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猫又の育て方  作者: 猫アレのベル
異形達
14/26

13.接触者

■前回のあらすじ

・犬神と呼ばれた紫色の者達を、負傷者を出しながら辛くも勝利した猫又と妖狐達。

 命のやり取りを直接肌で感じた恭介は、そこから何を学ぶのか。


 ここは妖狐の長サキが治める山から数十キロ離れた位置にある山。

 幾度無く行われた戦闘が土地を蝕み、草木の生えない土地が広がっている。

 不毛な地となったそこは自然再生する力も残っておらず、その範囲は時間の経過と共に広げていた。


 サキ率いる妖狐の能力で保っている肥沃な土地と比べるまでも無く、その土地は枯れ果てている。

 妖怪の空間では、一部の妖怪の存在により自然がいとも簡単に崩壊する。

 そのため、山々が荒れること自体はこの妖怪の世界では珍しい事では無かった。

 だがそれでも自然再生する力も残っていない土地というのは然う然う無く、それだけこの地で行われる戦闘の異常性を表していた。


「キシシ、犬神ぃ~何か面白い事ないのか~?」


 この土地を不毛にさせた元凶となる存在が二つ、一つは好奇のため、一つは目的のためにその地に住み着いている。

 蝙蝠こうもりの翼を背に持つ妖怪がパタパタと跳びながら、もう一つの者へ妖しく問いかける。


「……さぁな。だが、あれだけの数を送り込んだのにもう砕かれたようだ」


 その好奇の問いに、自然石に座る犬神は気怠そうに今回の襲撃の結果を落胆する事無く答えた。


「キシ、撃ち込む時機悪くて長級にでも当ったんじゃないの~?」


「……かもしれんな。だが、攻撃特化の者を二十体も入れたのだ。無傷とはいかんだろう」


「キシシシ! ……雑魚は幾ら消しても良いけど、そんなので長級消すのは止めてよね」


 ケラケラと笑ったと思えば直ぐにその笑みを引っ込ませ、蝙蝠こうもりの妖怪は強い殺意を持って犬神を睨み付けていた。

 その視線に犬神は全くの無表情で視線を絡める。


 元より憎悪の感情しか持ち合わせていない犬神に表情を変えろと言うのも無理な話ではあったが、仮にそれ以外の感情を持っていたとしても犬神の実力を以てすればやはり表情を変えるのは難しいだろう。


「その時はその程度の長級だったという事だ。貴様にとっても都合が良かろう?」


「キシ! そりゃそうだ!」


 再度楽しそうに笑う蝙蝠こうもりの妖怪に、犬神は早々に興味を無くし次の襲撃の事に思案するのであった。


 シュボ


 だが、その思案も突然発生した音により中断せざるを得なかった。

 犬神と蝙蝠こうもりの妖怪はその音がした“黒い炎”へ視線を飛ばし、全身に妖気を巡らせる。


「やぁやぁやぁ、何か面白い事を教えるか死ぬか選んでよ」


 突如現れた黒い炎から少年が這い出し、二妖へ笑顔で選択を問う。

 蝙蝠こうもりの妖怪の顔に先ほどの笑いなど無く、代わりに恐怖が張り付く。

 頭の中ではどう逃げようかという事だけがグルグルと回る。


 だが、どんなに思考しても思い浮かべた瞬間に自分が死んでいた。

 相手の能力が不明で明確な攻撃方法を知らぬはずなのに、どの逃亡案も逃げようと動いた瞬間に自分は死んでいるのだ。

 それでも最善であろう逃亡法を幾度無く思考し、直ぐに気付く。


 この少年が現れた瞬間、自分は小さな羽虫に成り下がり、踏み潰される数瞬前の状況下に置かれている事に気付いてしまう。

 仮に蝙蝠こうもりの妖怪が最善の選択を取ったとしても、それは少年にとって踏み潰す対象が数ミリ移動した程度のものなのだ。


 対して犬神は変わらず無表情であった。

 だが、背中には伝うはずの無い汗を幻触し、感じるはずの無い恐怖という感情を味わっていた。


「さぁ」


 その日、黒猫は通り過ぎず主の元へと身を寄せた。

 狼といたちは吼え、からす蜘蛛くもは笑い、なまずくじらは騒いだ。


 この少年と犬神の接触が後の大きな争いの火種を生む。

 それは誰も益しない最悪な出会いであった。



§



 妖怪の空間から帰宅後、俺は直ぐに床に就いた。

 いや、力尽きたと言った方が適切だろうか。

 妖怪の空間に充満するねっとりと纏わりつく空気のおかげで息をつく暇も無く、自分が感じていた以上に体は参ってしまっていたようだ。


 山の入口にある鳥居を潜り、密度など無い軽く涼しい空気を感じ取った瞬間、張りっ放しであった緊張の糸が切れてしまい腰が砕けてしまった。

 クロに肩を借りどうにか家まで辿り着いたのは良いものの、視界の隅で蠢く何かを幻視してしまうほど疲労していることに気付く。


 汗を吸って気持ち悪くなったTシャツを脱ぎ捨て、布団を出す気力も無く居間に敷いてある座布団に寝転ぶとそこから動けなくなってしまった。

 横になった俺にクロが抱き着いて来る事に気に掛ける事無く、むしろその熱に安心してそのまま目を閉じてしまう。

 夜中だったこともあり直ぐに睡魔は訪れ、俺の意識を体から切り離すと夢の中へと誘っていった。


「……は…………す……のー?」


 どれくらい寝ていたのだろうか。

 一瞬の気もするが、かなり長時間寝ていたようにも感じる。

 そんな微睡の中でも、微かに誰かの声は聞こえていたのだから無理やりにでも起きるべきであった。

 だが俺はそのまま睡眠を選択してしまった。

 この時、クロが身じろぎした事により生じる髪のこそばゆい感触に頬が緩んでしまったのもいけなかったのだろう。


「にゃー?」


 クロの鳴き声はしっかり聞こえていたのだから遅くともここで起きるべきであった。


「……れ……ロ?」


 しかし、あまりにも気持ち良い睡魔に俺は負けてしまった。


「恭介!!!」


 故に大変な事になってしまった。


「ぐおっ!?」


 幸せの微睡の中、突如襲ったのは胸への痛撃だった。

 ビリビリと痺れる胸の痛みに体が強制的に起こされる。

 そして、眠気眼で見た顏で意識が覚醒する。


「どういう事なのか説明しなさい!」


 そこには二個上の幼馴染、山崎琴美やまざきことみが鬼の形相でこちらを見下ろしていた。

 通常時、怒ってなくとも怒っているかのような見える少しつり上がった目は、それはもう見事なまでに釣り上がっている。

 何が起きたのか理解出来なかった事と何故こいつは怒っているのかという事に困惑する。


 だがそれも左腕に感じる圧迫感で事態を察する。


「シャーッ」


 俺の左腕にしがみ付いていたクロは琴美に向かって警戒するように小さく威嚇していた。

 それは俺の胸に出来た見事な紅葉が原因なのだろう。

 また、クロが小さな威嚇で済んでいるのは、琴美の事を知っていたからだろう。

 警戒するクロ、怒っている琴美、その両者を見た俺は至極冷静に状況を理解するのだった。


「まぁ待て、落ち着け。お前が考えてるような事じゃない。だからその血管が浮き出るほど握り締めた拳は下ろせ。な?」


「私が納得するまでこれは下ろさない」


 あぁ……サキにクロの存在は他の人間に知られてはいけないと言われたばかりなのに……早速にやってしまった……


 その後、拳をプルプルとさせている琴美にクロが猫又になった事、クロと同じ猫又に愛猫のクロだと言われた事だけを伝えた。

 他妖怪の事、山の入口の鳥居が別空間の入口になっている事、犬神に襲われた事などは伝えていない。

 そんな事を伝えても理解して貰えないと思うし、余計信じてもらえないと思ったからだ。


「――という事なんだが……納得、出来るわけないか」


「えぇ……今から病院と警察行きましょ?」


「いや、まぁ、確かに気持ちはわかるが……」


 俺だって逆の立場だったら信じられない。

 琴美が上半身裸で見知らぬコスプレ男性と一緒に寝ていて、こいつは愛猫だ、妖怪だ、同じような者にそう言われた、などと言い出したら俺だって真っ先に病院と……警察? ちょっと待てなんで警察?

 いやまぁ、とりあえず振り上げられた拳が下ろされただけ良しとしよう。

 それがたとえ同情だったとしても。


「にゃー?」


 未だに左腕にしがみ付いていたクロは状況をあまり理解していないようだ。

 こちらを覗くクロの頭を撫でながら、どうしたものかと思案する。


「……貴女、その耳と尻尾本物なの?」


「あぁ、なるほど。この耳と尻尾が本物だと確認すれば――」


「何やってんのよ!!」


 クロの尾の付け根を見せようと服を捲り、ズボンをずり下げようと手をかけたところで頬に衝撃が走った。

 驚いて琴美を見れば、下ろされたはずの拳を握り締めていた。

 殴られた事を理解すると、頬に走った衝撃はジワジワと痛みへと変わっていく。


「いってぇな! グーで殴る事ないだろ!」


「あんたが変な事しようとするからでしょ!」


「俺はクロの尻尾を見せようとしただけじゃねぇか!」


「やり方ってものがあるでしょうが!」


 確かにそうかもしれないが顔をグーで殴るのはどうかと思う。

 何もかも正当化させ、自分は悪くないという琴美の態度に口が止まらない。


「あー、くそ、口の中切れたじゃねぇか! 看護師の筋力舐めんな! 死ぬぞ! 俺が!」


「この程度で死ぬわけ無いでしょ! 反省しないならもう二、三発ぶん殴るわよ!」


 いや、それは流石に止めて頂きたい。


「そうやって直ぐに暴力に――」


「にゃーにゃ! にゃーにゃ!」


 尚も続く口論にクロが声を上げた。

 突然の鳴き声に俺も琴美も思わず口論を止め、クロへと視線を移す。

 そのクロは俺と琴美の間にその身を割り込ませると、俺の顔と琴美の顔を交互に舐め始める。

 突然舐められた事に驚いた琴美であったが、クロのこの行動の意味を思い出し更に驚愕の表情へと顔を固めている。


 同じところを三回舐めるのはクロ独特の癖であったが、喧嘩していると両者の顔を舐めて収めようとするこの行動もクロ独特の癖のようなものだった。

 猫よりも犬に見られそうな行動であるが、クロは猫である。


■登場人物紹介

【犬神】

・サキが統べる山から数十キロ離れた地に住む。

・自身の分身とも言える者を妖気を用いて作ることが出来る。

 分身は作成時から妖気を消費し続けるため、分身の作り置きが出来ない。


蝙蝠こうもりの妖怪】

・戦闘が好きな妖怪。

 犬神の下についているのではなく、犬神に戦闘の話が絶えないため共にいる。

・背中に蝙蝠の翼を持ち、空を飛ぶことが出来る。


【???の少年】

・犬神と蝙蝠の妖怪の元に現れた少年。

・黒い炎から姿を現す様は妖狐の能力に似ているが真意は……?


【人間の山崎やまざき 琴美ことみ

・恭介とは幼馴染であり、恭介より二つ年上の女性。

・恭介より年上ではあるが、恭介にとってはお姉さん的存在ではなく手が異様に早い女友達という存在。

・アロマが趣味であるが、その匂いのせいでクロから苦手意識を持たれていることを知らない。

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