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猫又の育て方  作者: 猫アレのベル
異形達
25/26

24.ソラ

■前回のあらすじ

・侵入してきた黒コートの男を迎撃しようと動いた長達。

 しかし、長級のたまが妖力切れを起こすほどの猛攻ですら黒コートの男には傷一つ負わせることが叶わなかった。

 焦る長達の中心で顔色一つ変えないサキが意味する事とは?


「…………すー……すー……」


 妖気をたまに注ぐと、比較的にすぐに荒い息遣いは収まり、安らかな寝息が聞こえてきた。

 どうやら大事は無いようだ。


「も、申し訳ないです。私も必死だったもので……」


 黒コートの男がたまの様子を見て謝っていた。

 その表情は、俺が見る限りでは罪悪感を感じている顔である。

 ミケ、小次郎はその謝罪に対し、何も答えずたまの様子を伺っていた。

 二本の尾がパタパタと地面を叩いているのを見る辺り、許してはいないらしい。


「さて……猫又の心解しんかいが使えないのは少し面倒ね」


 サキがいつもの口調で聞き慣れない単語をぽつりと呟く。

 他の長たちが臨戦態勢を崩さない中、サキだけが何も身構えていない。

 この差は何なんだろうか。

 少なくとも長三妖よりも力を持っている黒コートの男に対し、何も警戒をしていないように見える。


 警戒するほどの相手でも無いというのだろうか?

 何にせよ他の長たちは未だ警戒しているのだから俺が警戒を解く理由はない。

 警戒したところで何が出来るわけでもないのだろうが……。


「サキ様、いかがなさいますか?」


「そうね、とりあえず話合いましょうか」


 かなめの問いにサキがようやく立ち上がった。

 話合いと聞くと、お互い座ってするものだと思っていたが妖怪の世界では違うのだろうか……?


 いや、長たちは先ほどまで座りながら話をしていたではないか。

 そうなると、何か別の意図があるのだろう。


「まず、こちらは謝るつもりは無いわ。勝手に入ってきたのだから当然でしょ?」


「は、はいぃ~」


 何とも情けない声である。


「それじゃあ、初めにここに来た理由でも聞きましょうか?」


 そこから始まったサキの尋問ともとれる質問の数々が黒コートの男の正体を徐々に暴いていく。

 話合いとは何だったのか、それほどまでに黒コートの男を責めるかのように問いを重ねる。


「ふ~ん?」


 尋問の結果、黒コートの男はよく分からないという事が分かった。

 男に名は無い。

 知らない地で生まれ、定住地を求め様々な地を旅して来たのだとか。

 足が進む方へぶらりぶらり、何も考えずに進んで行き着く先には必ず強力な力を持った妖怪がおり、今回も足の動くまま歩みを進めこの長の間にたどり着いたと言う。


 いつもは意識して足の向く方とは逆の方へ行くそうなのだが、今回はこの地の心地良い雰囲気に呑まれて来てしまったそうだ。


「もう少しまともな嘘を言うたらどうじゃ?」


「う、嘘じゃないですぅ~!」


 黒コートの男の表情は焦っていた。

 俺が見る限りでは嘘をついているようには見えない。


「で、能力は?」


「そ、それは……」


 様々な能力を使用出来るらしいが、突然使えるようになったり気づいたら使えなくなったりするとのことだ。

 積極的に使おうとしない事も災いし、能力に関しても明確な事はあまり把握していないらしい。

 そのため能力は上手に使えないと言う。


 ただ、先ほどのたま、モモ、ソウヨウの攻撃を耐えた時のように、身に危険が及んだ際には身を守るために様々な能力が半ば勝手に出るのだとか。

 防衛本能だろうか。


 しかし、自分の能力くらい把握しているものではないのか?


 ……いや、そうでもないのかもしれない。

 うちのクロも妖気の出し方を知らなかったように誰かに教えてもらわないと出来ることも出来ないのかもしれない。

 よくよく考えれば、人間も似たようなものだ。教えてもらわずに上手に泳ぐことはままならないだろう。

 要するに妖怪の能力とは“技術”なのだ。


 人間と妖怪でも通ずるものがあるのか、と一人納得している間にも会話は続く。


「よくそんな状態で今まで生きてこれたわね」


「いやぁ~運が良かったのですかねぇ~」


 黒コートの男の言葉にサキは、そんなわけないでしょ、と小さな声で吐き捨てるかのように呟いた。

 そのサキの言葉に黒コートの男は特に何かを感じた様子は無く、むしろキョトンとした様子であった。


「貴方……そんなんじゃ自分の種族も知らないんじゃないの?」


「知っているのですかっ?! 私の種族をっ?!」


 今までの間延びした口調とは打って変わり、人が変わったかのように声を荒げた。

 警戒していた長たちも流石にそれには少し驚いたようで、目を丸くする。


「教えてあげるから少し落ち着きなさい」


「し、失礼しました……」


 サキの注意に黒コートの男はすぐに鎮静化した。

 その様子は注意を受けた気弱い生徒のようであった。

 そんなサキと黒コートの男のやり取りに、長たちの警戒も少しは解けているようだ。


「と、教える前に一つ聞くわ」


「は、はいぃ~なんでしょうか?」


「貴方、生まれてどのくらいになるのかしら?」


「そ、そぉですねぇ~……」


 黒コートの男が斜め上を見ながら何やら考えている。

 考えるほど年を取っているのだろうか?

 見た目は若いが……いや、ちょっと待て。


 妖怪は一度死んでから妖怪として生まれ変わるとシロは言っていた。

 あの時は何も思わなかったが、今一つの疑問が湧く。クロ、ミケ、小次郎は青年のような姿だが、たまやセンの容姿は幼い。

 問題はそのたまやセンだ。


 なぜ生まれたばかりのクロよりも幼い容姿の者がいる?

 死んだ際の年齢相応の姿であれば、十六年以上生きたクロは人間の感覚では合っているだろう。

 だが猫の十六年というのは老生期――老猫なのだ。

 仮に容姿が人間の尺度で測ったとしても、二妖も幼い容姿の〝長″がいるのは少し不自然だ。

 生まれた容姿が幼かったとしても、長に就くまでに相応の時間はかかるだろう。

 それまでに幼い容姿は成長するはずだ。


 たまやセンが最近長に就いたという偶然も無くは無いが……。


「……細かい年数は分かりませんが」


 答えの出ない疑問をグルグル頭で考えていると、黒コートの男がやっと口を開けた。


「五十年ほどぉ……になるでしょうかぁ?」


 五十年!?

 ど、どう見ても二十、三十歳の見た目じゃないか。


「そう……若いわね」


 若いのっ!?

 え、見た目が若いってこと? それとも五十年が若いってこと?


「「…………」」


 そばにいたミケ、小次郎に何が若いのか教えて貰おうとグリンと勢いよく顔を向けてみるが、帰ってきたのはいつもの視線だった。


「――おごっぉ!」


 ケチ、意地悪など、拗ねた感情を冗談で思っていたら冗談では無い痛みがわき腹を襲ってきましたので、猫又たちにはもうそんな感情を一切持たない事を誓わせていただきました。


「じゃあ、約束通り教えるわ」


「は、はい」


 サキは語る。

 黒コートの男の妖怪の種族の名前は“ぬえ”。

 能力は妖気を奪うこと。

 更に奪った妖気を用いて能力を使用できること。


 ぬえという種族の個体数は極めて少なく、サキでも見た事があるのは今回で二度目だという。

 能力も妖気を奪うことしか知らなかったが、黒コートの男の今回の話から奪った妖気を使用出来ると推測した。

 その能力の説明に長たちはざわつく。


「……サキ、こやつが成熟する前に今この場で絶つべきじゃ」


「そうです。貴女以外の者が全員魂を返してもそれだけの価値があります」


「死ぬ気はさらさらねぇがなっ!」


 サキ以外の全ての者が臨戦態勢を取る。

 その眼には殺意を灯し、己の牙をちらつかせ、全身に妖気を纏い今にも飛び掛かんばかりの前傾姿勢だ。

 俺に向いてないはずの殺意たち。

 それなのに全身の鳥肌は止まらなかった。


「はいはい、止め止め。碌なことにならないんだから収めなさい」


 そんな長たちをサキは呆れたような声で静める。


「しかし――」


「しかしじゃない。あんたらは少し黙ってなさい」


 モモの言葉を遮り、サキは静かに怒りの言葉を述べた。

 先ほどのまで殺意が激情であれば、こちらは冷徹な怒気。

 冷や汗が止まらない。


「っ……」


 長たちが静かになったことを確認し、サキは怒気を収め黒コートの男に口を開く。


「取引をしましょう」


「と、取引ですかぁ~?」


 殺気が残るこの雰囲気に、自分の雰囲気を崩さなかった黒コートの男は大したものだ。


「そう。私たちからは貴方の“名”と“居場所”を。貴方からは“力”を。どう?」


「サキッ!!」


 声を荒げたのはやはりモモだった。

 そのモモに対しサキは「うるさいうるさい」と聞き耳を持たず手を軽く振りながらあしらう。

 会話に入ってくるなとも取れる冷たい態度に見えた。


「あ、ありがたい申し出なのですが~……歓迎されていないよぉなので……」


 他の長達の様子を見てか、黒コートの男の返答は何とも日本人らしい断り方をしていた。

 自分が原因で争いが起こりそうになりそうであれば、申し訳ないので争いが起こらない方を選択する。

 流れを見て自分の意見を変える、何とも気弱な日本人らしい選択だった。


「私も馬鹿じゃない。貴方が歓迎されないことくらい分かってる。でも、貴方が取引を望むのならば、ここにいる長たちが納得せざるを得ない条件の提示くらい出来るわ」


 サキは黒コートの男の一次返答には答えず、二次返答の答えを求めた。


 一方、他の長達はサキに口で何を言っても無駄だと諦めたのだろう。

 口ではなく目でサキに物申している。

 全長が鋭い視線をサキに向けているが、サキは何も気にした様子が無い。

 本当に何をやっても駄目なようだ。


 そして、いつの間にかシンの口には青い炎があった。

 静かだと思ったが、どうやらそういうことらしい。


「……じ、条件とは~?」


 この状況の中、長達の様子に触れずにサキと対話している黒コートの男はやはり大した奴だ。


「それは取引を望んでからの話」


「…………」


 黒コートの男は目線を下げ沈黙した。

 その黒コートの男にサキは最後の言葉を投げる。


「さあ、貴方は名と居場所のために己の“全て”を差し出すかしら?」


 ……あれ?

 いつの間に“力”から“全て”に変わったんだ?

 どこか聞き漏らしたか?


「私は……いえ」


 そんなことを考えている数秒の後、黒コートの男は顔を上げ口を開いた。


「私に居場所を下さい」


 黒コートの男はハッキリと自らの望みを口にした。

 表情には強い意志、体は微動だにせずサキの返答を待つ。


 その雰囲気に思わず生唾を飲み込みそうになる。

 が、その動きすら許されない空気が張り詰めていた。

 そんな空気を破ったは当然サキだった。


「よろしい! では貴方は今から“ソラ”と名乗りなさい! 果ての無い空を漂うように自由に生きなさい、ソラ!」


「は、はいっ!」


 妖怪の名付けの瞬間であった。


■登場人物紹介

【ぬえのソラ】

・黒髪で黒いコートを纏った妖怪。

・妖怪の妖気を奪い、奪った妖気でその妖怪が使用する能力を行使する。

・名と居場所を得る事を条件にサキの傘下に降る。

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