外伝1
レオメイン書こうと思ったら変な方向にいった件
「あっちーぞ、クソがぁ……。チッ、冷精石程度じゃあ焼石に水どころじゃねぇな」
レオがテイムモンスターゴルゴンを引き連れ、漂う熱気で当たりの景色が揺れて見えるというふざけた環境で荒い山道を登っていた。。
ここは南大陸アリエウラの山岳地帯に一際大きく聳えるS級要注意ダンジョン“カウレアス火山”。
その火口からは煙が絶えず立ち上り、まるで生物を焼くかの如く数十キロに渡って高温の熱気が辺りに漂い、この環境に適合した炎属性のモンスターのみが生息している。
だが基本的にエンカウントするモンスター自体は精々がBランク程度で、中堅以上であればレオが持つ冷精石等の様な熱さ対策をしていれば足元さえ注意すればいいという危険の少ない稼ぎ場でもあると同時に、カウレアス火山の熱によって離れた街に良い温泉が湧いており、そこから見るカウレアス山脈は観光客から強い人気を得ている。
それ故にレオはゴルゴンの育成と共にスライム・オリジンという超超超レアモンスターのアリアの育成計画に使う素材アイテムの回収を仲間のヒデムから押し付けられこうして火山を登っているのだ。
「クソがよぉ、こんなあちぃ場所に行った後に温泉なんぞに入れる訳ねぇだろうがよぉ。しかも出てくるモンスター全部が火ぃ点いてるわ炎を吐くわふざけてやがる……。思わず叩斬っちまうせいでゴルゴンのレベルがあんま上がんねぇじゃねぇかぁ」
こう見えて高レベル冒険者なレオは暑さの苛立ちをモンスターにぶつけてる為に、本来の目的であるゴルゴンへの経験値が低目になってしまっている。
ついさっきも大型モンスターである炎に包まれた鰐の様なモンスター、フレイムダイルを斬り倒している。
元々アーリー達とパーティを組む前はソロで素材狩りをして生計を立ててたハンターであったレオにとって一人でBランク程度の大型モンスターを狩るのは朝飯前、一人で要注意ダンジョンへ行かされるのにはレオなら大丈夫という信頼に基づいた相応の理由があるのだ。
出来てしまうからこそ、ついつい苛立ちに任せてゴルゴンに戦わせるのを忘れてしまうという点に繋がっているのだが。
「ゴルゴン、次に敵が出てきやがったらお前に殺らせるから用意しとけよぉ。にしてもあちぃ……」
後ろを振り向いてレオが声をかけたモンスターは150cm程の身長をした人型モンスターであるゴルゴン。
その眼には魔眼封じの布で目隠しをされているが人で髪に当たる部分に毒蛇が何匹も生えており、その蛇は普通の蛇とは違って特殊な探査能力を持ち高性能のセンサー替わりを果たしているため、眼で見なくても普通に活動できるのだ。
フードか何かで頭の蛇を隠せば普通に可愛い女の子で通じる容姿をしてその知性も人と同等ぐらいあるため、特に男性テイマーから熱い支持を受けている人気モンスターの一体であり、そのステータスもかなり高めに成長するため実用性も高いモンスター。
ゴルゴンはレオの言葉にコクンと頷いて意思を示す。
それを確認したレオは暑さへの文句を零れる様に吐きながら前を向き、そのまま進む。
その姿をゴルゴンは幾つもの蛇でジッと捉える。
ゴルゴンは野生でテイムされたモンスターではなくテイムモンスター同士を融合させて造られたモンスターで、レオ達はゴルゴンにとって親に当たる存在だろう。
だがゴンゴンの認識ではあくまで自身の主は人間でいえばまだ幼い魔法使いの少女、アーリーだ。
その他の三人はあくまでも主人の仲間でしかなく、こうして大人しく支持に従っているのもアーリーの命令に寄る部分が強い。
特に目の前にいるレオはゴルゴンから見ても実力はあれど粗暴で、自分の主としては認めがたい性質な人間であると思っていた。
だがこうして二人でダンジョンを徘徊していると意外な点が見えてきた。
まず第一に熱気対策の霊精石を自分よりもモンスターであるゴルゴンに多く付けさせ、その石が頭の蛇達が垂れて来ても当たらない位置取りで装着させるという細かな対処だ。
ゴルゴンの蛇は普通の蛇よりは寒さへの耐性があるとはいえ、冷精石に触れさせたいとは思わないのでコレには助かった。
第二にこうして歩いている今も、暑さに悪態をつきながらも歩幅をゴルゴンに合わせて歩いている。
ヒデムやディアラは自分のペースでずんずんと先に進み、ゴルゴンは自然と急ぎ足になる(アーリーは背中に張り付いて強制おんぶしてくる)のだがレオの場合はそれが無いのだ。
モンスターであるゴルゴンにとって急ぎ足だろうがそうでなかろうが大した問題ではないのだが、この男はさり気無く気を使い、暑さでバーサークしていない戦闘時もゴルゴンに余計な敵が群がらないように上手く位置取りをしてヘイト管理をしっかりしている。
変わった男だがもしかしたら意外と育ちの良い男なのかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていたゴルゴンだが髪の蛇が遠くから近づいてくるソレを捉えた瞬間、ゾワッと背筋に悪寒が走った。
“何か”がこちらに向かって高速で近づいてくる。
まだかなりの距離が離れている筈なのに蛇のセンサーに引っ掛かる程の熱と魔力。
ゴルゴンはとっさにレオの服の袖を引っ張る。
レオが怪訝そうにゴルゴンを見るが、ゴルゴンは人の言葉を喋る事が出来ない。
代わりに指で近づいてくる“何か”の方向を指さすしかできない。
レオはそれを見るや否やゴルゴンを引っ掴み、大きな岩の影まで一気に移動するとゴルゴンを抱き抱え岩を背にして蹲る。
「おい、あっちからヤベェのが近付いて来るんだな?」
レオの急な行動に目を白黒させていると、レオが囁くように確認してきたのでゴルゴンはそれにコクンと頷く。
レオはそれを確認すると息をジッと潜める。
ゴルゴンのセンサーではレオが背にしている岩は影の部分とはいえ高温であると示しているが、レオはそれに構わずに息を殺して潜んでいる。
それに比べたら人間であるレオの体温は低温なのだが、ゴルゴンは感じるその体温が何だか異様に高い感じがする。
蛇のセンサーでそんな事は無いのは分かるのだがそう感じるし、なんだか顔が熱いし戦闘中みたいに心臓がバクバクする。
異様な“何か”が近付いてきているのだから不思議ではないが、それとは別に身体が固くなっている気がする。
ぐるんぐるんとゴルゴンの思考が回っている中、急に辺りが暗くなったと思ったら急激に周りの急温度が上昇する。
ゴルゴンがハッとして蛇のセンサーで周りを確認すると、さっきまで遠くにいたと思っていた“何か”がすぐ上を飛んでいるのが分かった。
何でこんなのから補足を外してしまったのかは分からないが、ここまで近いとその凄まじさが分かる。
あの空を飛ぶのは自分程度が比べるのも烏滸がましい、正真正銘の上位者で絶対強者、次元が違う存在なのだと。
もしアーリーの命令で戦えと言われても身が竦んで動けやしないだろうと思う。
時間にして約十数秒、その十数秒間“何か”が通り過ぎるまでが異様に長く感じた。
“何か”が通り過ぎると辺りがまた太陽の光で明るくなり、心なしか涼しくさえ感じる。
「…………マジでエンシェント・ドラゴンか。Aクラスが怯える程だからエルダー・ドラゴンかと思ったらガチの神話生物かよ」
レオの声でゴルゴンは我に返ると、涼しく感じていた空気がまた熱くなった感じがした。
「こりゃあ撤退一択だな。ゴルゴン、そのまま掴まっとけよ」
レオは複雑な文様が刻まれた石を取り出すとそれを掲げると石は静かに崩れさり、崩れた石から発せ垂れた青い光がレオとゴルゴンを包む。
そして次の瞬間にはレオとゴルゴンはカウレアス火山から姿を消していた。
【雲海の都サバーニャ】
アーリー達の拠点の地下にあるテイムモンスターの牧舎。
【サバーニャ】では幾人ものテイマー達が拠点を構えているのもあり、モンスター用のスペースは竪穴方式で造られ、拡張する場合も下に掘っていく形になる。
Aランクのゴルゴンは知能が人並みという事もあり、ストレスを軽減する目的で一階層の半分のスペースを貰っていた。
モンスターの居住スペースはそのモンスターに合わせた環境に整えるのが基本とされ、ゴルゴンの場合は殆ど人の部屋と変わらず、私の部屋よりも条件が良いとディリアが零すぐらいに整えられている。
当初は私物とかに当てはまるものはないので普通にベッドやイス、テーブルが置かれた無駄に広い部屋という印象が強かったが、時たまアーリーやディリアによって色々と小物やら何やら持ち込んでくるために今では結構な様になっているが、ゴルゴンは主であるアーリーがするならという受け身で受け入れて生活している。
そんな部屋でベッドに横になってゴルゴンは考える。
今日の出来事で特筆すべきはエンシェント・ドラゴンとかいうバケモノのことだろう。
あれ程恐ろしい存在はゴルゴンにとってまさに青天の霹靂に等しいものだった。
だが何故か印象が薄い。
それよりも印象に残っているのがレオだ。
あの粗野で暴言癖のある男が何故か頭に浮かぶ。
今まではゴルゴンが考える人間と言えばアーリーだけだったはずなのに、あの恐ろしいものやアーリーを差し置いて出てくるのだから実物じゃないレオもかなり失礼らしい。
まぁ、見直す部分も多かったのはゴルゴンも認める事だがそれでも主たるアーリーよりもゴルゴンの頭の中に出て来ていい理由にはならない。
それに何故だか落ち着かないし体温も高くなってくるので寝ようとしてるのに中々寝付けなくなっているのも頂けない。
それらを含めて考えるとやはりレオはゴルゴンの主には相応しくない。
あの小さな主が側にいるととても落ち着いて穏やかな気分になれるのに、レオは正反対な気分になるのだから。
ゴルゴンはディリアがもってきたアーリー人形を抱きしめ、魔眼封じの布の下で眼を閉じる。
明日は出来るなら主にあって安心したいと思いながら、眠りにつくまでぐるぐると同じような思考を繰り返した。
つ『雨の日に捨て猫を拾う不良』『吊り橋効果』




