25.首輪
■前回のあらすじ
・侵入者である黒コートの男にサキは他の長達の意見を全て無視し、名と居場所を与えた。
勿論そんな強行に納得する者達などおらず……。
「じゃあ、今日はこれで解散! おつかれ~」
「待て待て待て待て、勢いで終わらせようとするでない! 肝心な部分を聞いておらぬではないか!」
黒コートの男に“ソラ”と名付けた勢いのまま解散しようとするサキを止めたのは、当然鬼熊のモモであった。
「やっぱりダメ?」
「ダメに決まっておろう」
「はいはい、分かったわよ。じゃあ、ソラ。条件を言うからちょっとこっちに来なさい」
「は、はい~」
面倒くさそうなサキに手招きをされ、ソラは恐る恐るサキに近づいていく。
長達はサキからソラへ視線を移し、ソラの一挙一動を射殺すかのように見つめる。
サキが居場所――この場合は、仲間だろう――を与えたからと言って、独りよがりだった事もあるため、警戒心が解けないのは当然だろう。
視線が集まる中、ソラは長達から一メートルほどの距離まで近づくと歩みを止めた。
俺がもしソラと同じ状況に立たされたとしたら、間違いなく冷汗が止まらなかっただろう。
それほどに長達は威圧的であった。
近づいたソラに対しサキが何かを告げる、それを皆が想像していたのだろう。
「うぐっ」
だから、サキが大きな歩幅で近づきソラの首を掴むまで誰一人として動けなかった。
「こ、殺さないでくださいぃ~!」
ソラから上がった声は、命乞い声のはずが何とも気の抜けるものであった。
「殺さないわよ! 全く……ソラ、良い? 貴方がここに住むのには、今まで住んできた者達にとってあまりにも危険性が高い」
「そぉなんです?」
「そーなんですー。貴方と縁を結んだ瞬間、今までの力関係は崩壊したわ。それだけ貴方の能力は厄介なの。ここにいる長全員が命を投げ出す位にはね。まぁ、心強いとも言えるけどね」
「はぁ、そぉなんですかぁ」
首を掴まれながらもソラはまるで当事者ではないかのような態度であった。
図太いというか能天気というか何というか……大した奴である。
「……サキ、自覚の無い者に自分の脅威性を伝えるのは悪手であろう」
「モモ、もうソラは私達と縁を結んだの。分かったわね?」
「…………」
サキの言葉にモモは何も答えず、首も微動にしなかった。
勝手に決められたことに対し「はいそうですね」とはならないのだろう。
「はい、出来た」
サキが手を離したソラの首には、青く揺らめく炎の輪があった。
どう見ても炎で出来た首輪である。
「こ、これはぁ?」
「んー……簡単に言うと監視具、かしら? 私の許可無くソラが能力を使えば仕掛けが発動するわ。それを作るのに大量の妖力を消費するし、仕掛けが発動したらソラ自身もただでは済まないんだから気を付けなさいよ」
「は、はいぃ~!」
あの首輪がここにいる長たちが納得せざるを得ない条件なのだろうか。
「ぬぅ……それを出されては仕方あるまい」
「そうですね……最低限の安全は保障されますからね……」
「むぅー」
「――――っ!」
長達の反応を見る限りどうやらそうらしい。
声を出すことを許されていないシンだけは何やら言っているようだが、皆気にした様子はない。
「じゃが、すぐには無理であろうな。儂らが無理なのではなく、多くの者がすぐには無理なのじゃ。幾らサキが認めたとは言え、受け入れる同種族も無いのに一妖にして最大の戦力ともなれば信頼を得るにはそれ相応の時が必要じゃろうて」
「えぇ、そうね。分かってるわ」
一妖で最大の戦力……長にそれを言わせるほどまでにソラは脅威的なのか……見た目こそそうは思えないが、長全員が命を捨てようとしてまでソラを殺そうとしたのだ。
間違いではないのでだろう。
また、それほどの脅威を首輪一つで収めた事になる。
あの首輪に想像もつかないほどの強力な仕掛けがあるのは間違いない。
「だからソラ、貴方は少しの間私と共に行動しなさい。皆から信頼を得るまで私から離れることを禁ずるわ」
「――――っ!? ――――!!」
サキの言葉に反応したのはソラでもモモでもなく、未だ口を炎で覆われているシンであった。
「何よ」
「――! ――――!!」
シンはサキとソラの間に割り込み、何かを叫んでいるようであった。
その叫んでいる様子が終わりそうに無いが、サキに声が届かないことも承知で叫んでいるのだろうか。
そんなシンにサキはあからさまに億劫な表情をしながら、シンの口元の炎に向けて指先を弾いた。
「――キ! あ、戻った。おい、サキ! なんで俺だけ口を封じられなきゃいけねぇんだ!」
口元を覆っていた炎が弾け、久方ぶりに聞いたシンの声はいつも通り賑やかなものだった。
「うるさいからよ。で、何か言いたいことでもあるの?」
「ある! サキ、こいつと一緒に行動するのは危険だ! それがあるからってこいつがあぶねぇってことには変わりねぇ!」
「ふーん、で?」
「俺達を監視につけろ! 長級を二妖ほどつけでもしねぇと納得出来ねぇ!」
「ふーん、そう言うからには貴方は常に私の傍につくのでしょうね?」
「え、いや、それは面倒だ」
……素直と言うべきか、愚直と言うべきか……。
「貴方ねぇ……さっき貴方たちでソラに傷一つ付けられなかった事をもう忘れたの? そんな貴方たちが二妖いたところで何になると言うの? それにシンはともかく貴方たちそんなに暇じゃないでしょ?」
「戦力になれなくても壁役位にはなれらぁ! それに俺だって暇じゃねぇ!」
「あら、常日頃何してるの?」
「戦闘訓練だっ!」
「……他は?」
「ない!」
「貴方ねぇ……確かに種を守るために戦うのは重要よ? でも、種を守るってそれだけじゃないのよ。シン、貴方そこのところちゃんと理解してる?」
「分かってるし、やってみたが俺には向いてない! だから俺は俺が出来る事をやってる!」
なるほど、合理的だ。
すまないシンよ。
俺は少しシンの事を見誤っていたようだ。
「だからと言って衣食住、種族内の管理、種族間の交流などなど、長がすべき戦闘以外の全てを貴方の妹に任せるのはどうなの?」
訂正する。
とんだヒモ野郎だった。
「……サキよ。シンの不器用さは今に始まったことではなく、議論しても時間の無駄じゃ。そろそろ話を戻さんか?」
サキとシンが言い争い――サキがシンの欠点を挙げているだけだが――をしている横から鬼熊の静止の言葉がかかる。
気付けば話はいつの間にかサキとシンになっており、話の中心にいたはずのソラも放置されていたのだ。
ここまで放置されては流石にソラも――全く動じておらず涼しい顔をしていた。
やはりソラは大した奴だった。
「そ、そうね。で、ソラと私が一緒に生活する事は危険だから、長達を二妖は付けろって話だったかしら?」
「そうだ!」
「私は別に構わない。でも、それは他の長達が了承すればの話よね? 他の長達に聞いてみなさい?」
「そんなもの聞かなくても――」
「「「「「不要」」」」」
「――良いに決まって……なぁっ!?」
長達の返答は、否であった。
シンよ、予想外のことのように驚いているが、その会話が始まる前にほとんどの長は、その首輪が付かれた時点で脅威性は下がったと判断していたのだぞ?
先ほどサキが言っていたように、長がいてもソラを抑えることが難しい事から監視は不要と言うのも予想できたのではないか?
「シンよ、本来であればおぬしの言い分は正しい。ただのう、今回に限ってはサキに長級を付けても無意味なんじゃ。悔しいが、そやつからサキを守るだけの実力を儂らは持ち合わせておらぬのじゃ」
「そんなこと、やってみねぇとわかんねぇだろ!」
「シンよ……」
聞き分けの無いシンに長達を見つめる。
ただ、それは冷ややかでもありながら少しばかりの温かさがあるようにも感じた。
俺がその光景の意味を知るのは、ずっと後の事である。
「わかったわかった、じゃあ、とりあえずシンだけ警戒に当たるってことで良いのね?」
「それだと俺がずっとやることになるじゃねぇか!」
「そうなるわね」
「それは面倒だ!」
「面倒って貴方……他者の協力を得る前提で自分が楽しようとする考えはどうかと思うわよ?」
「? 協力は良かったのでは無いのか?」
「あー……もう」
サキはシンのその発言を受けて、頭を抱えていた。
シンの話から察するに、以前に協力という事に関して何かしらの会話があったのだろう。
だが今回のは協力ではなく他力本願なのだ。
シンはそこのところをはき違えているようだ。
「……シン、この後残りなさい。その時続きを話しましょう」
「えっー! またかよー!」
教師と出来の悪い生徒を見ているかのようだ。
「――っ!?」
そして、文句を言う生徒にとうとう教師は我慢出来なかったのか、生徒の口を炎で包んでしまった。
生徒のそんな姿は既に三度は見ているので、もうそろそろ違和感も薄れてきそうだ。
「はー……とりあえずまとめるわね」
サキが述べた事はこうだった。
一つ、この地に住む者はソラへ衣食住を与え、ソラはこの地に住む者へ力を与える。
二つ、ソラは他の者から信頼を得られるまでサキと行動を共にする。
三つ、ソラは信頼を得る前――要するに首のそれをしている間、サキか他長の許可無く能力を使用した際はこの口約を破棄する。
四つ、ソラは意図的にこの地に住む者に不利益を齎した場合もこの口約を破棄する。
以上四つをソラとこの地に住む者との口約とする。
サキが述べた口約に誰も異論の声は上がらなかった。
唯一異論を述べていたシンが物言えぬ体になってしまっているのだから当然と言えば当然である。
口では無く行動で示そうと天に向けて手を挙げる者が一名いたが、当然かのように無視されていた。
「…………」
シン、そんな顔で睨み付けても物事は解決はしないのだぞ。




