第25話 ナビの異常
10時頃、出発から2時間が経過した頃、最初の異変が起きた。
「GPS信号を探しています」
ナビの画面に、見慣れたメッセージが表示される。山道ではよくあることだ。
でも、5分経っても、10分経っても、GPS信号は回復しない。
「あれ?」
美久は、ナビの画面をタップしてみた。
反応なし。
もう一度、今度は少し強めにタップ。
やはり反応なし。
画面は点いているが、フリーズしたように動かない。現在地を示す矢印は、さっきの場所で止まったまま。
「壊れた?」
(ネットで見た『GPSが正常に作動しない』って、これか)
美久は、調査で得た情報を思い出した。『消えた地名アーカイブ』に書かれていた注意事項の一つ。
でも、道は続いている。
一本道だし、迷うことはないはず。林道の入り口も、もうすぐのはずだ。
「まあ、いっか!予想通りだし」
美久は気にしないことにした。スマートフォンもあるし、最悪の場合はそっちで確認すればいい。
でも、スマートフォンを確認すると...
「圏外」
電波のアンテナ表示が、無情にも「圏外」を示している。
「山奥だからね〜」
(これも予想通り。『携帯電話の電波が届かない』って書いてあった)
楽観的に考える。でも、心の奥底では、小さな不安が芽生え始めていた。
それから、さらに30分。
風景が変わってきた。
人家が完全になくなり、深い森に入った。
道も細くなってきた。かろうじて車2台がすれ違えるくらいの幅。ガードレールもなく、路肩のすぐ向こうは急斜面。
すれ違う車もない。
最後に対向車を見たのは、いつだったか思い出せない。
静寂が、美久を包む。
エンジン音だけが、単調に響く。
ラジオも、いつの間にか雑音しか流れなくなっていた。
ザザザ...ザーッ...
砂嵐のような音。時々、何かの音声が混じるような気がするが、聞き取れない。
「電波、届かないんだ」
美久は、ラジオを切った。
急に、車内が静かになる。
エンジン音と、タイヤが路面を転がる音だけ。
その静寂が、逆に不安を増幅させる。
(なんか...怖い)
初めて、恐怖を認めた。
22歳の女性が、一人で山奥を走っている。
携帯は圏外、ナビは故障、ラジオも入らない。
もし何かあっても、助けは呼べない。
(でも、引き返すわけにはいかない)
ここまで来たんだから。
高いレンタカー代も払ったし、猫グッズもたくさん買った。
何より、2ヶ月間準備し続けた夢が、もうすぐそこにあるかもしれない。
美久は、アクセルを踏み続けた。




