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16 武装警備隊第三部隊部隊長

長らくお待たせいたしました。戦闘回でございます

「さて、ここら辺がベストポジションか? 」


現在シンがいるのは西の出入り口から離れた壁の上。要塞都市バルガドを守るためにあり、バルガドが要塞都市といわれる所以(ゆえん)でもあるその壁の上にシンは座っていた。

目的はもちろん防衛戦の観戦である。


お茶の間でテレビのニュース番組を見るような気軽さで高い外壁を蝙蝠と化して上り、厚さ六メートルほどの外壁の上に椅子を出して寛ぐ姿は異様さ極まる光景だが幸いここには誰もいない。

誰にも邪魔されることなく戦いを静観できる事にシンは喜びをあらわにしていた。


なにせこの世界に来て初めて見る戦闘だ。どんな戦法を使うのか、どんな武器を使うのか、どんな攻撃をし、どんな防御をするのか。

未知というのはそれだけで興味をそそられる。言うまでもなくシンも同様に……否、それ以上に好奇心を刺激されていた。


「そろそろ始まるか。さぁ、良い闘争を見せてくれ」


そう言って笑うシンの視線は、木をなぎ倒して進む全長五メートル、体高二メートルほどの狼の群れに各々の武器を構える二百人ほどの冒険者に向けられていた。






そして始まる命を賭けた闘争。


「うおおおりゃぁぁああああ!!」


という裂帛の気合いと共に振るわれた長さ三メートルはある幅広の大剣を大男が振り上げればグレイウルフの口が二つに裂け、


「フッッ!!」


という集中力を高めた後の刹那の連撃を二本の小剣を持った小柄な男が放てば、両目と耳を潰されたグレイウルフがのたうち回る。


「第一波、撃てぇ!!」


という号令の後、森から出てこようとしていたグレイウルフたちに向かって雨の様に岩や火の玉が降り注ぎ、空間が歪んだと思えばグレイウルフたちの体が切り刻まれる。

かと思えば数本だけ放たれた矢が空中で肥大化、分裂し、矢の壁と化してグレイウルフに襲い掛かった。


十数体のグレイウルフが倒れ、その亡骸を地に晒す。


人類優勢かと思われた防衛戦。だが、突如としてグレイウルフたちが纏う空気が変わった。

重低音の唸り声を上げ、体に魔力を纏う。


誰かが呟いた


「…………来るぞ。」


その瞬間、先ほどよりもウルフたちの動きが速くなった。実際には恐らくそれほどの変化はない。

だが感覚的には二倍近くになっている。


大剣を持った男が剣を先と同じように振り上げる。が、標的となったウルフは素早くサイドステップを踏んで躱し、三角跳びの要領で男に襲い掛かる。

男は反応し、振り上げた大剣をそのままウルフが跳びかかってくるタイミングに合わせて振り下ろす。

男が勝ったと確信したその瞬間、ウルフは男の手前で急停止し半回転。

意表を突かれた男は振り下ろしを止めることができずに完全に剣を振り下ろした無防備な体勢のままウルフの尻尾による一撃を受けて吹き飛んだ。


「速い……だが、まだ甘い」


双小剣で戦う小柄な男が後ろから襲い掛かってきたウルフの喉笛を振り向きざまに切り裂いて正面で前傾姿勢のまま隙を伺う別のウルフと対峙する。

しばらくにらみ合いが続き、緊張状態に耐えかねたのかついにウルフが跳びかかる。

それを(かが)んで避けた男は勝利を確信してすれ違いざまにウルフの首を狩ろうとするが、腹から突き出た数本の白く太い針のような物体に動きを止められる。


「なっ……ゴフッ」


何が起きたか分からずに吐血した血と針についた自らの血が混ざり合うのを見ながら男が振り向くと、そこにはもう一体のウルフ。

そこでようやく男は自分の腹を貫いている物体がウルフの異常に伸びた爪だったということに気付くが、その時には背中に四条の傷跡を刻まれ倒れ伏していた。


徐々に押されている人類側。グレンの支持が飛ぶ。


「一人で戦うな! 複数人で一体を相手取れ!! 遠距離組は他のウルフを近づけさせるな! 徹底的に多対一に持ち込め!! 負傷者は下がらせろ! 喰われるぞ!!」


その言葉を聞いた彼らは手近な者達とアイコンタクトを交わし、数人が前に突出した。

その行動をみた若いウルフたちが好機とばかりに数匹飛び出す。

突出した数人が飛び出した数匹に魔法を放つ


「汝は風 大いなる循環を生みし風 その力をもって渦巻く威容を顕現させよ! 旋風(サイクロン)


「汝は雷 刹那に襲う恐ろしき雷 その力をもって我が敵の動きを奪え! 縛雷(バインドサンダー)


「汝は水 命の根源たる豊穣な水 その力をもって我が敵の動きを奪え! 縛水(バインドウォーター)


風の魔法は第五位階。雷と水の魔法は第三位階。

いずれも階級としては同じく低級魔法。だが効果や強さが同じならば区別されているわけがなく、両者の魔法には明確に違いが表れていた。


風の魔法はひどく小さな竜巻がその場に現れ二匹のグレイウルフを吸い込み、三半規管を揺らして平衡感覚を奪い、動きを完全に止めた。

対する雷と水の魔法はそれぞれ一匹のグレイウルフを何とか押さえつけられている程度。

獰猛な唸り声を上げ、今にも拘束を破ろうと筋肉が浮き上がるほど体に力を込めている。


三匹のグレイウルフを捕縛した人類側が次にとった行動は至極単純。

三匹を確実に仕留めるために、群れと三匹を完全に分断すること。


外壁から十数本の矢が放たれ、群れと冒険者たちの間にほぼ等間隔に刺さる。すると木製の矢から枝が伸び、まるで壁の様に両者を分断した。

直後、放たれる無数の火球。それらは見事に木の壁に直撃して炎の壁を形成する。


炎の壁ができた事を確認した冒険者たちはグレイウルフを集団で攻撃。ものの十数秒で(むくろ)と化したグレイウルフを放置し、炎の壁が壊されるか燃え尽きるまで回復に努めるのであった。




――――――――――――――――




「やっべぇな…………まだ見えねえぞ」


グレンは外壁の中ほどに作られた防衛のための足場でうんざりとした声を漏らしていた。

だがその表情は若干強張(こわば)っており、焦りを含んでいることが分かる。


通常、魔物が攻めて来た際の防衛戦法は三つに分けられる。

すなわち、攻めてきた魔物を全滅させることを前提とした殲滅戦。特定の魔物を排除することを前提とした瓦解戦。拠点を放棄し、魔物から逃避するための撤退戦の三つだ。


簡単に言えば魔物を全滅させるか、群れのリーダーを殺すか、魔物から逃げるかの三択である。

今回は群れることが多い狼型の魔物、しかもリーダーが特定されているので群れを混乱させ、崩壊させるためにリーダーを殺すことを前提とした瓦解戦となるわけだが、いかんせん報告にあった希少個体であるホワイトウルフが確認できない。


群れの頭さえ潰せば指揮系統が崩壊するはずなので遠見の技能を持つ者や光属性の魔晶石(ましょうせき)を加工したライトで森を照らすも白い個体は見つからず、それどころか当初情報にあった七十体よりも明らかに多い数が森の中で(うごめ)いているのが見える。


その数は恐らく百はゆうに超えている。

だが下で負傷した部分を治療し、休んでいる冒険者たちは炎の壁に視界が完全に遮られて気付いていない。

それを見たグレンの判断は速かった。


「フラウ! 魔物の群れは中規模以上だと市民に知らせろ! それと俺の装備一式を持ってこい!! 大至急だ! 急げ!! 誰か領主館に取り次いで現状の報告と『グレン・ライズノットが援軍を要請している』と伝えろ! これも大至急だ!!」


「どうぞ、隊長。装備一式です。それから市民への通知はもうすぐ始まります」


いつの間にかグレンの装備を持って来ていたフラウの有能さに少し驚きながらも手早く装着して落下防止のための手すりの上に乗る。

外壁の中ほどに作られた足場の地面からの高さは約三十メートル。底が見えないほど深い堀の幅が約二百メートル。常識的に考えればここから落ちたら深い深い堀の底に叩きつけられて死ぬだけだ。

当然、それはグレンも分かっている。だからこそ助けを借りる。運よく捕まえられた強力な助っ人の助けを。


「さて、頼むぜ? 魔導司書さんよ。」


「了解しました。ただ一つ訂正させていただきますと、私共は『魔術司書』であり、『魔導司書』という呼び名は少数にしか当てはまりませんのでお気をつけ下さい。」


「物腰柔らかいくせに妙にこだわりを持つよな、お前は。」


「行かないのですか?」


「分かった。行くよ! 行きますよ! 飛び降りれば良いんだろうが!」


白いローブの様な服を羽織り、優し気な雰囲気を持つ青年に急かされたグレンは手すりから飛び降りようとするも青年の次の言葉に慌てて戻った。


「まぁ、まだ準備ができていないのですけどね。」


「は? ……うぉぉおおお!? あぶねえ! アホかお前は! 飛び降りるところだったじゃねえか!」


そう言って怒鳴るグレンを青年は無視してローブの内側から一冊の本を取り出した。

細く黒い鎖で封印してある純白のカバーに金字で何やら文字が彫り込まれているその本を手にしたまま青年は言葉を紡ぐ


「我 汝と契約を結びし者 契約に従い 我が力を代償として森羅万象を顕現させよ ヴァイソ・エラ」


青年の言霊(ことだま)を受けた本は黒い鎖が解け、開かれる。

その様子に周囲から小さなどよめきが起こるも青年は気にすることなくにこやかに告げる


「準備ができました。さぁ、どうぞ?」


青年のにこやかな笑みと柔らかい声にグレンは青筋を浮かべるが、切羽詰まっている現状を理解しているために


「てんめぇ……後で一杯付き合え。分かったな?」


という言葉を残して飛び降りたのであった。

グレンが飛び降りると同時、青年――オイゲンは本を前に詠唱する


「第二章第一項『物体制御』」


オイゲンの言葉に反応し本のページは独りでに(めく)れ、あるページで止まった。

そのページを素早く綺麗に破り取ったオイゲンはそのページに魔力を流しながらまたも詠唱する


「引き寄せよ 腕が圧し折れるその時まで」


詠唱とオイゲンの魔力に反応したページは登録された魔導を解放する


グレンの体の落下が止まり、今度は逆に舞い上がる。丁度オイゲンたちの視線まで上がってきた所でオイゲンは別のページを破り取り再び詠唱


「第一章第三項『風』 弾け飛べ 全てを押しのける猛威を示せ」


そして魔法が発動する。

グレンの後ろ、オイゲンたちの前で大量の空気が集まり前方、つまりグレンに向かって空気砲のごとく解放された。


「うおお!?」

 

人間大砲のように打ち出されたグレンは空中でなんとか姿勢をコントロールして見事二百メートルの距離を渡り切った。

その様子を見ていた冒険者たちは何が起きたのか分からずしばし唖然としていたが、自分たちの前で地面を砕きながら着地した人物がグレンだと分かるとにわかに活気付いた。


が、それもグレンの言葉で静まり返る


「悪い(しら)せだ。今炎の壁の向こう側にはグレイウルフの群れが百匹はいやがる。お前らじゃ確実に半分は死ぬ。」


パチパチと木が爆ぜる音が静寂に響く。

しかしグレンによってもたらされた静寂は、グレンによって破られる


「っつーわけで俺が来た。何か質問はあるか? 無いなら全員下がってすっからかんの魔術の腕で防壁でも作ってろ。はた迷惑な狼どもは俺が掃除しといてやるからよ。」


そう言ってグレンが肩に担いだ武器は槍の様な穂先を持ち、しかし逆の末端には鎌の様な刃が付いた奇妙な武器であった。


「さーて、行くぜ? 犬っころども。」


フォンフォンと風を切るように武器を回すグレン。そしてその体からは赤い魔力がにじみ、徐々に身体全体に広がっていく。


「まずはデカいの一発叩き込んだ方が楽だよなぁ?」


グレンが柄を両手で持ち、腰を落として鎌の部分を構えた。すると鎌の刃が赤熱するように赤くなっていき、熱気を発する。


「薙ぎ払い、焼き尽くせ! グルエンツ!」


グレンがそう唱えた瞬間、ついにウルフたちが我慢の限界を迎えたのか燃え盛る炎の壁を突き破って突進してきた。

それはまさしく狼の波。見えている範囲で五十匹はいるだろうその群れに、しかしグレンは


「おせぇよ」


と呟くとグルエンツと呼んだその武器を横薙ぎに振るった。


そして起こったのは炎の波。そう表現するのがぴったりであろう業火の壁。

グレンに襲い掛かろうとしていたグレイウルフは体を横に両断された直後に炎の波に呑まれて焼き尽くされた。

しかし炎の波は止まることを知らず、五百メートルは離れている森まで襲い掛かる。

森の木に炎の波が到達するかと思われた直後、炎の波が停止した。

いや、正確に表現するならば凍り付いた(・・・・・)という言葉が正しいか。


「ようやくお出ましか……待ってたぜ親玉さんよ」


炎の波が氷の彫像と化したありえないような光景を見たグレンは直感した。これを起こしたのが希少種であるホワイトウルフだ、と。

そしてグレンの直感を正すように氷の壁が一部だけ水に変わり穴が開く。

果たしてそこから出てきたのは純白の体毛を持ち、白い眼を持つ幻想的で巨大な狼であった。


「ホワイトウルフか……俺も見るのは始めてだ。随分とデカいじゃねえか。それに――」


他のウルフよりも二回りほど大きい体躯を持つホワイトウルフに興味深げな視線を向けると、次いで氷の壁を見る


「――結構本気で魔力を込めたんだがな。あっさり打ち負けるとは思わなかったぜ。」


こりゃあ援軍頼んで正解だったなと、そんな事を考えつつも目の前の相手から目を逸らすことなくグルエンツの槍の部分を前にして構える。


静寂が両者を支配し、相手の一挙手一投足に細心の注意を払う。グレンがあえて隙を作り誘うもホワイトウルフは全く動かない。

ホワイトウルフの知能が高いことを理解したグレンはこのままでは埒が明かないと動こうとしたその時、突如氷の壁が全て水に変わった。


大量の水が地面にぶつかる音を立てた後に見えたのは再び襲い来る狼の波。

視覚的な衝撃にその時確かにグレンは動揺した。このままあの狼たちが走れば十秒もせず冒険者たちに物量戦で挑み、冒険者たちが一人残らず喰われる様子を想像してしまった。


それが、ホワイトウルフの策略であると知りながらも。




グレンが僅かに、しかし確実に動揺したその瞬間、ホワイトウルフは駆けた。その身に蒼の魔力を纏いながら一発の弾丸の様に突進し、最短距離をトップスピードで駆け抜けた先にいるのは群れの移動を邪魔する人間。

群れの移動を邪魔する存在はそれが同族だろうと許しはしないと、邪魔者を消し去るためにホワイトウルフは鋭い牙をむき出しにしてその人間、グレンへと襲い掛かった。



「くっ……チックショ……うがぁああ!!!」


グレンはすんでのところでホワイトウルフの牙から逃れて横に転がり突進を回避した。

だがグレイウルフたちは止まらない。波と化したウルフはそのまま冒険者たちに襲い掛かる。外壁の上にいる魔術師たちが魔法を放とうとするも下手をするとグレンに当たる。

もうだめだと誰もが目を覆うが一人だけ冷静に対処する者がいた


「第三章第五項『氷』 凍えよ 我らに仇なす愚か者ども」


「第四章第二項『溶解』 液と化せ 溺れてもがくそのうちに」


オイゲンはヴァイソ・エラに保存された第八位階の中級魔法を行使し、ウルフの足を一瞬で氷漬けにし、続いて魔導を行使する。ウルフたちの足元に突如として池が出現。身動きができないウルフたちは溶解液で満たされた池に溺れ、上がろうともがくうちに溶けて液体と化した。


「第三章第四項『岩』 守れ 堅牢なる砦をここに」


続いて冒険者たちを囲う様に岩がせり出し、ドームを形成。ウルフたちの力では破壊不可能な第十位階の中級魔法だ。


「さて、これだけしたんですから勝ってくださいよ? 武装警備隊第三部隊部隊長さん」


空中に立ちながら(・・・・・)そういうオイゲンを見てグレンは苦笑いを浮かべる


「そういやいたんだったな。しかし魔導司書「魔術(・・)司書です」……魔術司書ってのはでたらめだな。魔法と魔導どっちも使えて属性関係なしとか反則だろ……。」


「そう言われましても実際は様々な制限があるのですよ。それはそれとして、ホワイトウルフのお相手はお願いしますね。」


そう言って空中を歩いて外壁まで戻るオイゲンを見たグレンはホワイトウルフに向き直る。


ホワイトウルフも黙ってグレンとオイゲンの会話を見過ごしたわけではない。二人の一切隙が無い会話中に突撃して二人相手にするよりも魔力を高めてグレンだけを相手にした方がやりやすい。

そう判断してホワイトウルフは体に残っている魔力を引き出し、体に纏って己を強化した。


「氷の鎧か……随分と洒落た事するじゃねぇか。希少種ってのはどいつもこいつもそんなに頭がいいのかねぇ?」


パキパキと音を立ててホワイトウルフの周りに氷が形成されていく。何よりもグレンが驚いたのはホワイトウルフが作り上げた氷の鎧が動きを阻害しないように作られていた事だ。

『魔物としての本能』と、言ってしまえばそれで事足りるのかもしれない。だがそれでもグレンは炎を操る自身の武器に対して氷の防具を、それも動きを阻害しないものを作り上げたホワイトウルフに感嘆したのだ。


再び対峙する両者。


「燃え盛れ グルエンツ」


グレンが静かにそういうと槍と鎌の複合武器の様なグルエンツは炎を吹き出し、グレンの手を焼くことなく巨大な炎の槍を形成する。


グルエンツの鎌が炎を放出するのなら、グルエンツの槍は炎を纏う。

炎の槍を手にしたグレンは好戦的な笑みを浮かべて突撃体勢をとる。


対するホワイトウルフは獰猛な唸り声をあげて白い息を吐く。


両者の間の温度差は過剰なまでに隔絶し、風が吹き荒れた。


刹那の静寂。己の呼吸と鼓動を聞き、足に限界まで力を込めたその瞬間、両者の姿がその場から消えた。

一拍の後、両者は風を切り裂いて激突。一歩も引く気配は無く、前へ前へと踏み込み続ける。


魔力が荒れ狂い、熱気と冷気が混ざり合い、蒸気と水滴が噴霧する。




水蒸気爆発の中心地で高温の蒸気を浴びながらも断固として引かないグレンにホワイトウルフの方が動いた。

口の中に集まる魔力。蒼い輝きを放つそれを見たグレンは本能的に回避行動を起こした。


直後、放たれる蒼い閃光。レーザーと言っても過言ではないそれが通過した場所は水晶の様な氷柱が続き、森の木までも氷に変えたそれを見たグレンは冷や汗をかく


「なるほどなぁ……そいつがグルエンツの火を氷にした技か。直撃してたら死んでたな。」


三度対峙した両者。だが互いに魔力が底をつきかけている。つまり―――


「次がお互い最後の攻撃だな。これで外れたら俺の負け、当たれば俺の勝ちだ。シンプルで良いなぁ、戦いは。」


そう言ってグルエンツを槍の様に構えたグレンに、ホワイトウルフは氷の鎧を解除して尻尾を氷で覆った。


「やっぱその鎧は魔力の消費が激しいんだな。尾の一撃にかけたか…………いいぜ、来い。」




ホワイトウルフが駆け、グレンに跳びかかる。それをみたグレンは勝ちを確信する。


ホワイトウルフは尾を氷で強化した。ならば最後は尾による一撃で来るはず。そう思っていたグレンは牙をむき出して跳びかかってきたホワイトウルフに少しだけ落胆した。

ホワイトウルフにとっては意表を突いたつもりだったのであろう一撃は、グレンには通じない。


冷静にホワイトウルフの眉間めがけて燃え盛る槍を繰り出したグレンは、次の瞬間には驚愕することになる。


躱したのだ。ホワイトウルフが。空中で。グレンの槍を。

そんな馬鹿なと視線を下に向けてまたもグレンは驚愕する。

ホワイトウルフは自らの右足から氷柱を生やし、サイドステップで避けたのだ。足を物理的に伸ばすという発想に至った原因は定かではないが、ホワイトウルフは確かにグレンの槍を空中で完璧に避けたのだ。


ならば次に襲い来るのは当然尾の一撃。固い氷で覆われた巨大な狼の膂力(りょりょく)と遠心力とが合わさった即死級の一撃。





そう、誰もがそう思っていたのだ。次の瞬間、ホワイトウルフの首が跳ね飛ばされるまでは。

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