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第23話 最初の猫

8時30分頃、県道を走っていると、最初の「猫との遭遇」があった。


カーブを曲がった先の道路脇に、何か動くものが見えた。


「!猫だ!」


三毛猫が、道端の草むらをゆっくりと歩いている。


朝日を浴びて、三色の毛が美しく輝いている。白、茶、黒のパッチワーク模様。尻尾をピンと立てて、優雅な足取り。


(ネットで見た通り、本当に猫が多い地域なんだ)


美久は慌てて車を路肩に停めた。ハザードランプを点けて、深呼吸。


「にゃんこ〜!」


車から降りて、ゆっくりと近づく。


足音を立てないように、そろそろと。まるで、獲物に忍び寄る肉食獣のように...いや、違う。友達になりたい一心で、慎重に距離を詰める。


三毛猫は立ち止まり、美久を見た。


美しい三毛模様。つやつやの毛並み。アンバー色の瞳。朝日を反射して、黄金色に光っている。


(きれい...)


美久は、息を殺して近づいた。


10メートル。 足がすくむ。でも、前へ。


8メートル。 三毛猫の耳がピクリと動いた。警戒のサイン。


6メートル。 心臓がドキドキする。手のひらに汗がにじむ。口の中がカラカラに乾く。


(お、今日はいける?)


期待を込めて、さらに一歩。


残り5メートル。


三毛猫が美久をじっと見た。


瞳孔が少し細くなる。尻尾が不安げに揺れ始める。


一瞬の硬直。


美久も、三毛猫も、動かない。


まるで、時間が止まったような感覚。風が吹いて、道端の草がさわさわと揺れる音だけが聞こえる。


美久の心臓が止まりそうになる。


(お願い、逃げないで)


心の中で必死に祈る。


そして——


ダッシュ!


三毛猫は、信じられない速さで山の斜面を駆け上がった。まるで、地面を蹴らずに飛んでいるような軽やかさ。あっという間に、木々の間に消えていく。


「あー!待って〜!」


美久の声は、虚しく山にこだました。


声の反響が、いくつもの山々に跳ね返って返ってくる。まるで、山全体が美久の失望を増幅させているような。


一人残された美久は、その場に立ち尽くした。


膝から力が抜けそうになる。


(やっぱり...)


胸が、ギュッと痛む。鋭い痛みではなく、じわじわと締め付けられるような鈍い痛み。


でも、美久はすぐに気持ちを切り替えた。これも、長年の経験で身につけた心の護身術。


「...まあ、祢古町に着けば大丈夫だよね」


声に出して自分に言い聞かせる。


ネットの情報では、祢古町は特別な場所のはず。きっと、普通の野良猫とは違う。


でも、声が少し震えていることに、美久は気づかないふりをした。


車に戻って、エンジンをかけ直す。


バックミラーに映る自分の顔を見る。少し青ざめているが、無理やり笑顔を作る。


「大丈夫、大丈夫。調査した通り、もっと奥に行けばきっと...」


呟きながら、アクセルを踏んだ。

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