26 離陸
お待たせしましたm(_ _)m
「あ~、頭いてぇ……蒸留酒じゃなかったのかよ~……。おーい相棒、この死骸どうすんだ~?」
二日酔いで痛む頭を押さえながら人狼の死骸を見てメレクがシンに問う
今の季節は不明。というより季節があるかどうかも不明なのだが、気温は二十二度前後だろうか。
暑くもなく寒くもなく、過ごしやすい気温だ。
故に虫や微生物も過ごしやすい。
要するに狼の死骸にハエや蛆が集っている。自然の大いなる力によって土に還っている……と言えば聞こえはいいが、一般人からすれば嫌悪感を誘う光景である。
余談だが、「二日酔い」という症状にはれっきとした原因が存在し、個人差はあるにしろ二日酔いしやすい酒と、しにくい酒というものがある。
意外かもしれないが、実はアルコール濃度の高い酒ほど二日酔いになりにくい。まず間違いなく急性中毒で死亡するが、100%純粋なアルコールを飲んでも二日酔いにはならないだろうとも言われている。
逆に、二日酔いになりやすいのがビールやワイン、日本酒などの比較的弱い酒。蒸留酒でも、ウィスキーやブランデーなどの独特の風味が付いた酒がこれに該当する。
理由としては弱い酒はアルコール以外の不純物がアルコールの分解を阻害したり、症状を促進させているから。
蒸留酒は製造や発酵の過程でごく微量のメタノールが自然発生し、含有されているからだと言われる。
メタノールはアルコールよりも体内に残留する時間が長く、分解に時間がかかるためアルコールの分解を阻害する効果があり、結果として朝になっても肝臓がアルコールの分解に追われることになる。
また、メタノールは微量ならば問題は無いが、劇物指定物質……つまりは毒物であるため摂取しすぎると当然死亡する。最低致死量は30ml(大さじ一杯)、10ml(小さじ一杯)で失明する。
過去には格安の酒の中にアルコールの代替として混ぜられ(メタノールはアルコールよりも圧倒的に安いため。当然違法)、中毒で死亡する事件も起きている。
メーカーによってはメタノールが全く含まれないウィスキーなども存在するが総じて手間がかかるため価格も跳ね上がる。
二日酔いせずに安い酒を飲みたいのなら、あえてアルコール度数の高い酒を飲むのも一つの手だろう。当然、用法・用量・法律を守って嗜好品として楽しむのが大前提で、の話だが。
閑話休題
「生き返りはしなかったか……となると、こいつはどこかで殺した狼の命をいくらか落としていたことになるな……」
「ん? ……おい相棒、これってさ……」
「何だ? ……ほぅ、なるほどな。中身は残っているか?」
「ん~……いや、ないな。呼吸器と心臓以外はほとんど抜け落ちてる」
メレクが見つけたのは、狼の腹に付けられた大きな傷跡。
ぱっくりと空いた大きな穴からは狼の腹の中が見えており、消化器官などの臓器はすでに無くなっていた。
「この傷跡……グレイウルフという魔物が爪を立てた後に似ているな。傷の大きさも似ている」
「何で相棒がそんなこと知ってんの?」
「バルガドに魔物が攻めてきた夜があっただろう。その戦いを少し覗いた」
「ふーん、なるほどね。それで? その時に見たのがそのグレイウルフってわけ?」
「そうだ。あぁ、そういえば……」
シンが思い出したのはバルガド防衛線の最後。グレンとオイゲンを襲った実体のある影による攻撃だ。
あの時、グレンとオイゲンに向かって森の中から攻撃が放たれ、直線上にいた二人を襲う形になっていた。
直後、狼達は都市への攻撃をやめ、森の中に引き返していったのだがそれがおかしいのだ。
「何がおかしいのさ?」
「狼の群れのリーダーが他の狼に指示や合図を送るだけなら声や仕草、動きだけで十分なはずだ。群れのリーダー、もしくはそれに次ぐ個体がいたとして、わざわざ攻撃をする理由がない。むしろ優秀な個体が攻撃をしたのなら他の狼も続くはずだ」
「でもその状況ならちょっと力の強い奴の独断専行での攻撃かもしれないじゃん」
「影を操る魔術を使える、それも網の目状にするなんて器用な事のできる個体がちょっと力の強い奴か? それはないな」
「じゃあどういうこと?」
「こいつが襲われていること、さっき俺の体を貫いた影の事を考えるとあの時二人を攻撃したのはこいつで間違いないだろうな。大方こいつが二人を攻撃したことで狼たちの意識がこいつに向いたんだろう。まして群れのトップが死んだ直後だ、餌を横取りするような攻撃をしたこいつに敵意が向くのは当然と言えば当然だ」
「なるほど…………ん? でもちょっと待てよ? こいつは狼達の注意を自分に向けて何がしたかったんだ? 迎撃用の罠とかあったなら……まぁ、数が違いすぎるのに馬鹿だろと思うけど分からんでもないんだ。でもこいつは結果として瀕死の重傷を負った。つまり魔術的なメリットがあったにしても戦力差は明らかだったってことだよな? ていうか、そんな結果になるのは見れば分かるはずなのになんでそんな自殺行為をしたのかな~こいつは?」
「こいつが余程の馬鹿だったのか、それとも人間の都市が攻撃されているのを黙って見ていられなかったのか、それともまた別の理由があるからか……まぁ、都市が攻撃されるのを見て犠牲になろうとしたのなら二人を攻撃する意味はなく、狼達が二人への攻撃によって縄張り意識を高めることを見越しての攻撃だったのかは今となっては分からんな」
「ん~……後者ならなかなかの策士と言えるんだけど…………あれ? 相棒、影の攻撃は森の中から出てきたって言ったよな? ってことはこいつから二人の事は見えてないんじゃねーの?」
「確かにな。だが知覚はできていたはずだ。狼の体だぞ、耳と鼻は効くだろう。それに俺達の馬車を目視できない状況で追ってこれたことからもこの体を使いこなしていたことはほぼ間違いないな。本能のままに追っていたなら話は別だがこいつには意識がまだ残っていた」
「あれが残っていたと言えるかどうかはともかくそうなると攻撃をした理由がますます分からないなぁ……」
「案外拍子抜けな理由かもしれんな。『食欲のままに狼の群れに攻撃を放ったが、腹を裂かれた痛みで理性が戻り逃げてきた』……とかな」
「理由も動機もないパターンか~……。なんかありそうでやだな……。ま、こんなこと考えててもどうこうなるもんじゃないしとりあえず死骸は燃やすってことでいい?」
「あぁ。燃やすなら一気に灰にした方が早いな」
「はいはい、分かりましたよ。ロフォカレ呼んでくりゃいいんだろ」
「お呼びですかな?」
「おぅ、急に出てくるなよビックリするから……。火、起こして」
「お安い御用ですな。完全管理空間」
ロフォカレが足元を黒い魔力で包むとその中にたちまち種火ほどの火が起きた
「どの程度の火をご所望で?」
「この死骸を灰にできるくらいデカくて熱いの」
メレクがそう言うとロフォカレは狼の死骸ほどに魔力の膜を広げる。種火ほどの小さな火はまるで写真や画像を拡大するかの如く、魔力と共に巨大な火柱へと変わった。
「ちょいそのままで。…………おぉ、いい感じの火力だね」
メレクが死骸から切り取った皮の一部を火に入れると瞬く間に炭を通り越して燃え尽きたのを確認すると満足気に頷く。
「そんじゃあ始めるとしますかね~。因果の等価交換」
火柱と死骸に掌をかざし、メレクの魔力が二つを繋ぐ
一瞬後、ロフォカレの魔力の中で轟々と燃えていた火柱と狼の死骸は消え、代わりに少量の灰がメレクの掌の上に積もっていた。
「うっし、終了! 出発しようぜ~」
掌の上に積もった灰を払い、既に全員が乗り込んだ馬車に乗り込んだ。
「全員乗ったな? では行くぞ」
「あいよ~。……そう言えば相棒、その服どーすんの?」
馬に前進するよう鞭を打ち、動き始めた馬車の御者台でメレクがふと呟く。
メレクの視線はシンの腕、昨夜狼に噛み千切られた部分から破れたままのコートである。
「服着替えれば? まだ中にあるんだろ?」
「あぁ、そう思っていたんだが……どうやらその必要はなさそうだぞ」
そう言ってシンがメレクの目の前にコートの破れた箇所を持っていく
「うわぁ……なにこれ……見ようによってはすっげぇグロいんだけど……」
メレクが見たものはコートの黒い繊維がそれぞれゆっくりと動きながら編み込まれている様子であった。
黒い糸が無数に蠢いている様子は見ようによっては百足や芋虫が這い回っているようにも見えるだろう。
「どんな素材で作られてんだよその服……」
「さあな。こっちとしてはわざわざ直す必要もない便利な服だが……」
「いやいや、俺その素材で作られた物は身に付けたくないわ……付けてて痒くなんないの?」
「生憎と生きている死体のような体だからな」
「歩く屍め……こっちは見てるだけで痒いわ!」
「体は生きているからな。不憫でならない」
「体はってなんだよ、心も生きてるぞ失礼な!」
「うるさい。お喋りがしたいなら猫になって中に入ってろ」
「…………。」
「よろしい」
そんな他愛もない話をしながらかなりの速さで馬車を走らせることさらに半日。
「お~ついにやってきましたな~。エドナ王国の首都…………名前なんだったっけ?」
「エドナディエ。そのままの名前なのにどうやったら忘れられるんだ?」
「主よ、メレクに知恵を求めるだけ無駄だぞ」
「カロメウェ、うっさい。お前はもうちょっとオブラートに包め」
「ほぅ、ここが首都の入口ですかな? 中々に物々しい。嫌いではありませんぞ」
「流石に資源大国なだけあって武装も充実してますね……」
「なんであんなに警戒してるんだろうね?」
「何かあったのかな?」
首都の入口であろう門は人一人が通れるほどしか開いておらず、バルガドと同じく巨大な壁が続いており、その上には固定砲台のようなものが鎮座している。
「馬車を止めるぞ」
「どした? まだ大分距離があるけど」
門との距離が百メートルほどの所でシンは馬車を止める
「よく見ろ。砲かどうかは知らんが恐らく固定兵器の類だろう。それがこちらを向いている」
「おぉ、言われてみれば。何か聞きたいことでもあるのかな?」
「とりあえず中にいる奴らは残して行くか」
「あぁ、ロフォカレがいるし大丈夫だろ。行ってみようぜ」
御者台と馬車の中を繋ぐ窓から中にいるように合図を出してから御者台を降りて門の周りに立っている男たちに近づく
「そこで止まってください。何か身分を証明するものはお持ちですか?」
「あぁ、持っている」
「持ってるぞ~」
「お見せしてもらっても?」
「構わないが、コートの内ポケットに入っている。自分で取り出した方がいいか?」
「俺は胸ポケットに入れてる」
「では失礼して……コートのどちら側ですか?」
「左だ」
「ありがとうございます。これですね? そちらの方は取り出していただいて結構です。……はい、ありがとうございます。馬車の中にはどなたが?」
「仕事仲間と移動に必要な荷物だ」
「確認しますので馬車をこちらに寄せていただいても?」
「そうしよう。メレク、お前はここに居ろ」
「了解~。そういえば守衛さん、こんなに警戒して何かあったの?」
「おや、ご存じありませんか? 数日前に隣の大陸で都市が襲撃される事件がありましてね。空船で隣の大陸まで簡単に行けてしまうこのご時世ですから、首都の警戒を緩めるなってことです」
「都市が襲撃? 魔物に押されたの?」
「さあ、どうなんでしょう? 自分も詳しくは……」
「そっか。お疲れ様」
「いえ、仕事ですから」
そんな世間話をしているうちにシンが馬車を門の前に止め、全員降りて身分証となるカードを見せてから荷物のチェックを受けてようやく首都に入ることとなった。
「んで、こっから空船ってのに乗って二日だっけ? 観光する時間もないよな……」
「帰りに寄ればいいだろう。まずは空船に乗る手配が先だ」
一行は巨大な首都に似合う、広く活気のある大通りを素通りして無事に空船の発着場へと到着した。
広大な影が忙しなく動き、陽の光を遮る。上を見れば影を作っている巨大な空飛ぶ建造物が動きながら数機ずつ着陸と離陸を繰り返していた。その姿は飛行船に似通っており、現代のジェットエンジンに近い筒状の物体が船体の最後尾に三基、横の幅もそうだが現代の航空機と比べて縦の幅が圧倒的に広いため視覚的なインパクトは相当なものである。
そんな空港というべき場所で馬車で到着し、職員に手綱を渡して発着場を囲むように建てられた建物のエントランスをくぐり、一行はロビーでカードを見せた後職員に誘導されて一般の客が行き交う通路とは別の通路へと通され、手続きをすることになった。
「カードを」
人々が行き交う中、一般向けとは離れた場所にあるカウンターでカードの提示を求められた一行はそれぞれのカードを職員に見せる
「荷物はありますか?」
「馬車一台に大型の馬一頭だ」
「行先は?」
「アデルニクス」
「それでは……三十分後に出発のアストレア大陸、アデルニクス行です。武器の持ち込みはケース等に入れてから貨物として提出すること。乗り遅れた際は二時間後に着陸予定のアストレア行に搭乗することになるので遅れないように。一般の搭乗手続きが始まるのが十分後ですのでそれまでには搭乗してください」
「どこから空船に乗れば?」
「あちらにある二番ゲートから搭乗できますよ。」
「どうも」
「いえ、良い旅を」
面倒な会話と手続きを全てシンに任せ、ラウンジで寛いでいた一行は荷物などの手続きを終えたシンに急かされ貨物入れに搬入される馬車を見ながら搭乗する。
「こっから二日……長いな~。暇潰しにすることもなし、か。いっそ相棒の中に戻って寝ようかね~」
ガラガラの客席が並ぶフロアにある備え付けのソファで横になりながらそんなことを言い出す
「それも別に構わんが暇潰しなら手頃な相手がいるだろう?」
そう言ってシンが見たのは三人娘。メレクはなるほど、と頷くが当の本人たちは何のことやらと当惑している様子である。
「これだけ大規模な船だ、冒険者向けに体を動かすスペースも確保してあるんじゃないか?」
「三百人乗りだって案内に書いてあったしな~。運動スペースくらいあるんじゃね?」
「一階の先頭付近にあると書いてあるな。模造武器の貸し出しもあるらしい」
シートの後ろに備え付けられた荷物入れに当然の如く備えられたパンフレットを見ていたカロメウェがそんな事を言う
「ほ~、そりゃあさぞかしいい眺めなんでしょうなぁ。一見の価値あり、というわけでここ最近の稽古の成果を見せてもらおうじゃありませんか!」
「そ、そんな急に成果と言われても……」
「そうだよ、あたし達まだ武器の扱い方も指南してもらってないし……」
「とてもじゃないけどまともに相手できる自信ないよ……」
「何言ってるのよ三人共。誰も『メレクと殺し合いをしろ』だなんて言ってないじゃない。いい? 勝とうとだとか、立派に相手しようだとか、そんなことは思わなくてもいいのよ。むしろ胸を借りるつもりで挑みなさい。メレクの攻撃を急所に貰わずいなせたら上出来なくらいなんだから」
「そりゃあブランクあるとはいえ経験的に圧倒的にアドバンテージのある俺が鍛え始めて数日のディア達に負けたらシャレにならんでしょ~」
「暇潰しか。俺も含めて大分鈍っているからな、今のうちに全員軽く動いておくか」
「それもいいですな。では皆でその運動ができるスペースへ参りましょうか」
「おぉ~、すげぇ。絶景かな絶景かな。世界の広さってやつを感じますなぁ」
「感じてもいないことを言うな。お前は何を使う気なのか主が訊いているぞ」
「思ってもいないことを言うのだって時には必要だぜ~? ま、セオリー通りに片手剣ですかね」
「ほぅ、お前なら素手でもいいと言い出すかと思ったのだがな」
「何言ってんだよ、片手剣と素手のどっちが厄介かって言ったら素手の方だろ? おっと、相棒にはそれが分かってるらしいや」
メレクの方へ片手剣を模した木製の模造剣が放物線を描いてやり投げの槍の如く迫る
「ほっと。おぉ、模造って言っても結構重いなぁ。本物志向って奴か?」
剣が床に着く直前に難なく柄を掴み取ったメレクが模造品に対する感想を漏らす
「どれ使うか訊いといて、俺に選択肢は無いのかよ~」
「訊いておいてなんだが、まず覚えるべきは絶対数の多い剣か槍だろう。お前は武器を選ぶ必要が無いからな。まずは剣だ」
「へいへい……そんじゃあ、始めますかね」
「お、お願いします」
「やるぞー!」
「お願いします」
「一対一? それとも三対一?」
「まずは一対一からでいいだろう。サビロスが仕込んだ動きの意味を理解することから始めるか」
「オッケー。そんじゃあ最初は……フェニーチェかな? なんかウズウズしてるしね?」
「しばらく動いてなかったから体動かしたくなっちゃって……」
照れた様に笑うフェニーチェが前に出てメレクと対峙する。
「そういえばフェニーチェは住んでた村で大人と闘った事もあるんだっけ? 剣を使ったことは?」
「ナイフくらいの刃物は使ったことあるけど剣は使ったこと無いや」
「ほ~ん。まぁサビロスが課したメニュー毎日やってたんでしょ?」
「そりゃまぁ……何の意味があったのかはさっぱりだけど……」
「ふむふむ、内容は?」
「砂が入ったバッグを頭の上でひたすら投げてはキャッチしての繰り返しとか、体を揺らしながら片足ずつ屈伸したりとか?」
「ほぅほぅ。じゃあ一つ目のメニューの答えだ。今から俺が出す攻撃をガードしてみ?」
「え? うん」
フェニーチェが返事をした瞬間、メレクが半身の構えからほぼ一瞬で上段からの振り下ろし攻撃を繰り出した。
剣を持ったこともないど素人が防御できるような速さだとは冗談でも言えないそれは、フェニーチェの頭に直撃する
――――ガゴォン!
かと思われたが、メレクの攻撃はあっさりとは言えぬもののギリギリのところでフェニーチェに防御されていた。
「多分、サビロスが三人を鍛える辺り一番力を入れたのがそのバッグをひたすらキャッチアンドトスする地味な動きでしょ? 今やっとフェニーチェはその動きの意味が分かったと思うけど、『剣の鍛錬』と言われて連想する剣の振り方ってなーんだ?」
「……振り下ろしの素振り?」
「クローディア正解! そう、剣の素振りと言えば上段からの振り下ろし! 相手に致命傷を与えるための最も有効な手段、『重い攻撃』を剣で行うための最も確実で容易な攻撃方法で、両手で握っても重心がブレないし、重力に逆らわないから当てやすい。薪割りを普段からしている者なら習得難易度的にも高くない。まさに理想的! 剣を握るものなら必ず通る道なわけだ。もっといえば、剣の重さを最高に活かした攻撃方法とも言える。剣を使う奴等はこの素振りの鍛錬を馬鹿みたいに繰り返して反射的に出せるようになるまでひたすら振りまくるわけだ」
「と、いうことは! 剣での攻撃で一番致死率の高いこの攻撃を確実に防ぐ技術があれば、雑兵程度なら大分有利に戦える。実際、戦い慣れしてない奴のほとんどは焦れたり、パニックになるとほぼ確実に振り下ろしの攻撃をしようとする。それも大振りで。じゃあ、それを受け止めて弾き返したら? 太ももでも脇腹でも腕でも首でもいい。撫でるように刃を当てるだけでもいい。攻撃を受けた事実を相手が認識すれば完全にパニックになって反射的に同じ攻撃をしようとする。首も心臓もがら空きになる攻撃をね」
「そのための砂袋……」
「そ。砂が入ったバッグは結構重いし支えるために両手を開く。上に投げるときの動作も防御してから剣をはじく動きとほぼ一緒でしょ? もちろんある程度戦い慣れしてる兵士なら斜めからの切り付けや突きも使うし多分魔術も使うだろうけど……今は動きの意味が理解できれば十分でしょ。さっきの一撃が防げたなら剣を使う奴と殺し合いした時の生存率は五割上がったと考えていい。んじゃ、続きしよっか。適当に攻撃するから防御する事。余裕あるなら反撃しても全然おっけ~」
いいながらサイドステップをし、上段からの振り下ろしを放つメレク
向きが変わったことで剣の方向を変えなければならなくなったフェニーチェは素早く方向転換し、構える分の遅れをカバーするためにしゃがみながら防御をした。
結果として頭部と剣の距離が空き、見事防御に成功する
「これがさっき言ってたメニューの動きその2の意味ね。しゃがんだ時の姿勢と重心の維持がどれだけ大事か分かった? 鍛えてなかったらこのまま尻もちついて頭真っ二つだよ~」
しゃがみながら防御するという事は当然、地に足が着いていなければ力を入れる事すらままならない。どんな姿勢でも重心は体の中央に来るよう反射的にしておかなければふとしたミスであの世行きである
「ほんじゃ続けるよ~」
その後も五分ほどメレクによるほぼ一方的な攻撃が続き、所々動き方をアドバイスしながら三人の一対一での指導が終わった
「ん~、なるほどね。まぁ初めて剣を持ったにしては及第点だ。んじゃ、三対一。いってみようか」
「メレクは回避と防御のみ、お前たちはメレクにひたすら攻撃してみろ。防御と回避の方法を盗むくらいはできるようにな」
「船を傷つける心配がないくらいの魔術だったら使ってもいいぞ~。俺も多少は使うからな~」
「「「えっ……」」」
「えってなんだよえって……。そりゃ防御なんだから魔術使うのありでしょ。むしろ防御にこそ魔術使うでしょ?」
「魔術使うっていったら普通攻撃でしょ?」
「えっ……いや、そっかそっか。フェニーチェ達はそういう考え方なんだな。……まぁ、とりあえず闘ってみようぜ。そっから色々考えてみ~」
「始めるタイミングは?」
「いつでもどうぞ?」
空船が離陸して大した間もなく、悪魔による指導が始まる




