いつも通り?
「おっはよ〜、慧那」
「おっす、慧那」
「おう、おはよう芽郁、彰人」
それから、数分経て。
二年D組の教室にて、たった今姿を見せた秀麗な男の子を嬉しそうに迎える一組の男女生徒。女の子が西条芽郁さん、男の子が斎藤彰人くん。傍から見てもご友人の多い印象の宮里くんだけど、このお二人とはとりわけ仲の良い印象があって。
「ところでさ、慧那。今日、ちょっと遅くない?」
「ん、そうか? いつもわりと遅いだろ」
「……まあ、それはそうなんだけど……でも、今日はいつも以上に遅いなって。ほら、めっちゃギリギリだし」
「確かに、そうだよな。なんかあったのか?」
「……そういや、今日はちょっと遅かったかもな、家出るの。でもまあ、間に合ってるし問題ねえだろ。これなら、明日からもこんくらいで大丈夫そうだな」
「いやいや、流石にもうちょっと余裕持とうよ」
宮里くん達の楽しそうな会話を、申し訳なさを感じつつ傾聴する僕。宮里くんはごまかしてくれたけど、彼が遅れたのは紛れもなく僕のせいで……うん、ほんとに申し訳ないです。
その後、授業、お昼休み、授業といった具合に、いつも通りの流れで放課後へ。そしてこの間、宮里くんと関わることは一度もなく、つまりは登校時の他はいつも通りの生活で。……いや、いつも通り、というわけでもないのかな? 気がつくと、宮里くんを目で追ってしまってた気がするし。
「…………ふぅ」
街路樹の彩る帰り道、ふとため息がこぼれ出る。今日一日の緊張が、ようやく解けてきたことの安堵のためだろう。思えば、女装をしていない時でここまで緊張したことは記憶にない。ずっと緊張が続くようなら、ちょっと大変かもしれない。しれない、けど……それでも、今までにない心地の好さも感じていて。そして……願わくば、あと一度だけでも――
「――よう、蒼良」
「…………へっ?」
刹那、思考が止まる。その声は、今日だけでもう何度も聞いた柔らかな声。驚きつつ、そして再び緊張しつつ振り返ると……そこには、声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる美少年の姿があって。
「……あの、どうしたの? 宮里くん」
ともあれ、そう尋ねてみる。……どうして、宮里くんがこちらに? てっきり、ご友人と一緒にお帰りになるものだと――
「いや、決まってんだろ。お前と一緒に帰ろうと思ってな」
「……へっ? でも、ご友人の皆さんとは……」
「ああ、あいつらのことか? もちろんあいつらとは仲がいいが、登下校に関しちゃ俺はいつも一人なんだ。贅沢な悩みかもしれないが、学校で一人でいられる時間はほぼないからな。だから、登下校くらいは一人でゆっくりしたいと思ってな」
「……そ、そうなんだ……」
僕の疑問に、そう話す宮里くん。僕のように基本一人の人間にはご縁のないようなお悩みだし、本人の言うように贅沢な悩みだと思う人もいると思う。
でも、きっと彼自身にとっては切実で。僕の場合は友達がいないから自然と一人きりなのだけど、それでは友達がいれば一人の時間がいらないかと問われれば、それは即座に否定することになると思う。もちろん、仲の良い人と一緒に過ごす時間は大切だと思うけれど……それでも、一人の時間も性質が異なるだけで同じくらいに大切なものだと思うから。なので、宮里くんのお気持ちは理解できるつもりなのだけど……だからこそ、大きな疑問があって――
「……ねえ、宮里くん。それなら、どうして今日はこうして……」
そう、躊躇いつつ尋ねてみる。――そう、それが最たる疑問で。それなら、どうして今朝の登校、そして今の下校を僕と共にしているのか、それがどうしても分からなくて。こうして僕と一緒にいては、彼自身の貴重な一人の時間を潰してしまうことに――
「……そんなの、決まってんだろ。一人もいいが、それ以上にお前といたいと思ったからだよ」
「…………へっ?」
戸惑う僕に、呆れたようにそう口にする宮里くん。そして、そのお言葉はあまりにも衝撃で。先ほどのお話から察するに、宮里くんはきっとご友人のお誘いを断ってまで登下校は一人でいるのを選んだはず。なのに……そこまでして作った貴重な一人の時間を、どうして僕とこうして――
「――なあ、蒼良。今から、なんか予定とかあるか?」
「…………へっ?」




