると、廊下で少女と出会った。


相変わらず着物姿で、髪も完璧にセットされている。


猫耳が、朝日を浴びてつやつやと光っている。


「おはようございます」


「おはよう...って、なにその猫たち」


少女は、美久の後ろを見て苦笑した。


美久の後ろから、ぞろぞろと猫たちがついてくる。


まるで、パレードのように。


いや、もっと自然な感じ。


家族の朝、という雰囲気。


「あはは、みんな一緒に寝ちゃった」


「まったく...」


少女は呆れたような、でも嬉しそうな顔をした。


「でも」


「でも?」


「みんな、楽しそうね」


確かに、猫たちの表情は明るかった。


昨日の警戒心はどこへやら。


今は、好奇心と親しみに満ちている。


「美久さんが特別なのね」


「そうかな?」


「ええ。普通の人間なら、こうはならない」


少女は、美久をじっと見つめた。


「あなたには、人を...いえ、生き物を安心させる何かがある」




洗面所に向かうと、面白い光景を目にした。


猫が、歯を磨いている。


いや、磨こうとしている。


トラ猫が、前足で歯ブラシを持って、ぎこちなく動かしている。


人間用の歯ブラシは、猫の前足には大きすぎる。


何度も落としそうになりながら、必死に磨いている。


「あ、おはよう」


猫が、口をもごもごさせながら挨拶した。


口の中が泡だらけで、滑稽だった。


白い泡が、髭についている。


「歯磨き、難しい?」


「むがしい(難しい)」


「手伝おうか?」


「だいじょうぶ!」


意地になって磨き続ける猫。


その姿が、なんだか人間の子供みたいで可愛い。


プライドと、できない現実の間で葛藤している。


でも、諦めない。


人間だった頃の習慣を、必死に守ろうとしている。


隣の洗面台では、別の猫が顔を洗っていた。


こちらは、猫式と人間式のハイブリッド。


前足を舐めて、顔を撫でる猫の洗顔。


でも、その後で蛇口をひねって、水で顔を洗う。


器用に前足で水をすくって。


「おはようございます」


美久が挨拶すると、その猫は恥ずかしそうに頷いた。


「お、おはよう...」


「見ないで...」


「恥ずかしい...」


人間の時の習慣と、猫の本能がごちゃ混ぜ。


その姿が、なんとも愛おしい。

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