第30話 ラジオからの声
エンジンをかけると、切ったはずのラジオが勝手についた。
ザザザ...
激しい雑音。
「?」
美久は、ラジオのスイッチを確認した。
確かにOFFになっている。
なのに、音が出ている。
スピーカーから、砂嵐のような音が流れ続ける。
ザザザ...ザ...
雑音の中に、時々何かが混じる。
耳を澄ます。
「...こっち...」
美久は、ハンドルを握る手に力を込めた。
確かに、声だ。
「...おいで...」
女性の声?いや、判別できない。
男性とも女性ともつかない、中性的な声。
(掲示板で見た『呼ばれる』という体験談...これか)
「...待ってる...」
美久の背筋が凍った。
これは、明らかにおかしい。
電波が届かない場所で、OFFのラジオから声が聞こえる。
物理的にありえない。
でも、声は続く。
「...もうすぐ...」
「...そこを右...」
指示?
道案内?
美久は混乱した。
従うべきか、無視すべきか。
でも、他に頼るものがない。
地図は大雑把すぎて、現在地が分からない。
ナビは死んでいる。
道は一本だけ...と思っていたら、分岐が現れた。
分岐点
「え?」
さっきまで一本道だったはずなのに、目の前にY字路がある。
左は、今まで通りの舗装道路。
右は、細い砂利道。
「...右...」
ラジオの声が、また聞こえた。
右の道を見る。
明らかに、車が通ることを想定していない道幅。
雑草が生い茂り、轍の跡もほとんどない。
でも、なぜか惹かれる。
(老婦人の地図にも『右へ』って書いてあった)
「こっちか...」
美久は、半ば夢遊病者のようにハンドルを右に切った。
タイヤが砂利を踏む音が、車内に響く。
ガリガリ、ゴトゴト。
車体が激しく揺れる。
「うわ、すごい」
でも美久は、もう後戻りする気はなかった。
むしろ、確信めいたものを感じる。
(こっちだ)
根拠はない。
でも、体が知っている。
ここを通るべきだと。




