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猫又の育て方  作者: 猫アレのベル
異形達
16/26

15.償い

■前回のあらすじ

・外見では無く内面を見る女性が多いと言うが、猫と人間の姿の猫耳と猫尾(二本)を生やした妖怪をちょっと行動で同一と判断した琴美に少し心配になる恭介。

 他人を心配している恭介であるが「猫又であるクロを人に知られてはならぬ」という約束を一日足らずで破ってしまった恭介はどうなってしまうのだろうか。


 クロをどうにかこうにか風呂に入らさせ、琴美にクロの事は言わないようにと土下座の勢いでお願いし、その夜中クロの様子を見に来たというシロに連れられ妖怪の世界に来ていた。


 目の前にはたまとサキが俺を見下ろしている。

 見下ろしているからと言って、たまとサキが高い位置にいるわけではない。

 俺が彼女らよりも低い位置にいるのだ。

 場所は妖怪の世界の赤鳥居の前、俺はサキとたまに土下座をしていた。


「にぇひー! にゃっぱりこいつおもしれーにゃっ! 人間の謝罪がこの妖怪の世界で通用すると思ってにゃがるにゃっ!」


 俺の頭に前足を乗せながらシロが高らかに笑う。

 ダメだ、何も考えるな。

 今直ぐその前足を持って猫ダンスさせてやりたいとか思ってはダメだ。


「…………たま様、こいつの頭を踏み抜く許可を、にゃ」


 くそ、読まれた!

 ちらっと思っただけじゃないか!

 どこまで読めるんだこいつら!


「痛い! 待って、本当に痛い!」


 シロの小さな前足が俺の後頭部をビシビシと何度も叩きやがるので、思わず体を起こしてしまう。

 叩かれた後頭部に手をやれば、そこには僅かにぬるりとした感触があり、触れた指先はその液体が付着していた。

 こいつ、爪立てやがった。


「こらこら、あまり苛めてやるでない。お主の大好きなクロに嫌われるぞ?」


 そのクロはいつの間にか俺の腕にしがみ付き、シロに背を向け俺を庇う形でシロを睨み付けていた。

 クロの視線を受けばつが悪くなったのか、シロはクロから視線を外し二本の尾をパタパタと地面を叩いている。

 たまの「シロはクロの事が好き」という言葉は気になるが、クロと仲が良いのなら俺が原因で喧嘩は止して頂きたい。


「で、私も暇じゃないの。他の人間にクロを知らされてしまった恭介はどう落とし前をつけるつもりなの?」


 たま達猫又のやりとりを欠伸をしながら見ていたサキが金色の瞳で見据え問う。

 俺が再度妖怪の世界へ来てたまとサキに土下座をしていたのは、琴美にクロの存在がバレてしまったからに他ならない。

 琴美がクロを風呂に入れている間、クロが多めに炊いた米五合を平らげられている間、シロがクロの様子を見に来るまでの間、俺はずっとどうしようか考えていた。


「……すまない、どうするべきなのか答えが出なかった」


 だが“当たり前”と言われていた事を初日に守れなかったのだ。

 それを挽回する術など思い付かなかった。

 どう考えても俺の元からクロを引き剥がす選択に行きついてしまう。

 更に妖怪側の事を考えると、俺と琴美を妖怪の世界で殺し人間の空間に何の痕跡も残さず処理してしまうのが最良とも思ってしまった。


「だから教えて欲しい。俺は何をすればクロとこのまま暮らすのを許してもらえるだろうか」


 だから俺は下手なけじめなど提案せず、サキに懇願するしかなかった。

 昨日同様にサキの目を見据える。

 何の根拠も無かったが、そうする事で本気である事をサキが汲み取ってくれる、そんな気がしたのだ。


「ふーん、とりあえずその時の状況を確認しましょうか。たま、お願い出来る?」


 俺の目を数瞬見据えた後、サキはたまへと視線を移し問いていた。

 俺でもクロでもなく、その場にいなかったたまに聞く理由が全く分からなかったが、妖怪的何かで確認する方法でもあるのだろうか。


「僕は良いが、人間にとって僕達の妖気は熱いらしいぞ? 人間に使って大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫、長級見るわけでも無いし、妖気抑えれば平気よ」


「ふむ……試してみるのが早いかの」


 そう言うとたまは薄い赤オレンジ色の靄を纏った手で俺の額に触れた。

 その手から熱が流れ込んでくる。

 何やら不安しかなかった会話の内容であったが、その会話の内容を考えると熱を感じるこの靄は妖気で間違いないようだ。


 その妖気である熱が頭全体を包み込む。

 クロが出した黒い妖気ほど熱くは無いが、それでもかなりの熱を感じる。

 俺の頭を妖気で包み込んでたまが何をしているのか全く分からないが、どうせ抵抗しても無駄なのだ。

 苦痛と感じるまでは動かない方が良いのだろう。


「うむ、行けそうだ」


 何かを確認をしたたまは、もう片方の手を俺に行っているのと同様にサキの額に当てる。

 手には濃い赤オレンジ色の妖気が纏われており、その妖気がサキの額に吸い込まれていくかのように見える。


 俺の額に当てている手と妖気の色の濃淡が異なるのは妖気の密度の違いなのだろうか。

 そうであれば、クロが妖気をばら撒いていると言うのに全く見えない理由にも頷ける。


 それから数分間、たまとサキは目を瞑りその状態を続けていた。

 頭を包む熱は不快だが、サウナの中にいるような感覚に似ているので我慢出来ないほどでもない。


 身動きの出来ない俺は、仕方ないので横でにゃあにゃあとお喋りに興じているクロとシロの声に耳を傾けていた。

 シロまで猫の言葉で話しているので内容は分からないが、俺の後頭部への打撃で関係が悪くなっているような雰囲気は無さそうだ。


「……お腹空いたわね」


 たまが俺の額から手を離したのは、そんな脈絡の無い言葉をサキが言うのと同時であった。

 そして、何故か二妖共に俺に残念そうな視線を向けている。

 理由が分からないがそんな同情じみた表情で見るのは止めていただきたい。


「琴美とやらの人間は大丈夫だと思う」


「そうね、別にいいわ」


 たまの口から教えてもいない琴美の名が出た。

 動けなかった数分間、クロとシロの会話を聞きながらも俺の額に手を置いているたまが何をやっているのかをその前の言葉と猫又の特性から考えていた。

 それで一つの予測結果が出た。


「……俺の記憶を読んだのか?」


「うむ」


 ただ読めるだけではない。

 サキには読んだ俺の記憶を見せていたのだろう。

 

 相手が考えている事を常に読み、妖気を纏い触れれば過去の記憶すら見えてしまう。

 更には人間など比にならないほどの身体能力を持つ。

 改めて猫又という存在に驚かされる。

 シロの頬っぺたを引っ張るのは少し考えた方が良いかもしれない。


「そんな事よりも落とし前の話だ。サキ、僕もお腹が空いた」


「えぇ、場所は猫又の間で良いかしら?」


「そうだな。あそこなら邪魔者シンとかも入って来ない」


「じゃ、恭介、そういう事だから」


「え、どういう……」


 たまとサキの言っている事をいまいち理解出来なかった俺は狼狽するしかなかった。

 それをたまは呆れたような表情でこちらを見て、口を開く。


「恭介、僕とサキはお腹が空いた」


「は、はい」


「お腹が空いたのなら何かを食べぬといかぬな。あー、恭介の落とし前はどうしてくれようか」


「え、何か食べ物持って来ればそれで許してくれるのか?」


「んー?」


 たまのその眼には、こちらの求める事を察し余計な事は申すな、そう言っているかのような有無を言わせない凄みのあるものだった。


 もしかして……俺の記憶を読んだ際にクロが美味しそうに夕食食べる姿を見たためにお腹を空かしてしまった、と?


 だが、そんな事を俺に直接言えば「ご飯食べさせてくれるなら許す」という何とも可愛い欲求になってしまう。

 当たり前の事が出来なかったという大失態と、その償いで釣り合うかなどと考えるまでも無い。

 要するに、俺が今ここで言う言葉は……。


「…………こ」


「こー?」


「こ、この滝沢恭介! 今回の失態を許容いただくべく、供物を献上させていただきます!」


「ほほう、殊勝な心がけじゃのう。ではその供物とやらを喰ろうてから考えるとしようかのう。 のう、サキ」


「そうね。話はそれからね。あ、わかってると思うけど神酒も忘れずにね」


 それから俺は大量の料理を作るべく、お目付け役のシロと共に直ぐに家に駆けるのであった。

 人生初の土下座よりもサキ達の食欲の方が重要視されているようで、何とも言い難い気持ちであったが、料理を作るだけでクロとの生活を失わずに済むのだから良いのだろう。


 ただ、俺にとって都合の良い話にも関わらず、本当にこんな事で許されて良いのかとやはり納得出来ず悶々としながらも懸命に鍋を振るのであった。


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