第71話 鈴の音
感動に浸っていると、少女が立ち上がった。
「美久さん、ちょっと来て」
「はい」
子猫を抱いたまま、美久は少女について行った。
相変わらず2メートルの距離はあるが、もう気にならない。
子猫を抱いている。
それだけで、世界が変わった。
部屋の奥に、小さな祭壇があった。
神棚のような造り。
でも、祀られているのは神様じゃない。
古い鈴が、一つ置かれている。
美久の鈴より、少し大きい。
でも、デザインは同じ。
同じ文様、同じ紋章。
「これは...」
「音無神社の、本当の御神体」
少女が、鈴を手に取った。
大切そうに、両手で。
チリン...
澄んだ音が響く。
美久の鈴より、少し低い音。
でも、同じ系統の音色。
その瞬間、美久の胸の奥で何かが共鳴した。
「あ...」
温かい感覚が、全身に広がる。
胸の奥から、波紋のように。
まるで、長い間眠っていた何かが目覚めるような。
封印されていた何かが、解放されるような。
美久の鈴も、呼応するように鳴った。
チリン...
高い、澄んだ音。
二つの鈴の音が、重なり合う。
和音を作る。
美しいハーモニー。
「やはり...」
少女が、確信を持って言った。
「あなたは、陽の巫女の血筋」
「でも、それは呪いじゃない」
黒猫が付け加えた。
「使い方次第で、祝福にもなる」
美久は、よく分からないという顔をした。
頭が、まだ混乱している。
情報が多すぎて、処理しきれない。
「どういうこと?」
少女は、鈴を美久に差し出した。
「これを」
「え?」
「あなたが持つべきものよ」
「でも、御神体を...」
「大丈夫」
少女は、優しく微笑んだ。
猫耳が、嬉しそうに動く。
「これは、あなたのために待っていたの」
「ずっと、持ち主を待っていた」
美久は、恐る恐る鈴を受け取った。
ひんやりとした金属の感触。
でも、触れた瞬間、温かくなった。
まるで、生きているかのように。
そして...
チリン、チリン。
鈴が、自然に鳴った。
美久が鳴らしたわけではない。
鈴が、自ら鳴ったのだ。
喜びの音。
再会の音。
「これは...」




