第21話 いよいよ出発
8時ちょうど、エンジンスタート。
軽自動車特有の、少し高い音のエンジン音が響く。
「祢古町、祢古町〜♪」
鼻歌まじりにナビに目的地を入力しようとして、最初の問題に直面した。
「あれ?出てこない」
タッチパネルに「祢古町」と入力しても、候補が表示されない。
「ねこまち...ネコマチ...猫町...」
ひらがな、カタカナ、漢字、すべて試したが、結果は同じ。
「そっか、地図に載ってないんだった」
2ヶ月間の調査で分かっていたことだ。美久は老婦人からもらった手描きの地図を取り出した。
和紙は少し黄ばんでいるが、墨で描かれた線ははっきりと見える。
大雑把だが、方角は分かる。
北東方向へ、山に向かって。
途中の目印も描かれている。
大きな楠の木 赤い鳥居(稲荷神社?) 石橋 「右へ」の文字 最後に「祢」と「音無」
「冒険みたい。ちょっとドキドキする」
心臓が高鳴る。不安なのか期待なのか、自分でも分からない。多分、両方。
でも、2ヶ月間の準備が自信をくれる。きっと大丈夫。
「よし、出発!」
アクセルを踏む。
車は、朝の街をゆっくりと走り始めた。
信号待ちの間に、ラジオをつける。
『おはようございます!今日も素敵な週末の始まりです!天気は全国的に晴れ、絶好の行楽日和となりそうです』
DJの明るい声が車内に流れる。
「うん、素敵な一日になる!」
美久は、DJの声に答えた。一人でも、会話している気分になれる。
『それでは、リクエスト曲をお届けします。「猫ふんじゃった」...あ、違いました。「春の歌」です』
「猫ふんじゃったも聴きたかったな」
美久は笑いながら、ハンドルを握る手に力を込めた。
2ヶ月間の夢が、今、現実になろうとしている。




