第60話 美久の告白
初めて猫に逃げられた日のこと。
5歳の誕生日。
祖母が連れて行ってくれた公園。
白い子猫に近づこうとして、威嚇された。
「フーッ」という声が、今でも耳に残っている。
友達の家で一人ぼっちだった日のこと。
小学2年生の時。
みんなが猫と遊ぶ中、自分だけがゲームをしていた。
「美久ちゃん、ごめんね」という友達の声。
優しさが、逆に辛かった。
猫島での屈辱。
中学2年生の修学旅行。
港に着いた瞬間、猫たちが一斉に逃げた。
「相沢効果」とクラスメイトに呼ばれた。
笑い話にしたけど、本当は泣きたかった。
猫カフェでの拒絶。
高校3年生。
アルバイトで貯めたお金で、初めて行った猫カフェ。
すべての猫が、天井近くに避難した。
店長が追いかけてきて「また来て」と言ってくれた。
でも、もう行けなかった。
勇気が出なかった。
「でも...でも私...猫が大好きで...」
美久の声が震える。
「諦められなくて...」
「だから動物行動学を専攻して...」
「猫のこと、もっと知りたくて...」
「いつか、きっと仲良くなれるって信じて...」
少女は、黙って聞いていた。
猫耳が、美久の感情に合わせて動く。
悲しい時は後ろに倒れ、
希望を語る時は前に向く。
その瞳に、理解と共感が宿っている。
同じような孤独を知っている者だけが持つ、深い共感。
「今日こそは...って期待して...」
美久の声が震える。
「祢古町なら...特別な場所なら...って」
「老婦人も言ってたから...」
「関係が変わるって...」
涙で視界がぼやける。
もう、何も見えない。
「でも...やっぱりダメで...」
「2メートル...絶対に越えられない壁...」
「私、疫病神みたいで...」




