第57話 生活の痕跡
廊下を歩いていると、部屋の中から物音がする。
ふすまが少し開いている部屋がいくつかある。
美久は、ちらりと中を覗いた。
ある部屋では...
布団で寝ている猫がいた。
人間のように、仰向けで。
掛け布団をきちんとかけて。
手足を伸ばして、大の字になって。
枕も使っている。
そば殻の枕らしく、頭の形にへこんでいる。
寝息が聞こえる。
「すぅ...すぅ...にゃ...」
時々、寝言が混じる。
人間の寝言と、猫の鳴き声が混在している。
美久は、もう何も言わなかった。
ただ、羨ましそうに見つめるだけ。
(みんな、ちゃんと居場所があって)
安心して眠れる場所。
帰る場所。
自分の布団。
別の部屋では、猫たちが食事をしていた。
ちゃぶ台を囲んで。
正座...はできないので、独特の座り方。
後ろ足を横に流して、前足をテーブルについて。
箸を使おうとして、失敗している猫もいる。
前足の肉球では、箸を持つのは至難の業。
何度も落として、イライラしている。
「にゃーもう!」
癇癪を起こして、結局舌で直接舐める。
他の猫たちが、くすくす笑っている。
人間のような笑い方。
肩を震わせて、目を細めて。
でも、楽しそう。
家族のように。
温かい食卓。
美久の胸が、また痛んだ。
鋭い痛み。
羨望の痛み。
(私には、ああいう風景がない)
一人の食事。
カップ麺をすする孤独な時間。
テレビの音だけが相手の、寂しい食卓。




