24 馬車の心臓
「お買い上げ、ありがとうございました」
そんな声を聴きながら店を出る一行が次に向かうのは厩舎である。
馬車を取り扱う店とは違い、馬にストレスを与えないようにするため厩舎は町を覆う壁に沿って建てられている。また、厩舎特有の臭いを宿屋が集まる中心付近から遠ざけるためという狙いもあるのだがそれはさておき、馬車のディーラーの紹介で一行が訪れた厩舎は中々大きなもので小さな体育館ほどはあるだろうか。
この世界の建築物のスケールに慣れてきたシン達には他の建物と比べて多少小さく見えるその厩舎に毒されてきた事を自覚しつつ中に入る。
木や干し草、馬の汗や糞などの特有の臭いが外にいた時よりも強くなるが、その程度で顔を顰める様な者はここにはいない。
「らっしゃい。馬が欲しいのかい?」
厩舎の主人だろうか。明朗な雰囲気を纏う女性がシン達を見て対応する
「あぁ。馬と馬具一式を買いたい」
「馬車用の馬が欲しいんだね? 品種は何でもいいのかい?」
「できれば中の上から上の下あたりの馬が欲しい」
「引くのは市販の馬車かい? それとも競技用?」
「市販のものだ。重さは二十トンで装甲付きだが」
「はっはっは! そいつはデカいね。この町まで引いてきた馬が潰れたのかい?」
「いや、この町で馬車を買ってな。引く馬を買いたいと言ったらここなら良い馬がいると聞いた」
「世辞はやめなよ。あたしの厩舎を薦める奴はあまりいないが、装甲付きってことは軍用車両だね? こんな辺鄙な町で軍用車両を扱ってる大馬鹿者はボーバッツの店くらいさ」
「ほぅ、あの男はボーバッツというのか」
「何だい、あいつは客に名乗りもしなかったのかい? あんた達もあんな奴の店に入るなんて運がないねぇ。あいつはあの手この手で馬車に高額で役に立たないオプション付けさせて売りつける天才だよ。自分の腕に自信があるからあらかじめフルオプションの馬車なんて用意してやがるのさ」
呆れたようにそう言う女性にシンも呆れたように言う
「そう言う自分も名乗っていないと言ってもいいか?」
「おや、こいつは一本取られたね。改めて、マーヤだよ。この厩舎を経営してる。さてと、重量級の馬車を引ける馬となるとそれなりに筋肉がある子じゃないと潰れちまうかもしれないねぇ。まぁとにかく馬を選ぶなら付いてきな。他の店にするってんなら止めないよ?」
「他の厩舎を見て回るような時間は無くてな。ここに馬車を引けるような馬がいないと言うのなら話は別だが?」
「言うじゃないか。こっちだよ」
マーヤに連れられ一旦外に出てから建物の裏に回り込めるよう作られた細い脇道を進んだ先にあったのは、一般的な木造の厩舎である。
中に入れば柵から顔を出す馬が見え、のんびりと草を食む様子は牧歌的な安らぎを与えてくれるだろう。
当然、サイズに目を瞑れば、の話だが。
「驚いたかい? 最近は大型の馬を扱う馬主も減ってきてるからねぇ」
馬の顔を見ようとすると自然と見上げる形になり、キリンの子供を相手にしているような状態になる。
「流石に見上げるような大きさの馬がこれだけ揃ってるのを見るのは初めてだ」
「そうかいそうかい。ま、大型の馬なんて軍用馬がほとんどだからね。どうする? うちで扱ってるのは大型の品種だけだ。それでも買ってくかい?」
「こっちとしては馬車が引ければそれでいい。こいつらは何頭であの馬車を引けるんだ?」
「何頭で引けるか、だって? 馬鹿言ってんじゃないよ。この子達が他のちみっこい馬と一緒だと思ってないだろうね? いいかい、そもそも中型までの馬と大型以上の馬は元になった生き物からして違う。中型までの馬は野生の草食馬を飼いならして交配を続けてきたんだよ。でも大型以上の馬は違う。この子たちは第二級の魔物、オムニバスホースを人に慣らして品種改良した馬が始まりだって言われてる。要するに、他の馬が百頭で引くような馬車も、一頭いれば引けちまうのさ」
「なるほど。無粋な問いだったな、詫びておく。ではここから一頭選んでもいいのか?」
「柵に赤色の印が付いてる子以外ならね。ただし、馬の方が嫌がる素振りを見せたなら諦めてもらうよ。ストレスで殺すくらいなら売らない。それがあたしの店のルールだからね」
「そうか。それで? この中でパニックになりにくい個体と価格の高い品種を教えてくれ」
「街の外を行き来するんだね? 止めはしないが若いうちにあんまり無茶するもんじゃないよ。価格の高い品種はこの中じゃそこの鬣が黒くて体毛が茶色の子がハクニー種っていうお高い品種さね。あたしのとこではそれ以外の子はみんな中の上程度の品種だよ。大型の馬はみんなパニックになりにくいから心配しなくてもいい。個体差はあっても誤差みたいなもんさ」
「どうする相棒。お高い馬買っちゃう?」
「いや、馬車は軍用のものならそこまで悪目立ちはしないだろうが馬は別だ。良い馬を知っている者が見れば少なからず記憶に残る」
「変わらないなぁ。どこまでも」
「誉め言葉として受け取っておく」
「言っておくけどハクニー種を買うなら四千万Gはするよ。競技や式典用ならともかく、外を移動するのにこの馬を買うのはおすすめしない」
「ならそうだな……大型の馬で広く知られてるのはどの馬だ?」
「それならペルシュロン種だね。デカい馬車を見たら大抵ペルシュロン種が引いてるよ。連銭葦毛の子がいるだろう? うちにいる唯一のペルシュロン種さ」
マーヤが視線を向けた馬を見ると鬣の色は白く、背の部分は白、腹のあたりは灰色に白の細かいまだら模様が浮き出たようになっており、足先にいくにつれ黒くなっている特徴的な体毛を持っていた。
「きれいな模様ですね~」
「夜に見る雪みたい……」
「やっぱり大きい馬と言ったらペルシュロンだよね。鬣もキレイ……」
三人娘が感想を漏らしたところで見られていることに気付いたのか、馬も一行の方を見る。
しばし互いに無言で見つめあった後、馬が鼻息を立てて視線をそらしマーヤを見る
「おや、あんたたちの中に気に入られたのがいるみたいだね。良かったじゃないか、連れて行きな」
「え、そんなこと分かんの? 見られただけで?」
メレクが驚いたようにそう言う
「馬ってのは興味がなけりゃ振り向きもしないさね。それに外に出たいときはここの子達はあたしを見るように育てられてる。あとは目だね。馬の目ってのは感情がよく現れる。この子たちが何を思ってるのか理解するには相応の時間が必要だけどさ」
「へ~。そういうもんなのか~」
「そういうもんだよ。この子達と一緒に過ごしていればいつか分かるようになるさ」
言いながら傍にあった大きな袋を担ぎ、柵をどかして馬を出したマーヤは手綱を引いて厩舎の外に出す。
一行はそのまま買った馬車が待つボーバッツの店へ
「お帰りなさいませ。良い馬は見つかりましたか?」
「あたしの育てた馬に良い馬はいないって言いたいのかい? いいからさっさと馬車のとこに案内しな」
「ハハハ、相変わらず気が強いですね。どうぞ、こちらです。お客様は馬車のご用意ができるまで今しばらくお待ちください」
そんなやり取りをしながら勝手知ったる我が家のようにズンズンと奥に進むマーヤに苦笑しながらボーバッツはシン達に冷たい飲み物を出した
マーヤが馬車の置いてあるガレージに入ってから十分ほどだろうか、ガレージに続く大きな扉が開いて中から馬車が出てきた。
馬と馬車の相対的な大きさは見慣れたものと変わりないが、馬車が馬車なだけに馬の大きさも相当なものだ。
改めて見ると体高は三メートルはあるだろうか、四メートルの高さはあるだろう店の天井に届くほど頭の高さが高い。
全体的にがっしりとした体格をしているため競馬に使われているサラブレッドのような線の細さはないが軍用にも使われるという馬車を引くのに太い足や筋肉が浮き出て見える体は頼もしい限りである。
「ペルシュロン種の若い雄、馬車用の馬具とセットで千八百万Gってとこかねぇ」
「払おう。餌は何を与えればいい?」
「ペルシュロン種は草も食べるけど肉の方が好んで食べるね。干し肉を水でふやかしてやれば長期間の移動でも困らないよ」
「肉の方が好きなのか~。結構おとなしそうなのに意外だな」
「中型までは草しか食べられないからそう思うのも無理ないね。元になった魔物が雑食だからその名残さね」
「なるほどね~」
早速メレクが荷物の中から干し肉を取り出して与えようとするが馬は口を開けようとしない
「水で柔らかくしろって言っただろ。固い干し肉をそのまま食べさせたら腹壊しちまうよ」
「贅沢な馬だな~。生肉も食べるの?」
「そりゃそうさ。草で済ますこともあるけど、気分によっては自分で動物を狩ることもあるね」
「ほ~、馬の狩りとな。見てみたいもんですなぁ」
「この子と過ごせば嫌でも見る事になるよ」
そんな事を話しているうちに支払いも済ませ、馬の手綱や進路指示などが問題なく行えることを確認して一行は馬車に乗り込み賑わい始めた町の中心にある大通りを他の馬車とすれ違いながら進む
入ってきた門とは反対側の門から出る際に馬車の検査や荷物のチェックを受け、カードを見せた後、先日の魔物の群れがまだこの近くにいるかもしれないがそれでも行くのかと確認され、何があっても自分の責任であるという旨の書類に全員サインをしてからようやく出発となった。
「あぁ~疲れた。馬車買うとかよりよっぽど疲れた。なんでああいう手続きってこう、何とも言えないストレスが貯まるんだ?」
「法的な手続きというのはそういうものだろう。記憶にも残らぬ軽い手続きなどあってないようなものだ」
「そうですねぇ。私もあまりあのような重い雰囲気は好きになれませんな。やはり明るく朗らかな空気の方が居心地が良い」
「私もああいう空気はダメね。どうせやるならもっと確執と憎悪と疑心溢れるドロドロな空気の方がマシだわ」
「うわぁ……なんで女っていうのはそういうの好きなんだろ。俺は絶対嫌だわそんなの」
「サビロスは~、そういうのが好きっていうより慣れてるって言った方が正しいんじゃな~い~?」
「あら、リロもたまには良い事言うじゃない」
「たまにっていうのは余計~。まぁ~別にいいけどね~」
「流石、器が広いわね」
メレクとシンが御者台に座ってシンが手綱を握り、ほかのメンバーが中でわいのわいのと話している。
御者台と馬車内を仕切る窓は開けているため会話するのに支障は出ない。
ちなみになぜシンが手綱を握っているのかというと、この中で馬車の手綱を握った経験が長い者がシン以外にいなかったからだ。
フェニーチェも手綱を握ったこと自体はあるものの、大型の馬車を扱うには経験が、大型の馬を制御するには力が足りないため今回はお役御免となった。
「い、いいのかな……? 私達一応奴隷の立場なんだけど……」
「どう考えてもダメだけど、お兄ちゃん以外に手綱握れる人いないし……」
「主人に御者させて自分は馬車に乗る奴隷なんて前代未聞ですよ……」
馬車の扱いに関しては役立たずであることを自覚しながら焦るようにひそひそ話をする三人娘。
「まだそんな事気にしてんの~? ぶっちゃけ奴隷って重い意味持ってるのかと思ってたけどさ、完全に形式上の役職みたいなもんじゃん。世間一般の認識がどうとかは知らないけどさ、奴隷ってつまり自分がどの程度の権利を持つか決定するのを他人に一任した人達を指すんじゃないの? なら『一般人が持ってる権利から奴隷が持ち得ない権利を除いた全ての権利を持つ奴隷』って事にしちゃえば形式上奴隷だけど実質一般人と変わらないよな~?」
「自分が奴隷であると思い込む精神疾患にかかっているだけ、と主張する抜け道もあるな」
カロメウェが事実確認を取れない嫌らしい方法を提示する
「お~、それは思いつかなかった。とまぁ、奴隷が主より良い思いしちゃいけないなんて誰も言ってないんだし気にすんなって。結果的に誰が悪いって、今のこの状況になることまで予想できなかった相棒が悪い」
「俺は別に御者をすることに嫌悪感など感じていないがな。むしろお前達も手綱の握り方くらい覚えたらどうだ? ここで生きていくならどのみち必要になる機会の方が多いぞ」
「いざとなったら相棒の中に戻るだけだからいらないって~。それにそのうち馬を必要としない乗り物も出てくるでしょ」
「どうだかな。魔術という便利なものが生活に根付いている以上、自走する乗り物が出るかどうかも怪しい。飛空船があり、魔導推進機関なんてものができているにも関わらず地上を走るのは馬車というのも気になる」
そんな益体もないことを話しながらどこまでも続いていると錯覚しそうな大森林を横目に木々がまばらに生えている道を黒い馬車は通り抜けていく。
「そういえばサビロスってさ、普通に起きてるよな」
「何よ急に。私が起きてたら何か不都合な事でもあるの?」
「いや、前はほとんど相棒の中で寝てたじゃん? なんで急に元気になったの?」
「そんなのあなた達と一緒に決まってるでしょう? 魔力があるからよ」
「……? なんの話ですか?」
「あれ? クロ―ディア達には話してなかったっけ? サビロスが眠り魔だってこと」
「それは聞きましたけど、それと魔力と何の関係があるんです?」
「ん~、そうね。ディア達は私達が人に見えてるかしら?」
唐突なサビロスの質問に三人娘は一瞬困惑する
「そうですね……人にしか見えませんけど……」
「どう見ても人だよね?」
「人じゃないの?」
「それが普通の反応よね。メレク、見せてあげたら?」
「ん~? まぁ賭けに買ったしストックはあるからいいけど、あとで何かおごりな~」
「分かったわよ。早くやりなさいよ」
「んじゃ相棒、殺って」
隣に座るメレクにそう言われたシンは軽くため息をつきながら手綱を引いて馬車を止め、裾の内側から取り出したナイフでメレクの首を切った
「え!? ちょっ、兄さん!?」
「何やってるのご主人様!?」
「でも死なないんでしょ?」
クロ―ディアとフェニーチェが慌てる中、ほかの悪魔たちと同じようにディアーチェだけは冷静であった。
「慣れてきたな」
「純粋な反応も可愛らしいですがね」
「いつでも冷静さを失わないという点ではディアーチェが合格点かしらね」
「ん~? なにかあったの~?」
「ニャア」
馬車の揺れで眠気を誘われたのか、寝ぼけ眼のリガウロスがあくびをしながらそう問うと、膝の上に一匹の黒猫が乗ってきた
「…………なんで猫になってるの、メレク」
「ニャア~……」
リガウロスが猫のうなじをつまんで持ち上げると、猫はつまらないとでも言うように不満げな鳴き声を漏らす
「え? 何ですか、今の」
「ていうかメレクさんの体は? えっ? どういうこと?」
「別の動物になれるの?」
「忘れてるかもしれないけれど、私達は悪魔だから本来は体なんて持っていないのよ。だから魂を借りてその記憶を頼りに自分達のイメージをトレースして肉体を作ってる。人の魂を元にすれば人として生まれるし、猫の魂を元にすれば猫として生まれるの。もちろん肉体はその動物基準だから猫の姿で人語の発声をするなんて器用な真似はできないわ。本題だけど、私の力はとても魔力を使うから回復が追い付かないのよ。前にいた場所はほとんど魔力が無かったから常に貧血と低血圧の状態だったと言えば伝わるかしら? でも今は周りに魔力がたくさんあるから元気ってわけ。分かった?」
「ニャ~」
うんうん、と、なぜか偉そうに頷く猫――メレクを見て、三人娘はそれぞれ感想を漏らす
「何というか……可愛いですね」
「うん、かわいい」
「でも中身はメレクさんなんだよね」
前足で顔をぬぐうように動かし、ひげの手入れをするメレクに三人娘の視線が集中する。
もう十分だと思ったのか、御者台に戻ったメレクはシンの膝に乗り尻尾を振る。
「なんだ、戻りたいのか? せっかくだ、夜になるまでその姿のままでいたらどうだ?」
「ニャ!?」
「賛成だ。メレクのおしゃべりも少しは治るだろう」
「猫とは言え立派な一つの魂ですぞ。過去に遊んだ分もありますし、その姿で反省しては?」
「そう言えば猫の魂で遊んでたことあったわねぇ。目の保養にもなるし、そうしなさいな、メレク」
「別に何か支障が出るわけでもないし~、良いと思うよ~」
メレク、調子に乗った結果裏切りに遭う
ちなみにリガウロスの場合はサビロスと逆だ。前の世界で魔力を貯め込んでいた彼女はこちらに来てから魔力を取り込みすぎたために眠気に襲われている。
雪山で生命の危機から眠くなる事と満腹で眠くなる事の差……と表現すれば分かりやすいだろうか。
ともあれ、馬の様子を見て小休憩を取りながら馬車は夕暮れの一本道をひた走る。
「ニャ~……ニャ~……ニャ~……ニャーニャーニャーニャーニャー――」
「うるさい。分かったから黙れ」
「――ニャーニャーギニャ!?」
空が暗くなってから、余りにも鳴き声を上げ続けるメレクにいい加減しびれを切らしたのか今度はメレクの頭をナイフで貫いた
「あーっもう! やっと戻れたわ! みんなひどいよ! 俺が何したっていうのさ!?」
「文句を言う前に血を拭け。狼達が寄ってくる前にな」
「それならちょっと前から獣臭いのが一匹、俺らに付いてきてるよ」
「それを早く言え」
「猫の状態で言えるわけないじゃんか~」
「あのサイズの狼が来るとして体当たりでもされたらたまったものではないな。止まるぞ、狼を狩って肉を調達する」
そう言うのが早いか、手綱を引いて馬車を止め、御者台から降りたシンは後方を警戒しながら扉を叩く
「全員降りろ。狼を狩ったやつは夕食で肉を多くとる権利をやろう」
その言葉を聞いて素早く降りてきたのはフェニーチェとディアーチェの双子姉妹。
目にやる気をたぎらせ獲物を狩る視線を彷徨わせながら獣の耳を立てる
遅れてクロ―ディアと悪魔たちが降り、馬車内は誰もいない状態に。
「固まるな、左右に余裕をもって広がれ。見つけた奴から馬車の先頭を十二時として方角と距離を言え」
そう言い終わるとほぼ同時、双子姉妹が同時に反応する
「あっちの方向! 近いよ!」
「七時の方角、距離六十メートル!」
そう言い終わる前に森から驚くほど静かに大きな影が飛び出した。
黒い狼。バルガドとの戦いで見た灰色の狼達より一回り小さな個体。だが感じる圧力は比べ物にならない。
馬車から降りたばかりの密集した所へと突撃する狼。
時間にして二秒弱。その間に悪魔たちは左右に散開し、フェニーチェとディアーチェの襟首と腕を取って避難させた。
だが経験の差か、本能の差か。クロ―ディアだけが一歩分、皆よりも前にいた。それはすなわち狼にとって最も近い獲物であり、悪魔たちにとって最も保護が困難になるという事。
サビロスがクロ―ディアの背中に向かって手を伸ばすが、それよりも早く狼がクロ―ディアにその牙を食い込ませるだろう。
クロ―ディアはまだ生きた者の血を己のものとしていない。それはつまり、魂のストックが無いことを意味する。
身体能力が特別優れているわけでもなく、理不尽と言えるような能力は高い再生能力と持っている命の数だけ生き返れるというだけの吸血鬼。
その吸血鬼が命のストックを持っていなかったら、ただの多少力がある一般人でしかない。
死ぬ。今度こそ、確実に。
再生能力も即死では意味が無い。
助けも間に合わない。
思考が速くなったところで、死への時間が延びるだけ。
そこまで考えたところで、避けるために足に力が入り始めたのをクロ―ディアは自覚した。
たった一歩分の距離。
それが生死を分けるなどとは夢にも思っていなかっただろう
死を覚悟して目を瞑った瞬間、クロ―ディアはその場から跡形もなく消えていなくなった。
ちなみに、ギネス世界記録に載っている世界最大の馬はベルジャン種のBig Jake号(2012年)。
体高が210.2cmもあるんだそうです。それでもすごいのに歴代最大の馬はギネスが作られる前、
1846年に生まれたシャイヤー種のSampsonという馬。体高219cm、体重1524kgという驚異の大きさ。
その大きさからSampsonからMammothに改名されたとか。マンモスって……。




