第28話 奇妙な発見
車を走らせながら、美久は周囲をよく観察することにした。
パニックになっても仕方ない。
冷静に、状況を分析しよう。
すると、道路脇の木々に気づいた。
「これ...」
木の幹に、爪痕のような傷がついている。
それも一本や二本じゃない。
視界に入るすべての木に、規則的な間隔で。
(ネットで見た『猫の爪痕』の報告と同じだ)
美久は、また車を停めた。
恐る恐る近づいて、傷を詳しく観察する。
爪痕は深く、鋭い。
新しいものから古いものまで様々。
古い傷は、樹皮が盛り上がって治癒しかけている。新しい傷は、まだ樹液が滲んでいる。
そして...
「これ、文字?」
よく見ると、爪痕が文字を形作っているように見える。
判読はできないが、明らかに何かのメッセージ。
規則的すぎて、動物の単なる爪とぎとは思えない。
まるで、誰かが必死に何かを伝えようとしているような。
(掲示板で見た『名前を刻んでいる』という書き込み...まさか)
美久の手が、震え始めた。
(帰った方がいいかも)
初めて、撤退を考えた。
22年間の夢よりも、命の方が大事だ。
でも...
帰る道がない。
後ろを振り返っても、やはり深い森。
前に進む以外、選択肢はない。
「しっかりして!せっかくここまで来たのに!」
美久は、自分の頬を軽く叩いた。
パシッ。
痛みで、少し正気を取り戻す。
恐怖を、無理やり興奮に変換する。
これは美久が子供の頃から身につけた、心の護身術だった。
怖いものを、面白いものに。 異常を、特別に。 恐怖を、冒険に。
「面白い〜!暗号みたい!」
声に出して言う。
自分に言い聞かせるように。
でも、声が震えているのは隠せなかった。
声が、森の静寂に吸い込まれていく。
反響もない。
まるで、森全体が音を飲み込んでいるような。




