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猫又の育て方  作者: 猫アレのベル
異形達
24/26

23.黒コートの男

■前回のあらすじ

・『長に必要なモノは何か』それを恭介が伝えていた時、突然背後から男の声が聞こえた。

 恭介の背後、それは長の間を出入りする鳥居であり、長の間への侵入者であることを意味していた。



 刹那、鋭い風達が後ろへと吹いた。


 一瞬見えたのは、たまの鋭い爪、モモの赤く巨大な拳、ソウヨウの輝く青い角だった。

 見えたのはほんの一瞬だが、横を通って行った長達は殺意の塊であった。


 そして、いつの間にかサキの前にはその他の長達が立っていた。

 巨大な猛禽類へと変態したサイ、手足に緑色の風を纏わせたシン、眼を黄色に輝かせたすみれ、体から液体を分泌させ全身をぬらすセンだ。


 そこに少し遅れて先ほどまで俺たちのそばにいたミケと小次郎が慌てた様子でサキの近くに移動していた。

 各々が一瞬で臨戦態勢を取り、先ほど声のした俺の後ろを警戒している。


 そんな時、俺とクロは何をしていたか。


 何もしていなかった。

 いや、何も出来なかった。

 後ろから男の声がしたと思った時には既に長達は行動を起こしており、長達の殺気に当てられてしまったというのもあるのだろうが何が起こったのか瞬時には理解出来なかったのだ。


「呆けるなっ!!」


「ぐおっ!?」


「ぎにゃっ!?」


 そんな俺たちにたまの鋭い声。

 その声と共に臀部には暴力的な衝撃が走り、俺の体は前方へ吹き飛ばされていた。

 ゴロゴロ盛大に転がり、ようやく止まったそこは長達が囲んでいた焚火の前だった。


「ぐっ……ぉ……っぐ……ぅ……」


 危うく焚火に突っ込みそうになった、とかそんな些細な事はどうでも良い。

 面白い程にゴロゴロ転がっただとか、全身土まみれだとか、そんな小さな事はどうでも良い。


 お尻が鮮烈に熱い。

 余りの熱さに発火しているのではないかと不安になるほどに熱い。

 そんな灼熱の痛みに思わずお尻を押さえたくなるが、押さえたら押さえたで刺激的な感覚が脳に響く。


 そのため、手はお尻に触れるか触れないかの位置を保つ。

 更に横になるとお尻に素晴らしい感覚が走り回るため、無意識に頬を地面に擦り付けながらお尻を天に向けるという格好をしていた。


 あまりにも滑稽な姿だとかそんな小さな事はどうでもいい。

 お尻が痛いのだ。


「にゃあ゛……ぁ゛あ……ぁ……あ゛ぁ゛……」


 クロの呻き声が耳に入り、擦り付けていた頬を変えればクロも同じような格好をしていた。

 唯一違うのは地面にキスをしていること位だろう。


「ぐ、おおぉ……」


 クロの無事をとりあえずは確認した俺は、次に俺たちに何が起きたのかを確認すべく顔を後ろに向ける。

 先ほどから後方で攻撃音が響き続けているのだ。


 より一層頬に地面を擦り付けることでどうにか後ろを向けた俺の目に飛び込んでいたのは、攻撃し続ける長達とその攻撃の中央に立つ黒いコートを着た男だった。


 驚くことにその黒コートの男は長達の攻撃を受けながらも立っている。

 長い黒いコートのせいで体のラインをしっかりとは確認出来ないが、それでもやすぎすな体型をしているのは見て取れる。


 俺と大して変わらない細身の体型で長達の攻撃に耐えられるはずが無い。

 だが、黒コートの男は長達の猛襲に耐えていた。


 少し見ればその原因はすぐに分かった。


 長達の攻撃が少し変なのだ。

 黒コートの男に直撃する瞬間に長達の攻撃速度が遅くなっている。

 それに加え、その攻撃自体にも変化が起きている。


 猫又のたまで言えば、能力で伸ばしていたはずの爪が黒コートの男に触れる頃には本来の長さに戻ってしまっている。

 鬼熊のモモであれば、妖怪の能力で変化したであろう赤黒く肥大化した腕が、たま同様に黒コートの男に触れる頃には元の姿の毛深く太い腕になってしまっている。


 まるで自ら能力を解いているかのようであった。


 ただ、そんな攻撃でも完全に無力化されているわけでは無いようで、長達が攻撃を当てる度に黒コートの男はよろけ焦った表情をしている。


「ひぃっ~!」


 気の抜けるような悲鳴だが、声にはしっかり焦りの感情は乗っているようだ。


 ただ、焦りの感情というのは長達も同様のようだ。

 攻撃し続ける長達もそうだが、サキの前で守るように立つ長達の表情が険しい。

 長級三妖の猛攻撃を受け、無事でいる存在というのは考えるまでも無く警戒すべき事象なのだろう。


「ふーん、やっぱり勝てそうには無いわね」


 ぽそりとサキが口にする。

 それは他の長達とは異なり、この状況に何ら焦りも不安も抱いておらず、さも当たり前かのようないつもの声だった。


 思わずその場にいたクロ以外の者がサキの顔を見た。


 そんなサキに誰かが口を開く前に、そこへ焦った様子のかなめが近寄って来た。

 そして、厳粛な顔でかなめが報告をする。


「サキ様申し訳ございません。唐突な加速で対象を見失い、察知した際には既にこちらに侵入を許してしまった後でございました」


「別に良いわよ。野放しにしていたのは私の判断だし」


 それをサキはかなめの方を見ずに何の問題も無いかのように流した。

 その様子は、自分のミスの責任も負えず、どうでも良いかのようにあしらわれているように見えてしまい、少し可哀そうに思えてしまった。


「はいはい、そこまで。ほら、三妖とも戻って来なさい」


 サキのその軽い声にたま、モモ、ソウヨウがすぐに戻ってきた。

 三妖とも肩で息をしながらも黒コートの男の方を警戒している。

 たまは二妖と比べ苦しそうで、膝を突いてしまうほどだ。


「び、びっくりしましたぁ。死ぬかと思いましたよぉ……」


「よく言うわね。怪我すらして無いのに」


 サキの言う通り、黒コートの男には傷一つついていない。

 たま達の能力が直撃時に何故か解けるとはいえ、たまとモモは爪で、ソウヨウは頭にある鹿の角を用いてそれぞれ攻撃を行っていた。

 それなのに切り傷一つ見当たらない。


「セン、地面に転がってるのを治してあげて」


「ん」


 センが俺の後ろに回り、俺のお尻に何か生暖かいモノを垂らして来る。

 触れた箇所が猛烈に痒くなったがそれもすぐに収まり、あの痛快な感覚が収まっていく。


 センの特効薬だ。ありがたい。


 隣のクロも同様に治療を受けたようで、自分のお尻をさすっていた。


「たまは……妖力切れね。少し休んでなさい。ミケ、小次郎」


 その言葉にミケと小次郎はすぐにたまへと駆ける。

 ミケがたまの肩に触れた瞬間、たまは崩れ、ミケがそれを受け止めた。


「クロ、貴方もこちらに来てたま様に妖力を注いでください」


「にゃ?」


 クロは意味が分からなかったようで、首を傾げていた。

 そして、俺にどうすれば良いのか問うかのようにこちらを見て来る。

 これくらいは自分で判断してほしかったが、仕方ない。


「クロ、おいで。クロにも何か出来る事があるようだ」


「にゃっ」


 クロの手を掴み、たまへ近づく。


 たまは目を瞑り、汗を大量にかいていた。

 依然、肩で息をしており凄く辛そうだ。


「クロは何をすれば良い?」


「妖力をたま様に流して……いえ、とりあえずたま様に触れていて下さい」


「分かった」


 クロが意図的に妖力を流せないと判断したのか、ミケはクロに触れるようにと言う。

 それに対し、俺は急いで掴んでいたクロの手をたまに当てていた。

 たまが思った以上に辛そうだったの見て、少し焦ったのだ。


「クロ、こんな感じに妖力を出せますか?」


 ミケはそう言いながら、手の平から赤オレンジの妖気を纏わせていた。

 たまのどす黒い赤色の妖気と比べると何とも淡く綺麗な色だった。


「うー……?」


「こう……うにゃっーってやるんです」


「うにゃっー?」


「そうです、うにゃっーです」


「うー……うにゃっー!」


 擬音しかない雑な説明であったが、ふざけているわけではない。

 ミケの表情は、いつもの真面目な表情以上に硬く、冗談を言っていないことが伺える。

 そもそも、たまが苦しそうにしている状況なのだ。

 冗談を言っている場合ではない。


 ただ、「うにゃっー」擬音以外での伝え方が無かったのだろう。

 そんな伝え方でクロに伝わるのだろうか……不安だ。


「そうです。そのまま妖力を出し続けて下さい」


 ……そんなことを思ったのも束の間、クロの手からは手が見えないほどに濃い黒い妖気が出ていた。


 あんな表現で出来てしまうとは……もしかしたらミケとクロはフィーリングが合っているのかもしれない。

 いや、もしかしたら先ほどの「うにゃっー」という言葉にはちゃんと意味があったのかもしれない。

 日本語では「うにゃっー」という単なる擬音だが、猫の言葉の「うにゃっー」には様々な意味があり、クロはそれを理解することで妖力を出せたのかもしれない。


「「……」」


 ミケと小次郎の冷ややかな視線が突き刺さる当たり、どうやらそんなことは無いようです。


■登場人物紹介

【黒コートの男】

・長の間に侵入していたやすぎすな男。

・体に当たる前に妖怪の能力を無効化する能力は、長級三妖の猛攻にも傷一つ負わぬほどである。

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