第24話 さらに山奥へ
車に戻り、再び走り始める。
道は、どんどん山深くなっていく。
標高が上がるにつれて、気温も下がってきた。さっきまで暖かかった春の陽気が、少しひんやりとしてくる。
民家も少なくなり、コンビニなんてとうの昔に見なくなった。最後に見た自動販売機も、もう30分は前のこと。
「秘境感が出てきた」
両側に迫る山々。うっそうと茂る杉林。時折見える谷底には、清流が流れている。
(ネットで見た『アクセス困難』という情報は本当だった)
美久は、調査で得た情報と実際の状況を照らし合わせながら運転していた。
『県道から林道に入り約5km』という記述。今のところ、その通りの展開だ。
そして、また猫との遭遇。
今度は道路の真ん中に、茶トラが寝そべっていた。
アスファルトの上で、完全にリラックスしている。お腹を上にして、前足を曲げて、まるで人間のような寝相。
「危ない!」
美久は急ブレーキを踏んだ。
キキーッ!
タイヤが悲鳴を上げて、車が急停止する。シートベルトが胸に食い込んだ。
茶トラは悠然と立ち上がり、美久の車を見た。
そして、明らかに嫌そうな顔をした。
眉間(?)にしわを寄せ、目を細め、口元が「へ」の字に曲がっている。
人間みたいな表情で、「めんどくさい奴が来た」という顔。
いや、もっとはっきり言えば「またお前か」という顔。
(ネットで見た『人間みたいな表情』って、これのことか)
美久の胸に、鋭い痛みが走った。
(そんな顔しないで...)
初対面のはずなのに、なぜか既視感がある拒絶の表情。
茶トラは大儀そうに道路脇に移動した。
わざとらしくゆっくりと。のそのそと。
一歩歩いては美久を見て、また一歩。まるで「どうせ近づけないくせに」と言っているかのように。
「ごめんね〜」
美久が窓から顔を出すと、茶トラは一目散に逃げていった。
今度は崖を駆け下りて、谷底の方へ。危険な逃走ルートを選んでまで、美久から離れたいらしい。
やはり、いつものパターン。
(でも、表情が豊かだった。ネットの情報は正しい)
車内で、美久は深呼吸をした。
ハンドルを握る手に、無意識に力が入る。握りすぎて、指の関節が白くなっている。
(大丈夫。きっと祢古町は違う)
でも、確信が少しずつ揺らいでいく。
もしかしたら、祢古町でも同じかもしれない。
いや、もっとひどいかもしれない。
(ダメダメ、ネガティブ禁止)
美久は、頭を振って邪念を払った。




