第20話 レンタカー店にて
7時30分、レンタカー店に到着。
朝一番の営業開始時間に合わせて来たが、すでに数人の客が待っていた。土曜日の朝から出かける人は意外と多い。
「おはようございます!予約していた相沢です!」
美久の元気な挨拶に、若い男性店員が眠そうな顔で対応してくれた。まだ完全に目が覚めていないようで、あくびを噛み殺している。
「相沢様...ええと、軽自動車のご予約ですね」
「はい!一番安いやつで!」
本当は、もっと大きな車が良かった。でも、予算を考えると軽自動車が限界。それでも、車があるだけでありがたい。
手続きを進めながら、店員が聞いてきた。
「本日はどちらまで?」
「えっと...山の方をドライブしようかと」
曖昧に答える。「祢古町」と言っても、どうせ知らないだろうし、説明するのも面倒だ。というより、説明できない。
「山道でしたら、お気をつけくださいね。この時期はまだ路面が凍結している場所もありますから」
「はい、気をつけます!」
契約書にサインをして、いよいよ車のキーを受け取る。
駐車場に案内されると、そこには白い軽自動車が待っていた。
スズキのワゴンR。少し古い型だが、きれいに整備されている。
「相棒、今日はよろしくね」
美久は、車のボンネットを優しく撫でた。まるで、生き物に話しかけるように。
荷物を積み込む作業は、パズルのようだった。
助手席には猫グッズ満載のバッグ。いつでも取り出せるように。 後部座席にも予備の猫用品が山積み。 トランクには、それ以外の荷物をぎっしり。
「忘れ物ないよね...あ!」
美久は慌てて、もう一度バッグを確認した。
「猫の絵本!これも持っていこう」
車に戻って、ダッシュボードの下から取り出したのは、古い絵本。
『ねこのまち』
表紙は色褪せ、角は擦り切れている。幼い頃から大切にしている絵本で、美久が文字を覚えたのもこの本だった。
内容は単純。人間の女の子が、猫だけが住む不思議な町に迷い込む話。そこで猫たちと友達になって、楽しい時間を過ごす。最後は人間の世界に戻るが、「またね」と約束して別れる。
「今思えば、予言みたいな話だなあ」
絵本を助手席の見える場所に置く。なんとなく、縁起が良さそうで。




