第43話 衝撃の店員
店の奥に、カウンターがあった。
木製のカウンター。
年季が入っているが、きれいに磨かれている。
その奥に、人がいる。
いや、人...?
エプロンをつけて、直立している。
紺色のエプロンに、猫のアップリケ。
体は人間。
標準的な体型の、成人男性のような体。
シャツを着て、エプロンをつけて、普通に立っている。
でも、頭は完全に猫。
トラ猫模様の、大きな頭。
耳はピンと立ち、髭は左右に広がっている。
瞳孔は縦長。
「いらっしゃいませ」
猫頭の店員(?)が、はっきりと日本語で言った。
流暢な標準語。
接客業特有の、明るい声色。
そして...
接客スマイル(?)まで浮かべている。
口角が上がり、目が細められている。
猫の顔で、人間の笑顔を作っている。
その光景は、シュールを通り越して不気味だった。
美久の思考が、一瞬停止した。
脳が、情報処理を拒否している。
これは、理解の範疇を超えている。
(猫が...喋った...それも接客...)
エプロン...
笑顔...
「いらっしゃいませ」...
すべてが、異常。
でも、同時に妙にリアル。
作り物には見えない。
特殊メイクでも、着ぐるみでもない。
本物の、生きている存在。
恐怖と歓喜が、同時に襲ってくる。
心臓が、早鐘のように打つ。
呼吸が浅くなる。
手のひらに、冷や汗がにじむ。
でも、美久の反応は...
「喋った〜!すごいすごい!」
目をキラキラさせて、カウンターに駆け寄ろうとする。
一歩、二歩...
そして、見えない壁にぶつかった。
2メートルの壁。
それ以上は、どうしても近づけない。
まるで、強力な斥力が働いているかのように。
店員は困惑した表情を浮かべた。
猫の顔で困惑の表情。
眉間(?)にしわが寄り、耳が後ろに倒れる。
髭がピクピクと震える。
シュールを通り越して、もはや芸術的だった。
「あの...驚かないんですか?」
店員の声には、明らかな戸惑いが含まれていた。
「驚いてる!でも嬉しい方が大きい!」
美久は、興奮で顔を紅潮させていた。
頬が真っ赤で、目が輝いている。
「ねえねえ、注文できる?カフェラテある?ミルクたっぷりがいいな!」
「...は?」
店員は完全に調子を狂わされた。
この状況で、普通にカフェラテを注文する人間。
想定外もいいところだった。
22年間、様々な客を相手にしてきた(?)が、こんな客は初めてだ。
「普通、この状況でカフェラテは...」
「じゃあ、ミルクでもいい!」
「いや、そういう問題じゃ...」
店員は、完全に対応に困っていた。
マニュアルにない状況。
猫頭を左右に振って、他の猫たちに助けを求めるような視線を送る。
でも、他の猫たちも固まったまま。
全員が、美久を凝視している。




