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第54話 祢古屋旅館への道
猫たちに囲まれながら、美久は町の中心部へ向かった。
もう、周りの景色を見る余裕もない。
ただ、足を前に出すだけ。
右足、左足、右足、左足。
機械的な動き。
心ここにあらず。
道中、美久は小さな声で呟いた。
「みんな、幸せそうですね」
黒猫が答えた。
「まあ、それなりに」
「いいな」
美久の声に、羨望が滲んだ。
心の底からの羨ましさ。
羨ましい。
居場所がある猫たちが。
仲間がいる猫たちが。
受け入れられている猫たちが。
人間をやめてでも、ここにいることを選んだ人たちが。
「私も、仲間が欲しかった」
ポツリと漏らした本音。
22年間、押し殺していた願望。
黒猫は、言葉に詰まった。
この人間の孤独が、痛いほど伝わってきた。
ずっと一人で。
ずっと拒絶されて。
それでも、猫を愛し続けて。
諦めずに、信じ続けて。
そして、やっと辿り着いた場所でも...
「君は...」
黒猫が何か言いかけた時、大きな建物が見えてきた。
木造三階建て。
堂々とした和風建築。
「祢古屋」という看板。
達筆な文字が、夕日に照らされている。




