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21 自由を騙る法の枷

飲むものが消え、冷え切ったカップが残された広い部屋に空気の揺らぎが生まれる

夏の暑い日に見られる陽炎(かげろう)の様にも見えるそれは瞬く間に拡がり、その場に七つの影を産み落とした


「……無事に戻ってきたようだな」


「そのようだね。……しかし、君も無茶をしたのぅ。あの話の進め方にはヒヤヒヤしたぞ」


「中々面白い取引だったな。最後の最後で痛手をもらったが……許容範囲だろう」


「あれを痛手と言うかね……やはり君は少し変わっている」


「変わっている? 素直に感じたことを言ったらどうだ? 狂っている、と」


「……少なくとも、この場において考えた事をそのまま口に出すことは貴族失格である、と言っておこうかの」


「貴族社会に馴染みすぎた弊害か、難儀なものだな。あの公務官ほどではないが」


「ケートス君か……彼も相当なものだ。……君ほどではないが」


「よく言われる」


二人は先程まで行われていた議会の様子を思い返す




――――――――――――――――――


『さて、これにて今回の議題に対する決定としたいところなのですが……その前に一つ、彼に質問をしてもよろしいでしょうか?』


条約の締結と地図の入手、各種手続きの内容等が決定した後、ケートス公務官はシンに対する質問の許可を王達に求めた


これに対し質問があるのならばむしろ歓迎するというのが王達の考えであった。

不干渉という裏条約を締結こそしたが、それを破棄することが可能だという事実も忘れてはいけないのである。

条約が破られる――即ち相手から、もしくは自分たちから敵対することになった時、少しでも勝算が見込めるように相手の情報を得るのに越したことは無いからだ。

故にシンに対し質問することに王達に否は無かった


『では質問です。吸血鬼シン・クロノス()、あなたは人の作った法律(・・・・・・・)というものをどう考えていますか?』


「……どう考えているかか、それはまた随分と曖昧な問いだが……そうだな。時と場合によって従う価値のあるものと無いものの差が激しくなるもの、と考えている」


『と、言いますと?』


「国民のモラルや意識を高くするために布く法、罪人を決め、裁くための法、弱者救済のための法。人が作る法には様々なものがあるが、国によっては気に入らない者をまとめて社会のゴミに変える法もある。法と呼ぶに相応しい法もあれば馬鹿馬鹿しい法もあるということだ」


『なるほど、確かに人が()いた法は完全ではない。時に弱者を傷つけ、強者に力を与える事もある。故に時と場合による……ですか。しかし貴方の口ぶりからすると法を守る気があるように感じますね』


「さあ? それはどうだろうな? 俺に法を守らせたいのか?」


薄い試すような笑みを浮かべるシンを見たケートス公務官は何かに納得したようにため息をついた


『ふぅ……やはりそうですか。皆様、お聞きの通りです。恐らく彼は既に知っています(・・・・・・)。気付かなかったのではない、知っていながらあの取引の条件を提示したのでしょう。我々が今すべきこと、僕が代わりに宣言してもよろしいでしょうか?』


主語が全くないケートス公務官のその言葉に、即座に賛成の青い光を発したのは十数名といったところ。しかし徐々に青い光が増え、しばし悩んでいた様子の王達も諦めのようなため息をつくと青の光が議会の席ほぼ全てで生まれ、満場一致で賛成の意となった


「意外だな、多少は揉めると思っていたが……いいんだぞ? 認めなくても」


ニヤリとした嫌らしい薄笑いを浮かべ、心の中に潜む悪魔に囁きかけるように言われた王達だが、理性で抑え込み、意見を示す光を変える者はいなかった


『では、国際法として例外的に吸血鬼シン・クロノスの基本的人権の所有(・・・・・・・・)を認め、これを保証します。』





――「フラメヴィアの悲劇」――そう呼ばれている事件が約百節前、中央海とも呼ばれるサンク海を取り囲む四つの大陸のうち、北に位置する世界最大の大陸、アストレア大陸で起きた。


事件の原因は人種差別。当時、フラメヴィア連合と呼ばれる計六ヵ国からなる連合で吸血鬼に対する差別が行われていた。

『吸血鬼は人の生き血を求めて彷徨う幽鬼であり、死後の世界から来た亡者である。夜に会えば赤子が喰われ、昼に会えば子供が連れ去られ、朝に会えば妻を捕られる』

そのような考えが古くから常識とされ、吸血鬼を殺すことは罪にならず、捕獲(・・)すれば実験や体のいい労働力として奴隷にされる。


当時、吸血鬼の国であったルコントはフラメヴィア連合の考えと教えについに激怒。戦争にまで発展した。

だが戦争が起きた時には既にフラメヴィア連合の常識(・・)は国を超え、山を越え、海を越えて世界中に浸透していたのだ。

魔技術という考え方が生まれ、魔法薬学が新たな進展を迎えたのもこの時期である

その常識は、『人種差別を行っていた連合にルコントが宣戦布告した』というものではなく、『幽鬼を管理、調整していた連合に幽鬼が押し寄せてきた』という齟齬(そご)を人々の認識に生み出した。

ルコントが敗北し、後世になって吸血鬼が幽鬼というにはあまりにも知性的であるという認識が生まれれば連合側が批難され、吸血鬼の差別が消えたかもしれない。

だが吸血鬼の国、ルコントは強すぎた。六ヵ国を相手にし、たった一ヵ国で対抗どころか滅亡にまで追い込んでしまうほどに。


この事件に周辺国は対策をとらざるを得なくなった。幽鬼の大群が連合を滅ぼし、自国にまで迫っているかもしれない。そんな状況下で戒厳令を敷かない無能はいないのだ。

結果、連合が滅亡してから数日後に理性を持たず、満たされぬ空腹から人の血肉を求めるヴァンパイアとグール、ゾンビの大群……元フラメヴィア連合国の国民であるそれが周辺国の国境警備隊と衝突した。

国境警備隊の彼らは、『吸血鬼が攻めてくる可能性が極めて高いため警戒を密にせよ』と命令を受け、大地を飲み込むほどの数で蠢く動く死体達と相対した時、何と思っただろうか? 

恐らくは誰もが対吸血鬼のスペシャリストであった亡きフラメヴィア連合から伝わった常識(・・)を思い出していたことだろう。六ヵ国の人口に等しい数千万、数億体にも及ぶ吸血鬼(・・・)が人である自らの血肉を求めて攻めてきたと感じたことだろう。


フラメヴィア連合を中心としてバラバラに散ったヴァンパイアやゾンビ達を吸血鬼達は止めなかった。そもそも彼らにとってヴァンパイア達は出来損ないであり、身内ですらない。そして最大の要因は、彼らにとって、人類とはフラメヴィア連合であったことだ。吸血鬼は閉鎖的なものが多く、基本的に同じ種族以外との接触を嫌う。故に彼らはフラメヴィア連合以外との周辺諸国とコンタクトを取っておらず、また連合以外に国があることも知らなかった。

彼らにとって必要なのは生きるための血と住むのに快適な場所であり、それを満たした場所――現在はバッファル多層大洞窟と呼ばれる――から動く意味も理由も無かったのである。

故に当時の吸血鬼は人類を憎んでいたと言ってもいい。

だから止めることなどしなかった。どこへでも行けばいい、そう思っていたのだ。数ヶ月後に周辺諸国から大規模派兵が決定し、自らの国が焼き尽くされるまでは。


『吸血鬼が溢れ、周辺諸国にまで猛威を振るった』

その情報はアストレア大陸の国々に危機感を覚えさせた。幽鬼は多少の致命傷では死なず、危険性が高い。放っておけば自国も損害を被ることになる。特に陸路での貿易で栄えた国が持った危機感は並大抵のものではなかったことだろう。

すぐさま討伐するための軍が周辺諸国から兵を集めて結成され、吸血鬼を殲滅……否、絶滅(・・)させるための大規模派兵が決定された。


結果、多くの兵が殉死したが吸血鬼の()は焼き尽くされ、吸血鬼は世界中に散り散りとなった。

数多くの一般人の死と勇気ある兵士たちの犠牲によって、冷血非道、血をすする幽鬼である吸血鬼に人類の強さを示した歴史的事件。

それを後世の歴史家たちはこう呼んでいる。『フラメヴィアの悲劇』、と。

ただし、その戦争(・・)が多くの誤解と偏見と、不可抗力の末に生み出された救いのない悲しいものであると知るのは、極僅かな人物とこの文を読んだ者のみである。



フラメヴィアの悲劇から数ヶ月後、アズ・ナレプセ含む世界中で吸血鬼を人型の魔物に認定。

吸血鬼には人権、国籍、尊厳の一切を認めず、また飼育、管理の方法は魔物に関する国際法に準拠されることとなった。


故に、異人といえども現在のシンとクロ―ディアに人権が認められることは無い。

そしてシンが取引の交換材料として提示した条件の中に人権の保障などという項目は無かった。そして王達は、それに気づいていながら澄ました顔で交渉を行い、笑っていたのである。

故に王達が感じたのは悪魔との(・・)取引ではなく『悪魔()取引』。

シンが雄弁の悪魔なら、人権や尊厳の所持すら忠告しない自分たちは沈黙の悪魔であると、王達は自覚していた。


後でそのことを知ったシンが再び有益な交換材料、即ち自らの人権と尊厳に足ると思うほどの条件を持ってこの場に現れることを期待して。


だがケートス公務官との法に対するやり取りでシンは善なる法もあれば悪の法も存在することを理解していた。それこそ『国によっては気に入らない者をまとめて社会のゴミに変える法』が存在する事も。

そしてその後のケートス公務官の主語のない言葉にも全く反応を示さなかったことから気付いていると感じた者が多かった。

そして最後の「意外だな、多少は揉めると思っていたが……いいんだぞ? 認めなくても」という言葉で王達は確信したのだ。シンが吸血鬼は何も持っていないことに気付いていると。

気付いているのなら、敢えて条件に載せなかったことになる。つまり、人権等を認めないことがシンにとって有利に働くという事。


そして王達は気付いてしまったのだ。シンが人権を持たないことによって得る利権を。


人権とは、人が人であることを保障する権利である。そしてその中には、人であるための義務も含まれる。

あまりにも当たり前の事であるが故に誰しもが忘れていることであるが、その中には『法を守る義務』も含まれている。法治国家ではこれが大前提となるがゆえに基本的に全国民が基本的人権の所有が認められているのである。

では人権自体持っていない者ならば、法を守る義務というのは発生するのだろうか? 当然違法行為は捕まり、処罰されるが、それは捕まえられたら(・・・・・・・)の話である。

捕まえられず、処罰を完遂できず、人権を持たぬが故に法を守る義務すら与えられていない。

そんなものを武力以外でどう縛れと言うのか。

そして武力でシンを縛るには、どれほどの戦力を常時動かさなければならないのか。


シンとしてはどれだけの戦力が動こうが関係ない。不干渉の裏条約は締結し、住居の自由も認めさせた。

だがシンに人権は無いため条約を破ろうが法の指示に従わなかろうがそれを守る義務はないのである。


屁理屈だ。清々しいまでの屁理屈である。

しかし理屈とは不思議なもので、実行・証明できぬものが唱えればそれはガリレオ・ガリレイのように机上の空論と化し、その逆ならばアインシュタインの如く素晴らしい発見とされるのである。

今回のシンの屁理屈はアインシュタイン側だ。なにせシンはその屁理屈を実行できてしまうのだから。


ならば屁理屈を盾にして好き勝手されるよりも、人権という自由を騙る法の枷を与えたほうがマシ

それが王達の、ケートス公務官の考えだった。





『では、国際法として例外的に吸血鬼シン・クロノスの基本的人権の所有(・・・・・・・・)を認め、これを保証します。』


「断る」


『…………え? は、はい?』


「断ると言ったんだ。今の発言、訂正しろ」


場に静寂が降りた


王達は固まり、もはや言葉もない。ケートス公務官も困惑していたがすぐに気付く


訂正(・・)ですか?これ以上何をふっかけてくるつもりで?』


「大したことじゃない。一言付け加えろ、俺の同行者全員(・・・・・)……とな」


『なるほど……同行者ですか。条件付きならば許容範囲内だと思いますよ』


「条件とは?」


『国家転覆、戦争誘発、建国、宗教新興、大規模な自然破壊等、無用な混乱と社会秩序の揺らぎを起こすようなことをしないと保証し、同行者が起こした問題の一切の責任を負う事。これが認められるのならば許可をしても問題は無いかと』


「実に判断が速いな。優秀だな、どちら(・・・)も」


『お褒めにあずかり光栄です。では以上の内容を条約に加筆するという事でよろしいですね?』


反対意見がないことを確認したケートス公務員は少し満足気に頷いた


『ではこれにて、王連会議を終了と致します。本日は集まりいただき誠にありがとうございました』


こうして静かに世界会議とも呼ばれる世界中の国のトップが意見を交わす王連会議は終了したのである





――――――――――――――――――


「さて、君たちも今日は疲れただろう、帰ってゆっくり休むといい」


どことなく疲れた様子の三人娘を気遣ってか、バラーク辺境伯はシン達に帰ることを勧める


「あぁ、そうさせてもらおう」


そう言うとシンはさっさと部屋から出て行き、それを見た三人娘も慌てて後を付いて行くのであった





「それで? 結局俺達はどういう扱いになったんだっけ?」


水精の庭に戻ってきたシン達に赤黒い渦から出てきたメレクが目を擦りながら訊いた


「なんだ、聴いていなかったのか?」


そう言うとシンはポケットから何かを取り出してメレクに投げた

カード状のそれはクルクルと回転してメレクに飛んでいき、メレクはそれを人差し指と中指で見事にキャッチすると自らの顔の前まで持っていった


「何だこれ? ……世界合同統合連盟機関……任務部門所属……だいきゅうぶたい……たいいん? 何この長ったらしい上に覚え難くてどこか物騒な響きのある名前は?」


「今日からそれが俺達の身分証明書になるそうだ。金の管理に仕事の請け負いを管理するツールにもなる便利な代物だそうだぞ。一人一枚、再発行は初期の発行から十年経つまでは認められないそうだ、失くすなよ」


「え~……ちょっと待てよ相棒、それじゃ何? 俺達自称正義の味方の犬に成り下がっちゃったの?」


「俺がそんな契約を飲むと思うか? 安心しろ、かなり優遇されている方だ。まず俺達がその組織から仕事を受けるかどうかは基本自由だ。緊急かつ俺達の力が必要と判断された時には三ヶ月に一度だけ俺達に指名の依頼が来る。それ以外はどんな仕事を受けようが受けまいが俺達の勝手だな」


「なんだ、それなら一節に四回依頼受けてこなせばとやかく言われることはないんだな?」


「そういうことだ。次に俺が出した通行の自由だが、これを見せれば大抵の場所……それこそ立入禁止区域だの閉鎖区域もスルーできるらしい。アズ・ナレプセとやらの影響力が届いてる範囲内での話だがな」


「ほ~、中々便利ですな~。金に困ったらいつでも仕事が受けられるとは、職業斡旋所も真っ青だ」


「仕事を受けるには冒険者協会とやらの支部に行けばいいらしい。それから、そのカードには任務部門所属とあるが実際は特殊部隊扱いだということだ」


「要するに独立したチームってことだろ? いや~、なんか頑張ってこういう職に就いた人達に悪い気がするな~」


「そう思うなら一度本人達に謝ってみたらどうだ?」


「冗談。俺が言ってもなぜかみんな怒るんだ」


「それはお前が思ってもないことを言うからだ」


「そりゃそうだ。ハハハハハ!」


「はぁ…………。さて、これはお前達全員分発行されてある。各自で持っておけ」



国際機関の特殊部隊所属、それはシンが提示した条件であるどの国にも属さずに身分を保証し、通行の便と世界中から集まるありとあらゆる情報の閲覧権限、国家からの直接的な干渉などをある程度はまとめて解決する事の出来る合法的な手段であった。


そして国際機関に(形式上は)所属することになった以上、その隊員が法を侵す事を世界平和という理念を掲げている組織が許すはずもない。

手っ取り早く、細かくは公表されない部分であるために一部隊分の加入を世間に知られずに行うのも容易だ。


結果、表向きは任務部門第九部隊、正体は非公開特殊部隊という存在しないはずの部隊が作られた。




「ちなみに隊長は俺という事になっているらしい。階級、人種、年齢、国籍全て機密扱いだそうだからちょっかいをかけてくる馬鹿もそうそう現れないだろう。以上が俺達の現状だ。質問は?」


誰も手を挙げず、三人娘に至ってはここ数日のトレーニングと普段とは別の空気に当てられて相当疲れたのか眠気が限界をむかえている様子であった。


「では解散だ。俺も寝る」


そう言って寝室に行くシンを見て悪魔たちと三人娘は寝室に付いて行ったり、街を見て回る用意をしたり、遅めの昼食を食べに行こうとしたりと、各々好きなように行動し始めたのであった







翌朝、曇りガラスから覗く日の光でシンは目を覚まし、顔を洗って朝食の席に着くと昨日手に入れたばかりのカードをしげしげと見る。

厚さは五ミリほどか。丁度手のひらに収まるほどの大きさで透明性のある青いカードに金色に輝く文字が彫られているように見えるが、表面に凹凸がないので二重になっているのか正体不明の技術で作られているのだろう。


「あ~いたいた。おい! シン! お前さんに知らせ(・・・)が来てるぞ!」


そんなシンに声をかけたのは朝食を作り終えたダムルだ


「知らせ?」


「なんだ、お前さん知らせを知らないとは本当に現代人か? 今じゃ割と普及してるだろ」


「あぁ、知らせか。悪いな、田舎にいたからど忘れしていた。それだな? かわってくれ」


「ほらよ。なんか困ったことがあったみてぇだがお前さんの友人か?」



『知らせ』とは魔技術の発展により発明された電話のようなものである。魔力の波である魔力波を記憶する特殊であるが産出量が多い水晶や鉱石に特定の波長を記憶させ、そこに空気の波を情報として送ることできる特殊な機械を付属したものが一セットとされている。

自分の名前や店の名前と場所など、特定の情報とともに通信局に登録し、通信局の局員は知らせを届けたい相手と知らせを受け取る相手の水晶の波長を合わせることで遠くからでも会話ができるように調整している。

昔の国際電話を思い浮かべれば想像しやすいだろうか。


波長を変えるための比較的貴重な水晶や鉱石を大量に用意できない課題を克服するために通信局という波長を合わせるためだけの施設を考案し、それを実践できたのは技術者たちにとって幸運であると言えるだろう。

これによって膨大な雇用が生まれ、経済が安定した国まであるというのだからその影響力と利便性は世界中で評価されている



「シンだ。お前は誰だ?」


ダムルからメカニックな付属品がついている水晶を受け取ったシンは知らせを送ってきた相手が誰なのかを確かめる


「やあ、昨日ぶりですね。ケートスです、覚えていますか?」


「あぁ、覚えているさケートス公務官。どうした? 今になってお偉いさんから転勤でも命じられたか?」


「あぁ……えーと、それは皮肉ですか? 僕そんなにあなたの機嫌を損ねるようなこと言いましたかね? ……って、そうじゃなかった。あなた達に仕事です。拒否権はありません」


「ほぅ……? 三ヶ月に一度の権利を初日に行使していいのか?」


「今ある世界の問題が片づけば数年ほど問題が起きないとして、それを解決する力と手段を持っているのにその問題を放置してさらに多くの問題を抱えようとする人がいると思いますか?」


「……なるほどな。了解した、仕事はどうやって受ければいい?」


「バルガドに三つある冒険者協会の支部、そのいづれかで指名依頼を受諾してください。百六十八時間以内に任務完了の報告をすること。その実績で他の特殊部隊を黙らせることもできます。報酬については依頼書を参照ということで」


「いいだろう、場所は?」


「アストレア大陸南西部にある小国、アデルニクスです」


それだけ言うと知らせは切られた


「アストレア大陸ね……また随分と遠い場所まで出張になったものだな」


「アストレア大陸? お前さんそんなとこまでいくのか?」


「ちょっと仕事の依頼が入ってな。四日も経てば戻ってくるが、部屋は引き払った方がいいか?」


「荷物はどうするんだ?」


「持っていくが?」


「なら部屋の空きが無くなるまではお前さんたちの部屋は取っておいてやろう。まだ例の物も完成してないからな」


「それはありがたいな。では他の奴らを起こしてくるか」







法の枷を嵌められた静かな猛獣の仕事が始まる


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