18 頓挫
お待たせしました(´・ω・`)
いや~今回の話は難産でした、本当に。
物事を分かりやすく書くって難しいですね(´・ω・`)
「で、結局どうするか決めたのか?」
「ああ」
バルガド防衛戦から夜が明けて人々が忙しなく動く時間。
輝く太陽が都市を明るく照らし、人々の活気に満ちている大通りから少し外れた場所に佇む木造の宿『水精の庭』。
その一階にある歓談スペースの様な一角で二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。
銅色の髪と瞳を持つ男はどこか緊張したようにもう一人の男を見つめ、黒い髪に紅い瞳を持つもう一人の男はその視線を受けてコートの内側に手を入れると円筒形に巻かれた紙をテーブルの上に置く。
「良いんだな?」
「ああ、問題ないだろう」
主語のないやりとりだが何が主語にくるのかは二人とも分かり切っているので今更出すこともない。
「分かった。なら次の話だ」
「理屈の話だったか?」
「ああ、そうだ。これで音が抑えられる理由を……なんかこれ設計図が変わってないか?」
ダムルがテーブルに置かれた紙を広げると、そこには前に見せられた時と違って四方向から見た消音器の詳細な図案と断面図が描かれていた。
「変わってはいない。前に見せたのは上から見た時の断面図で、今回用意したものは他の方向から見た断面図だ。」
「こんなの用意できるなら最初から用意しとけよ」
「最初からそれを見せる訳がないだろう。『理屈が理解できなくとも作ることは可能』という危なっかしい状態になるに決まっている」
「それはこの前の時に……待て、これは膜じゃなくて中央に丸く穴が開いてたのか……。ここも垂直じゃなく斜めになってやがる……そうか、だから……」
「どうせ設計図を見た後で自分で試作品を作ろうとでもしたのだろう?」
シンがそういうとダムルは苦虫を噛み潰したような表情をしてシンを見た
「ああ、まぁな。実用性皆無の失敗作になったが」
「だろうな。技術職の連中はお前の様な阿呆が多い」
「おおぅ、言ってくれるじゃねぇか。こちとら鍛冶に触れてから八十節は経ってるんだがな」
「後先考えずに物を作る奴を阿呆と言わずに何という? 最悪の場合、お前の周囲ごと人生に幕を下ろさらなければならなくなったところだというのに」
「おい、流石にそれは冗談だろ?」
「冗談だと思うならそれもいいだろう。だがなダムル、お前が思っている以上にこいつを欲している者が、組織が、国があったとして、お前が俺の渡した設計図通りにこれを生み出したとしたら? そいつらがお前の知識と技術をなりふり構わず狙ってきたとしたら?」
その状況を想定し、想像したのだろう。ダムルの表情から僅かに血の気が引いた。
「新しい技術というのは、いわばまだ世間にとっては『未知の何か』であり、特定勢力においては切り札となる可能性を孕んでいる事も、時には戦争の火種にもなり得る事を忘れるな。技術に携わる者として、長生きしたいのであるならば、の話だがな」
「……あぁ、そうだな。分かった。肝に銘じておこう」
真剣な顔で頷いたダムルを見て何がおかしかったのか、シンはくつくつと笑い始める。
それを見たダムルは訝し気に眉を上げて
「どうかしたか?」
とシンに見ると、シンは笑みを止めてこう返した
「いや、すまんな。ちょっとした冗談のつもりだったのだが、こうも真面目に返されるとまるで大人が吐いた嘘を鵜呑みにして愚直に信じる子供を見ているようでな。つい笑ってしまった」
「……お前、俺をおちょくってるのか?」
眉をピクピクと震えさせながらダムルが言うとシンは悪びれた様子もなく話を続ける
「さて、どうだかな。そんなことよりも話を進めないか? 原理を知りたいのだろう?」
「……腑に落ちねぇが今はいいだろう。後で覚えとけ……」
「では説明に入ろう。ダムル、お前は音というものをどこまで知っている?」
「どこまでってそりゃあ……また随分と説明しずらい質問だな」
「では質問の仕方を変えようか。音がうるさいと思ったとき、どうすれば音を小さくできる?」
「あぁ? そんなもん耳を塞げばいいだけじゃねえか」
「そのとおり。では次の質問だ。何故耳を塞ぐと音が小さく聞こえるんだ?」
「なぜってそりゃ…………なんでだ?」
「答えは簡単。音とは人の耳の中に突然現れるようなものではなく、あらゆるものを伝わって耳に届くものだからだ」
「…………なに? すまん、言ってる意味が分からん」
「だろうな。理解するとは微塵も思っていないから安心しろ。こういうものは実際に体験すれば分かりやすい」
そう言ってシンが取り出したのは手のひらサイズの棒だ。ただしそれは途中で二又に分かれており、アルファベットの『Y』にも、先だけを見れば『U』にも見える。
白銀の金属光沢を放つそれをシンが指で弾くとキィーンという耳鳴りの様な高音が放たれる
「うぉっ! ……すげぇ高い音だな」
ダムルは音を放つそれをしげしげと眺めてから、ある違和感に気付く
「おい……これ、いつまで鳴るんだ?」
そう、音がいつまでたっても鳴り止まないのだ。
ダムルとて娯楽である音楽などは聞いたことがあるし、楽器に触れた事も演奏したこともある。故にいつまで経っても鳴り止まないこの物体の異常性が僅かながら感じ取れる。
ダムルが知っている楽器といえば笛や弦楽器、打楽器などだがいづれも自分の目の前にあるものほど長く音を出すなどできない。
いったいどうやって音を出し続けているのか。いや、それ以前にいつまで鳴るのか。
問うたダムルにしかしシンが返したのは
「よく見ろダムル。今お前が知るべきなのはそれではない。こいつをよく見て観察し、気付け」
という誤魔化しの様な返答であった。しかしダムルはそれもそうだと思ったのか特に追及はせず、再び目の前の物体――音叉をまじまじと観察する。
そして気付いたことが一つ。それを口に出す
「揺れてる?」
「そうだ、揺れている。振動しているのだよ」
「まぁそりゃ分かるがな、それとお前さんの作りたいものとどう関係があるんだよ?」
「関係など無いに決まっているだろう。何を言っているんだお前は」
「……俺は怒っていいのか?」
「もちろんダメだ。では次は厨房に行くぞ」
そう言って音叉をしまってズカズカと歩いていくシンを青筋を立てつつ付いて行くダムル。
そして厨房に着いたシンが手に取ったのはフライパンのような鍋だ。
「こいつと油、それに水を使わせてもらうぞ」
「ああ。そりゃ構わないが、お前さん一体何がしたいんだ?」
ダムルの問いには答えずコンロの様な器具で火を起こし、フライパンを火にかけてその上に少量の白い塊――ラードのような動物油脂を置く。
みるみるうちに溶けて透明な油になったそれを十数秒眺めたあと、シンはおもむろに水道へ行きボウルに水を入れ、そのボウルに手を突っ込んで手を濡らした。
何をするのかと見ていたダムルは、シンが自らの水の滴っている手のひらをフライパンの上へ持っていくのを見て思わずと言った様子で静止の声をかけようとする。
「お、おい!」
しかしシンはそのような声など聞こえないとばかりに手から水を切るようにパッパッと手を振る。
結果、当然水滴は油の引かれたプライパンの上に落ち、パチパチと弾けるような音を出す。
それを見たダムルは慌てた様子でシンの手を取り確認するも、油が跳ねたような跡も火傷した様子も見られない手を見てキョトンとする
「この程度では火傷などせんよ。俺の身体を舐めてもらっては困る」
そういって薄笑いを浮かべるシンにダムルはついに堪忍袋の緒が切れたのか静かな怒りのこもった声を上げる
「お前なぁ……「気付いたか?」――あ?」
しかしシンの問いに遮られ、その問の意図も掴めなかったダムルは怒りの矛先を失ったかのように硬直した。
「なんだ、気付かなかったのか? 仕様のない奴だ。もう一度やるからよく見ていろ」
そう言って再び熱した油に水滴を散らすシン。再びパチパチと破裂音を響かせるフライパンの上を見たダムルはしかしこれで何をシンが自分に伝えたいのか分からず首を傾げる。
それを見たシンは三度目はないと話を進める
「音がしただろう。何かを叩いたわけでも、弾いたわけでもなく。ただ熱した油と水を混ぜただけで」
「……確かに。だが音なんて風でも起こるし火でも起こるじゃねえか」
そう言ってダムルがコンロの火を強めるとゴォーーという音が鳴る。
それを見たダムルはほらな? とシンを見ると、シンは一つ頷くとさらに話を進める
「その通りだ。だが結論から言ってしまうとするならば、今その火で起こっている音と、先ほど油と水で起こした音は同じ原理で起こっているのだよ」
それを聞いたダムルは何言ってるんだこいつと言わんばかりの表情でシンを見る
「あぁ、お前の言いたいことは分かるぞ。では結論までの過程を述べるとしようか」
そう言って火を止めてまたズカズカと歩き出したシンにため息を吐きながら付いて行くと着いたのはダムルの地下工房
「おい、こりゃあどういうこった?」
ダムルが半目でシンを睨むと
「どういう事かとは一体何のことだ?」
と愉快気な笑みを浮かべたシンが問う
「俺は確か工房の入り口には鍵をかけておいたはずなんだがな」
そういわれたシンは服のポケットから一つの鍵を取り出した。複雑な造形をし、一種の芸術性すら感じさせるそれをみたダムルは一層目を細める
「ごく普通のカウンター、木製で一見違和感のない簡素な引き出しが並ぶ作り。そんなものが凝った造りが見えるインテリアの中に一つだけ紛れていれば何かあると思うのが至極当然の思考だと思うのだが、どう思うかね? ダムル君?」
「だからってわざわざ調べる客はいねぇだろ。宿から追い出すぞ、この野郎。」
「それは困るな。ではこの鍵は元の持ち主に今すぐ返すとしよう」
そう言って鍵をダムルに渡し、ダムルから離れるとシンは一つ手を叩いた。
パンッという音が鳴り、ダムルがどこか不機嫌そうにジロリとシンを見る
「さて、ここまででお前はもう音が鳴る原理と原因を見たはずだ。まとめてみろ」
そう言われたダムルはこの数分間の出来事を思い出し、口にする
「あ~、お前さんが出したあの音が長く鳴る棒に、水と油が跳ねる音、それに火が出てる時の音だったか?」
そう言われたシンはしかしその答えを否定するように首を振り、続けて明確に否定する
「違うぞ、ダムル。俺は言ったはずだ、水と油が跳ねる時と、火が出ている時の音が鳴る原理は同じだと。」
「じゃあ音が鳴る時の原理は二つなのか?」
「いいや、二つではない。三つだ」
そう言われたダムルは何を言ってるんだとシンを見る。その目は完全に詐欺師を見るような目であった。
しかしそのような目を向けられて、なおシンは愉快気な薄ら笑いを浮かべたままダムルに説く
「よく思い出せ。今しがた、お前は確かに見たはずだ。ハッキリと聴いたはずだ。音の原因の三つ目を」
そう言われてダムルはしばし思考に耽り、ハッした表情でシンを見た
「そうか……、拍手か」
その答えを聞いたシンは笑みを僅かに深めた
「そう、その通りだ。よく気付いた。『物体の振動』、『物体と空気の急激な移動』、『空気の膨張と収縮』これがおおまかな音の発生原因だ」
「振動っつうのは最初のやつか。で、物体と空気の急激な移動っつーのと、空気の膨張と収縮っていうのは何なんだ?」
「俺が最初に答えた言葉を覚えているか?」
「確か……音はあらゆるものを伝わって耳に届くもの、だったか?」
「そうだ。そして地上で音が発生する時にはその『あらゆるもの』というのは大抵が空気の事を指している」
「…………あぁ、空気。空気な。」
「その顔だと分かっていないな? まぁそれはいい。要するに――」
そう言ってシンは腕を振るう。
ヒュオンッと風切り音を出した腕をダムルに見せ、
「今のが物体と空気の急激な移動による音で――」
次いで拍手をもう一度。
乾いた音が鳴り、一拍置き
「これが空気の膨張と収縮による音だ」
「何が違うのかさっぱり分からん」
「今はそれでいい。必要の無いことは知らなくても問題ない。では話を戻すぞ、今度はお前に依頼した器具の原理についての話だ」
「最初からそっちを話せばよかったじゃねえか」
ダムルが呆れたように言うと帰ってきたのは呆れたようなため息であった。
「はぁ、お前は俺が何の意味もない事を説明するなどという面倒臭いことをすると思っているのか? 俺は教師でも、聖人君子でも、世話焼きの老人でもないのでな。生憎と理解するのに最低限の事しか教える気は無い。二度目はないからよく聞いてさっさと理解しろ。では説明を続けるぞ」
そう言ってシンは握りこぶしを作り、脇を閉め、半身になり腰を落とす。
いわゆる正拳突きの構えである。
「ダムル、お前は衝撃波というものを見たことがあるか?」
「衝撃波? 戦いを生業にするやつならともかく、俺は鍛冶ばかりやってきたからな。そんなもんは見たことがない」
「そうか、ではいい機会だ。衝撃波というものを見せてやろう」
そう言って拳を引き、肩の力を抜いていくシンを見たダムルは素朴な疑問を口にする
「見せてやると言われてもな。魔術も無しに起こせるのか?」
しかしその問は返される事は無く、代わりにシンが言ったのは
「一瞬だ。よく見ていろ」
それから一拍後、シンの姿が一瞬霞の如くぼやけ、次の瞬間には拳を突き出した姿が現れた。
それとほぼ同時であった。乾いた炸裂音の様な音が工房に響いたのは。
「…………嘘だろう」
ポツリと、そう零したのはもちろんダムルだ。
「お前さん今の、魔力も何も使わずに身体一つでやってのけたのか?」
「お前は自分の眼で見た物も信じられんのか?」
シンにそう言われるもダムルは信じられんとでも言うように瞬きをするが、シンはダムルに呆ける時間を与えない
「さて、お前が今聞いた音はどんな音だった?」
「……え? あぁ、そりゃ……何かが弾けるような、何かを叩いたような……そんな音だったな」
「聞こえた音の大きさは?」
「ちょいと耳に響いたな」
「では最後の音だ」
そう言ってシンがホルスターから銃を抜き、安全装置など付いていないそれを足元に向けて引き金を引く。
一挙動の内に行われたそれをダムルが静止する猶予などあるはずもなく、空気が張り裂け、大挙して押し寄せたかのような轟音が工房に響き渡った。
「……っ耳が……」
「音が聞こえづらいか? そんな些事はどうでもいいが。さて、ダムル。今お前が聴いた音、先ほどの中でどれに最も近い音だった?」
「些事ってお前なぁ……」
「聞こえているじゃないか。で、どれが最も近いと感じた?」
「バカデカい音と響く感じからして衝撃波が一番近かったよ、こんちくしょうめ!」
「よし、では次の話だ。音というものは伝わるのに時間がかかることは知っているな?」
「そんなもん、雷のある地域に住んでる奴なら誰だって知ってる」
「ということは、だ。『音には速さが存在する』という証拠になっているな? 違うか?」
「あ? …………まぁ、確かにそう言えるかもしれないな。……いやだから、それがなんだってんだ」
「では問おう、ダムル。物が音以上の速さで動いたとき、どうなると思う?」
「そんなもん分かるわけ…………いや、待てよ。まさか、そういうことか?」
「どういうことだ? お前が今頭の中で描いた事を言葉にして言ってみろ」
「俺が想像できた範囲でのことだが、お前さんがやったように腕を振ると風切り音が鳴る」
そういってダムルが腕を振るとブオンッとその太い腕に似合う重い音が鳴った
「この音は発生してから俺の耳に届くまで一瞬だが約一秒間音が鳴り続ける。ということはだ、俺がこの腕を音以上の速さで振るった時は音の発生と伝達する速さが間に合わなくなって、一秒間かけて耳に届いていた音が一瞬に圧縮されて届くんじゃねぇかな……と、俺は思ったわけだが……」
それを聞いたシンは笑みを深め、拍手を送った
「やるじゃあないか、なかなかの理解力だな。正直お前がここまで頭が良いとは思っていなかったぞ」
「おうおう、大分失礼な事言ってくれるじゃねぇか。こちとら伊達に何十節も生きてねえぞ」
「ではようやく本題だ。この武器があれだけの音を出す理由の一つ、お前にはもう分かるな?」
再び銃を見せるシンにダムルは頷いて答える
「ああ、つまりそいつから出る弾丸が音よりも速いってことだろ?」
「その通りだ。ではもう一つの要素を説明してやろう。耳を塞げ」
そう言った時、すでにシンの指は引き金にかけられていた。
だがダムルも学ぶのだ。シンが銃を構えた時点で耳を塞ぎ、一歩離れている。
直後、蒼い炎と共に不可視の弾丸が銃口から放たれ爆音が鳴る
「見えたか?」
「何をだよ?」
「火だ」
「火? ああ、あの蒼い炎の事か?」
「そうだ。あの蒼い炎がこいつが爆音を発するもう一つの原因だ」
「あの小さい火がか?」
「この炎の厄介なところはな、質量を持っているという事だ」
「質量? つまり実体があるって事か? それのどこが厄介なんだ?」
「実体があるということは弾丸を物理的に押し出すことができるということだ。それはつまり燃焼ガスより弾丸を推進させる力が強く、空気への干渉力も高いという意味合いを持っている」
「…………はぁ?」
「……まぁ細かい話はいいだろう、要するにこの炎も音以上の速さで飛び出すから余計に爆音が出ているという話だ」
「それは分かったが、今の話を聞く限りだと弾丸とその炎を遅くする以外に音を抑える方法がないんじゃないか?」
「その通りだが?」
「いやいや、お前さんが持ってきた設計図の構造だとどう考えても遅くするなんてことはできないだろ」
「確かに弾丸の速度は落とせないな。むしろ速くなるくらいだが、こいつは弾丸の速度を落とすための器具じゃない」
「つーことは炎のほうか?」
「そうだ。これは弾丸をそのまま通過させ、炎の流れを多層構造の隔壁で妨害し、速度を落とすための器具だ」
「なるほどなぁ。片方だけでも抑えれば単純計算で音は半減か。問題は生半可な素材じゃ一発でおじゃんになっちまうな、その原理だと」
「純度の高い鉄なら問題ないと思うが?」
「なーに言ってやがる。音より速い実体のある炎がぶち当たって平気な鉄は鉄じゃねえよ。鋼でも持って来いってか? まぁ鋼にも限界ってもんがあるがな」
「……それは確かに盲点だったな。そうか……素材から厳選しなければならないな……」
「おいおい、そこは考えてなかったのかよ……」
「これは元々実体のある炎を想定して設計されたものではないからな。多少のミスには目を瞑れ」
「まぁいいけどよ。音よりも速い炎に耐えられる素材か……俺の手持ちにはありそうにないな」
「ここで躓くとはな……まったくの想定外だ」
「素材については俺の方で選定してやるが、多分魔物由来の素材を使うことになるだろうな。出荷時期も市場に出てくる時期もバラバラだからどっちにしろ完成の目途は立たねえぞ?」
「仕方ないな、素材については選定できたら教えろ。可能であれば俺が直接採りに行く」
「それはいいが……こいつが完成するまでお前さんが持ってる武器はどうするんだ?」
「この音がどうにかなるまで使えたものではないからな。剣か槍でも使うかね」
「それならいい武器屋があるぜ。紹介しようか?」
「いや、自分の武器はもう持っているのでな。これから忙しくなりそうな予感もすることだ、精々気張るとするか」
「忙しくなる? これから何かあるのか?」
「予感がするだけだ。まぁ決定している予定としては明後日に領主館へ出頭を命じられているがな」
「ほ~、そりゃ御大層な予定だな」
「まぁあと七十二時間程あるからな。それまでに素材を選別できそうか?」
「耐久性の条件が厳しいからな、そう簡単に素材が見つかるとは思えん。せめて十日は欲しいところだな」
「十日か……そうだな、その頃には色々と用事が済んでいる筈だ。こいつの開発にも集中できるだろう」
「じゃあ素材が見つかるまでは一旦こいつの開発は中止ってことでいいか?」
「そうなるな。やれやれ、完成するのにどれほどかかるのか見当もつかなくなったな」
シンが気だるげにそう言うも、ダムルは呆れたように返す
「道具の開発ってのは大抵時間がかかるものだぞ? 素材の決定に使う量、細かい調節とか、課題はまだまだ山積みだ」
「そうだな、自分で言い出しておいてなんだが、早々に面倒臭くなってきてしまったよ」
「おいおい…………」
「面倒臭く感じたら今度は眠くなってきたな、寝るか」
「寝るって……まだ朝だぞ? いや、もうすぐ昼か」
「昨夜はあまり寝ていなくてな、眠いのだよ。明日まで寝るから昼食と夕食はいらん」
「はいはい、アリアにも部屋に入らないように言っておくぞ?」
「そうしてくれ。ではな」
そう言い残してシンは工房から立ち去り、自室へと向かうのであった
――――領主館出頭まで残り一日と二十四時間――――




