11.殲滅
■前回のあらすじ
・空から紫色の物体が飛来し、そこから生まれた紫色の者達。
・猫又のたま、小次郎、ミケの奮闘むなしく、一体の敵が恭介に襲い掛かった。
攻撃型がこちらに突っ込んできた後、どうなったのかは分からない。
確かな事はまだ俺は生きており、斬られたような傷は無いという事だった。
クロのにゃーという声と共に強力な衝撃を横っ腹に受けた気がしたが、気付いた時にはクロと共に頭から背の低い木に突っ込んでおり、木から頭を抜いて辺りを見渡せば、斬りかかってきたと思わしき攻撃型は地に伏せ既に崩壊が始まっていた。
その攻撃型の全身には直径五センチほどの奇妙な形をした穴がいくつも開いており、攻撃型が沈んでいる周辺の地面にも同様な穴が開いている。
「来たぞ! とりあえずこいつら助けたけど良いんだよな!? 勝手に吹っ飛んでったけど!」
穴だらけの攻撃型を呆然とクロに抱き着かれながら見ていると、聞きなれない声は上から聞こえた。
見上げるとそこには浮遊している者がおり、こちらを見下ろしている。
肌は濃い小麦色をしており、それが白い髪と白い衣服とは対照的でコントラストの強い印象的な姿をしていた。
逆立った短髪と釣り上がった目、袖の無い空手着のような衣服だけを見ればどこにいる人間だろう。
だが、空中で浮遊しているような者が人間なわけも無く、猫又と妖狐とは異なる獣の部位を持つ姿をしていた。
腕は肘辺りから髪と同じ白い毛で覆われており、爪は獣のように鋭い。
道着から覗かせる足も同様に白い毛で覆われ、獣っぽくもあり人っぽくもある中途半端な形状をしている。
ここまで外見が猫又や妖狐と異なるのだから別の妖怪なのだろう。
また、妖怪は必ずしも獣耳と獣尾を持っているわけではないようだ。
ただ、人間では無い事は確かなのだが、そこまで高くない身長、釣り上がった目、よく焼けた肌が典型的な田舎少年を彷彿させる。
……いや、そんな外見よりもどうやって浮遊しているのかの方を気にすべきなのだろう。
普通に宙に立っているように見え、妖怪とはこうも常識外れなのかと再認識させられる。
いや、妖狐達が使用する転移門の方が常識外れか。
「良いから早く参戦しろっ!」
「おうよ!」
たまの少し苛立った声にその田舎少年は特に何にも気にした様子も無く答え、穴だらけになって消滅した攻撃型がいた地面へと手を翳す。
それに応えるように地面に開いた穴からは何かが浮き出してきた。
土が付いたそれは、金属の無数の刃が組み合わさったような奇妙な玉だった。
直径五センチほどの大きさで、無数の刃は真っ直ぐな物では無く、全て歪んでいる。
ドリルの先端の刃を薄くし、それをいくつもくっ付けたようなそんな歪な玉だ。
その玉が付着している土を落とすかのようにキュルキュルと回転し始める。
どうやら、先ほどこちらに斬りかかってきた攻撃型を穴だらけにしたのはあれのようだ。
その玉達はそのまま上昇していき、紫色の者達の方へ浮遊しながら移動していく田舎少年を等間隔に囲うように集まっていく。
田舎少年の両手からはいつの間にか淡い緑色の靄が溢れ出ており、その靄は集まった玉へと流れていた。
田舎少年から溢れているあの緑色の靄も、色が違えどクロやたまが出していた靄に似ている。
妖怪が何か行動する際に出る物なのだろうか?
……そういえば、クロが黒い靄を出した時、たまは“妖気”と言っていた気がする。
妖怪が妖怪的な何かをする時、妖怪の中にある妖気を使用するとかだろうか?
……あれ、でもミケの話ではクロは妖気をお漏らししてると言っていたが、あれ以来クロが黒い靄を出してるのを見ていない。
うーむ……まぁ、その内シロの頬っぺた引っ張りながらでも聞いてみよう。
田舎少年が出す靄を見ながら彼是思考していると、合計二十個以上の玉に靄が纏い終え、一気に散開した。
玉達が紫色の者達の周りを囲う様に散らばっていく。
玉に囲まれているにも関わらず汎用型はその玉に何か関心を抱くことも無く、妖狐達へと攻め続けている。
攻撃型は目で追えないが、今までと特に変わった動きは見られないので汎用型と同じく関心を抱いてる様子は無さそうだ。
紫色の球体の方は既に半分以下の二メートル弱まで縮んでいる。
もうほとんど生まれ尽くしたようで、一体生まれるごとに目に見えるほど小さくなっていく。
どれだけ生み出したのかはわからないが、汎用型の方は六十体ほどが依然鳥居の方へと押し寄せていた。
攻撃型の方は例のごとく速過ぎて正確な数を把握しきれないが、たま達がそれらを吹き飛ばす姿を見る限り五、六体ほどはいそうだ。
「よっしゃ、いくぞー!」
戦闘が最も激化しようとする中、玉の配置を終えたのか緊張は無いがやる気だけは感じられる田舎少年の声が響いた。
「ミケ、小次郎離れろ! 攻撃型が漏れたら弾き返せ!」
そう叫ぶたまは、いつの間にか俺とクロの前にいた。
その身には一切の傷は無く、息さえ上がっていない。
そんなたまから田舎少年へと目を戻せば既に行動を起こしていた。
田舎少年が周囲に配置した玉の方へ両手を向けると、星の公転運動のように紫色の者達の周りをギュルギュルと回転し始める。
玉が緑色の靄を帯びているためか、その様は緑色の竜巻であった。
時折玉に何か衝突しているのか、激しい金属音が鳴る。
また、玉が高速回転することにより周囲の物を引きずり込むような風が吹き始めていた。
「お前達、僕の後ろから動くな。クロは耳を手で押さえ、恭介は僕の耳を押さえろ」
「……ぅえ?」
「早くしろ。殺されたいのか」
突然のたまの指示に意図が全く分からなかったが、こちらを見た横眼には明らかに殺意が籠っており、俺に拒否するような度胸など生まれなかった。
遠くから感じる誰かの殺意の視線を感じるも、やっぱりたまのそれを拒むような度胸など生まれなかった。
「うにゃぅ?」
胴にしがみ付いて離れていなかったクロも指示の意味をあまり理解出来なかったようで、首を傾げこちらを見上げている。
たまの急かしようから説明している時間も無さそうなので、クロの手を取りクロの耳を押さえるように置いてやる。
「ぅー?」
それでも意味は分からなかったようだが、そのまま手を動かさないでいてくれたので良しとしよう。
俺も意味が理解出来ないのだ。
クロが分からないのも無理もないだろう。
クロが耳から手を退かさない事を祈りつつ、俺はたまの耳へと手を伸ばす。
手に感じるたまの耳はクロよりも柔らかかったが、毛並は少しごわごわとしていた。
クロの耳はツルツルと滑るような毛並でコリコリとした感触だったので、こういう所も違うんだなぁと個々の違いに場違いながらも面白く思ってしまう。
ちなみに、遠くから感じる誰かの殺意の視線は消えるどころか増していた。
「ぐおっ……」
田舎少年が操る玉はその公転する範囲を縮めていた。
それによりギャリギャリという金属の衝突音が増え、辺りを騒音で包む。
それと共に何かがあちこちに吹き飛んでいる。
……いや、恐らく紫色の者の残骸なのだろう。
こちらにも飛んできているようで、時折たまが手で払っているような動きをしている。
たまの耳を押さえろという命令は、この騒音を聞きたくなかったのと俺達を守るために両手を開けたかったのだろう。
人間の俺でさえ耳を塞ぎたいのだから、大きな耳を持つ猫又が感じる音は相当なものになりそうだ。
現に胸元にいるクロは必死に騒音から逃れようと耳を押さえている。
可愛い。
先ほどから感じる殺意の視線の持ち主の方は見るまでもない。
可愛くない。
怖い。
猫又と同様に大きな耳を持つ妖狐達はどうなのか、と視線を鳥居の方へと向ければそちらも同じように皆で耳を押さえていた。
場違いで声に出すと怒られそうだが、やはり可愛い。
などと思いながら見ていると妖狐の中に知った姿を見つけた。
着物を着崩し、妖狐達の最前線で不機嫌そうに耳を押さえている。
目の前には妖狐達全員を守るかのように巨大な青い炎の壁が出来ていた。
いつの間に来ていたのだろうか。
そんな風に周りを横目で見渡す中、玉の公転する範囲が見る見るうちに狭まっていく。
最初は十メートルほどだった範囲は五メートルになると紫色の者達を削り初めた。
四メートルを切り始めた頃になると、ギャリギャリと騒音を絶え間なく出しながら紫色の者達を切削していく。
そこまでいくと、緑色の竜巻は死肉を纏った紫色の死の竜巻へと姿を変え、更に辺りに肉片をばら撒き始める。
容赦の無い殲滅は更に密度を増し、紫色の粉しか見えなくなる。
だがそれも次第に衝突音は少なくなり、最後には玉の風を切る回転音のみが残った。
幅一メートル弱の人一人がギリギリ生存できるような範囲まで縮まった竜巻に対し、田舎少年が翳していた両手を交差するように払う。
刹那、竜巻を構成していた玉達は中心に向かって突き進み、最後の金属音を奏でた。
最後に残っていたその者は体中が穴だらけになり、直ぐにボロボロと崩壊していく。
そして他の者と違わず空気に溶けるようにその身を消滅していった。
■種族紹介
【妖狐】
・空間転移の狐火を操る妖狐だが、妖気を燃焼させることで普通の火も操ることが出来る。
ただし、妖怪にダメージを与えるだけの熱量を発生させるには相応の妖気が必要であるため、空間転移の狐火を用いるのが妖狐の基本的な戦闘スタイルである。




