12.残るもの
■前回のあらすじ
・田舎少年による金属の玉を操作した攻撃により、紫色の者達は全てチリへと化した。
・耳を押さえる妖狐と猫又は可愛い。
そこには何も残らなかった。
争いは何も生まないと言わんばかりに、そこには球体が降ってきた際に出来たクレーター以外何も残らなかった。
喧しい音で満ちていた空間は、衣を擦る音も立てぬ不自然なくらいに静まりかえり、事の終焉を確かめるかのように皆辺りを探るように視線を動かしている。
その様子をたまの耳からそっと手を離した俺も音を立てぬように見ていた。
「お疲れー、怪我した妖怪いるー?」
音を立てるのがおこがまれるようなそんな中、声を上げたのはサキだった。
先ほど猫又の間で聞いていた恐らくサキのいつも通りの声だ。
その声を聞いて妖狐達に安堵の表情が広まっていく。
「サキ様、妖狐内では四名が負傷。いずれも軽症です」
サキの問いに答えたのは、如何にも秘書といった風貌の妖狐だった。
他の妖狐同様にオレンジ色の髪をしているが、長髪が多い女性の妖狐の中で唯一肩の長さで切り揃えられたショートボブな髪型をしている。
着物部分は白をベースとした青い彼岸花の柄が入り、袴部分は紺単色の落ち着いた袴姿をしていた。
キリリと引き締まった表情とそのきっちり着つけられた風貌が相まってどう見ても秘書であった。
「そう。かなめ、その子達をセンの所へ」
「畏まりました」
かなめと呼ばれた秘書の受け答えは、やはり絵に描いたような秘書そのものであった。
そのかなめは、サキが猫又の間で見せた青い炎の壁を掌から出した炎で作り出すと、着物を赤色に染めた妖狐達と共に炎の壁へと消えていった。
怪我した者を連れて行くという事は、センという妖怪は治療が出来る妖怪なのだろうか。
それとも、妖狐の中で治療できる者がいるのだろうか。
気になることが増える一方だ。
いずれにせよ、怪我をした妖狐達は自分の足で立っていたので一先ず安心だ。
「たまー、助かったわー」
妖狐達が続々と青い炎の中へと消えていく中、サキと田舎少年が近寄って来る。
百八十センチ近いサキの横に並ぶと、田舎少年は更に小さく見え、増々少年にしか見えなくなってしまう。
サキ達がこちらに来るのと同様に、ミケと小次郎も何処かから飛び降りこちらに駆けてきた。
木の上にでもいたのだろうか。
「いや、クロと恭介がいたから妖狐達に負傷者を出してしまった」
「私達の失態です。妖狐達を攻撃型から守る命を受けたのにも関わらず、申し訳ございません……」
たまの言葉を、サキでは無くミケが答えた。
答えたミケとその横にいる小次郎は猫耳と共に力なく項垂れている。
ミケなど今にも泣きそうなほどに悔しそうな顔していた。
そうか……俺達がいたから、たまは俺達を守る戦い方をしていてくれたのか……。
足手まといである俺達がいたがために、妖狐達を攻撃型から守る数が減り妖狐達に負傷者を出してしまった。
それであれば謝るは俺達……いや――
「俺達のためにすまない……それと、クロを守ってくれてありがとう」
今言うべき言葉は謝罪だけでは無く、感謝の言葉もだ。
「うむ、僕達はクロのために恭介を助けたからな。クロがいなければお前など放っておいた」
「そ、そうか、それでも俺も助けてくれた事には変わりない。礼は言わせてくれ」
「だ、そうだ。死んだ者もおらぬ。それでも悔いるようであればもっと力を付けよ」
たまは俺の言葉をミケと小次郎に受け流し、二妖に労いの言葉をかけていた。
便乗というわけでも無くその流れでミケと小次郎にお礼を言ったのだが、何故かミケには睨まれてしまった。
解せぬ。
「私を無視して綺麗に話を終わらせたところ悪いけど、一応状況の説明もあるから話を戻させてもらうけど……」
ミケの割り込みにより会話への参加を逃していたサキが声を上げる。
「たま、徐々にだけど犬神襲撃の一度の質と量が上がってきてるの」
犬神、ここに来て知らない名前が出た。
あの紫色の者達が犬神と言う妖怪なのだろうか。
確かに顔とか足は犬っぽかったが……しかし、猫又や妖狐のように生命らしいものを何一つ感じられなかった。
いや、妖怪というものを全く知らないのだ。
人間の俺の主観など当てにならないのだろう。
「特に今回は数が多かった。今まで通り監視していた妖狐達だけでの対処だったら、私が来る前に死者が出てたでしょうね」
「多いとは思ったがやはりそうか。と、その前にサキ、一先ずこやつらをセンの所に送ってはくれぬか?」
それを聞き、たまが顎で指すミケ達をよくよく見れば着ている服が所々斬られ血が滲んでいた。
黒い服だっため気付かなかったが、どう見ても妖狐達よりも怪我の度合いが重い。
「大丈夫です! こんなの舐めてれば、なお……はい、行ってきます……」
最初は拒否したミケであったが、たまの表情が変わっていくのを見て声が段々と小さくなり、身も小さくしたミケは最後には承諾するのであった。
そのやり取りを聞いていたサキはたまの言葉を聞いた段階で炎の壁を作りだし、ミケが承諾した頃には「はーい、いってらっしゃーい」という軽い言葉と二妖を送り出すのだった。
「なぁなぁ、なんで人間がいるんだ? そんで、なんでたまはこいつを守ったんだ?」
炎の壁が崩れるの待つのでもなく、田舎少年がその外見相応の言葉遣いで口を開く。
そちらに目を向けると、どこから取り出したのか見慣れない一本の棒状の金属を手にぶら下げていた。
金属をよく見ると、それは薄い金属を重ねたものらしく、その薄い金属は犬神殲滅に使用していた玉の刃に見える。
どうやらあの玉は組み立て式だったようだ。
組み立て前の刃の中央には穴があるらしく、一本の紐をそこに通しまとめている。
あれをぶつけるだけで十分に凶器になりそうだ。
「こいつはクロの飼い主。守る理由などそれで十分だ」
「同族でもねぇのに守るなんてわかんねーや」
「それだから大蛇に揶揄されるのだぞ」
「な、今大蛇はかんけーねぇだろ! サキ、やゆってなんだ!」
「からかわれるって事よ。たまもシンにそんな言葉使って意地悪ねぇ」
この田舎少年、もといシン少年がたまにギャーギャーと抗議の声を上げている。
どうやら、シンはそういう立ち位置にいるらしい。
「はいはいはい、話進まないから少し黙ってて」
「なん――!? ――――!!」
サキが指先から出した小さな青い炎は、シンの口に当たると口全体を包んだ。
シンが叫んでいるような顔をしているが、その声は全く聞こえない。
小さいがあれも恐らく転移門なのだろう。
どこか全く関係無い所でシンのたまに対する抗議の声が響き渡ってると考えると、この場もその場も全くもってシュールな光景だ。
「さて、タイミングが悪くも良くも妖怪の戦闘を体験したわけだけど、これで長の器という意味を理解したかしら?」
シンを静めたサキが俺の目をじっと見据える。
またこの眼だ。
俺の底を見つめ虚偽を許さぬ眼。
この眼に見られると無意識に身体が緊張する。
「少しは……と言うと怒られそうではあるが……」
「そう、それで何か言う事はある?」
「ある」
サキ、たま、シン、クロの目線が俺に集まる。
こんな事を言ってしまえば何て言われるかはわからない。
けど、それでも、我慢できず言ってしまった。
「俺は――」
■登場人物紹介
【犬神?】
・転移門を狙い、襲撃を続ける妖怪。
・犬神が一度も目的を達せられいないのはサキが統べる妖怪達が優秀であるだけであり、実力は並みの種族程度は絶滅させる。
【???のシン】
・空中を飛んだり、金属の玉を操作したりという能力を見せた妖怪。
・クロ、恭介を守っていたとはいえ、猫又と妖狐が傷を負いながら戦っていた犬神を無傷で殲滅するほどの実力者。
・手足は獣のように毛が多い、鋭い爪を持つが、見た目は田舎少年。
・深く考える事を苦手とするが、戦闘時の感は鋭い。




