第68話 奇跡の瞬間
子猫は、ついに美久の膝に飛び乗った。
ぴょん、と軽やかに。
「きゃっ!」
美久は驚いて固まった。
体が硬直する。
呼吸を忘れる。
触れている。
直接、触れている。
子猫の重さ。
温かさ。
柔らかさ。
22年間、夢見ていた感触。
みんなが見守る中...
何も起きなかった。
子猫は、人間に戻らない。
苦しむ様子もない。
普通に、美久の膝の上で体勢を整えている。
前足で、美久の太ももを踏み踏み。
場所を確かめて。
そして、くるりと丸くなった。
普通の猫のように。
当たり前のように。
「これは...」
少女が目を見開いた。
猫耳が、驚きでピンと立つ。
黒猫も、信じられないという顔をしている。
口が半開き。
子猫は、美久の膝の上で目を閉じた。
そして、喉を鳴らし始めた。
ゴロゴロゴロ...
幸せな音。
リラックスした音。
安心しきった音。
「触れてる...猫が...私に...」
美久の声が震えた。
今度は、嬉しさで。
信じられない奇跡に。
おそるおそる、手を伸ばす。
震える手。
でも、今度は恐怖の震えじゃない。
感動の震え。
手が、子猫の頭に触れる。
柔らかい毛。
温かい体温。
生きている証。
子猫は、目を開けて美久を見上げた。
そして、小さく「にゃあ」と鳴いた。
挨拶のような鳴き声。
「触れた...」
美久の目から、涙が溢れた。
今度は、悲しみの涙じゃない。
喜びの涙。
感動の涙。
22年間の夢が、ついに叶った瞬間。
「うわああああん!」
美久は、子猫を優しく抱き上げて、顔を埋めた。
子猫の毛に、涙が落ちる。
でも、子猫は嫌がらない。
むしろ、美久の頬に小さな鼻をつけた。
猫のキス。
親愛の証。




