↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近づきたい王子さまと近づけない男の娘  作者: 暦海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

カラオケ

 ――それから、30分ほど経て。



「いやあ、久しぶりに来たわ、カラオケ。蒼良《そうら》は?」

「あっ、僕は……その、わりと来るかも。……その、一人で」

「……いや、なんで後ろめたそうに言うんだよ。いいだろ、一人で来ても。誰にも迷惑かけてねえんだし」

「……まあ、それはそうだけど……」



 大きなスクリーンが存在感を放つ小さな一室にて、何とも爽やかな笑顔で僕に尋ねる宮里《みやざと》くん。だけど、僕の返答に呆れたように微笑んで……うん、そうなんだけどね。確かに、一人で来ることで誰にも迷惑はかけてないけど……こう、ちょっと恥ずかしいかなって。



 さて、先ほど宮里くんが言っていたように、今いるのはカラオケの一室。なんと、宮里くんと二人で来ているという何とも信じ難い状況でして……まあ、それを言ったら昨日から信じられないことばっかりなんだけども。




「それじゃあ、どっちから歌う?」

「……そ、それじゃあ……その、宮里くんからお願いしてもいいかな?」

「ははっ、まあそうなると思ったけどな。オッケ」



 リモコンを片手に楽しそうに尋ねる宮里くんに、ドキドキしつつたどたどしく答える僕。……まあ、そうなると思うよね。よもや、僕が先に歌うタイプだとは思ってもいないだろうし。



 ほどなく、曲を送信する宮里くん。画面の右上に表示されたのは、アップテンポのJ-POP――僕でも耳にしたことのある、若い方々の間で最近バズっていると評判の曲で。……好きな曲なのかな? それとも、僕でも分かるように気を遣って――



「……いやあ、緊張するなあ」

「……へっ?」

「……あっ、いや……その、宮里くんでも緊張とかするんだなあって」

「……いや、そりゃするだろ。お前がどう思ってるかは知らねえけど、俺だって普通の人間だからな? ……まあ、カラオケで緊張する、ってことは今までなかったけどな」

「…………へっ?」



 リズミカルなイントロの中、ゆっくりと呼吸を整える宮里くん。……うん、緊張はするよね。普通の……とは思わないけど、宮里くんも同じ人間なんだから。……でも、カラオケで今まで緊張したことがないのなら、どうして今は……いや、今はいいか。今は、宮里くんの歌に全神経を傾けたいし。





「…………すごい」

「……そっか、ありがとな蒼良」



 それから、五分ほどが経過して。

 歌唱を終え呼吸を整える宮里くんに、自然と感想がこぼれ出る。……うん、本当にすごい。そして、めちゃくちゃカッコいい。……いや、もちろんいつもカッコいいけど、歌っている姿は尚のこ――



「……それじゃ、次は蒼良だな」

「……へっ? ……あっ、うん」


 感慨の最中《なか》、爽やかに笑顔でリモコンを手渡す宮里くん。……うん、まあそうなるよね。僕としては、宮里くんにずっと歌ってほしかったところだけど……まあ、流石にしんどいよね。……でも、こういう時に歌っても大丈夫そうな曲は――



「あっ、ちなみにだが……俺に気を遣って、とかそういうのはいらないからな。俺は、お前が好きな歌を楽しく歌ってるのが聴きたいから」

「……宮里くん」


 僕の思考を読んだかのように、柔らかに微笑みそう口にする宮里くん。そんな彼の優しさに、沁み沁みと心が温まる。……うん、ありがとう宮里くん。



「…………ふぅ」


 ゆったりとしたイントロの中、ゆっくりと呼吸を整える。……うん、緊張する。気を遣わなくていい――そう言ってはくれたものの、本当にこれでよかったのかと不安にはなる。……それでも、好きな曲の中で、なるべく今の若い人達が分かる曲を選んだつもりではあって。そして、歌い出しの部分に合わせ第一声を――





「…………ふぅ」



 それから、五分ほどが経過経て。

 歌唱を終え、ゆっくりと呼吸を整える。……うん、まだドキドキしてる。いや、むしろ歌ってる時以上に心臓の音がうるさくて……さて、宮里くんのご反応は――



「…………宮里くん?」


 そう、戸惑いつつ声をかける。というのも……宮里くんが、どうしてかポカンとした表情でこちらを見ているからで。いったい、どうし……あっ、そっか。僕が、あまりにも気持ち悪すぎて――



「……めっちゃ可愛いな、蒼良」

「…………へっ?」


 瞬間、思考が止まる。そして、ややあって少しずつ思考が戻ってくる。確かに、僕が歌ったのはアップテンポで可愛らしい女性の曲なのだけど……えっと、可愛いって……僕が? 曲じゃなくて? ……いや、うん、落ち着こう。そう、宮里くんは優しいから、気を遣って僕が喜びそうな言葉を言ってくれているだけ。だから、烏滸《おこ》がましい勘違いをしちゃいけな――



「……なあ、蒼良。もし知ってるなら、一緒に歌わないか? これ」

「…………へっ?」


 心の中で自分に忠告をしていると、不意に届いたのはまたしても思いも寄らないお言葉で。これ、とは、柔らかなメロディーと温かな歌詞が美しく織り成す珠玉のラブバラード――そして、なんと男女のデュエット曲で。ここまでの流れだと、宮里くんが男性パート、僕が女性パートということになるのだろうけど……でも、僕なんかが宮里くんと――



「……知らないか? これ。それとも……やっぱり、嫌か? 俺と一緒に歌うのは」

「あっ、いやそんな!」


 なかなか返事をしない僕に、仄かに微笑みそう口にする宮里くん。だけど、微笑《そこ》には不安や悲しさが見て取れて……馬鹿か、僕は。宮里くんの方から提案してくれているのに、いったい何を考えているんだ。今、僕のすべきことは――


 

「……その、大好きな曲です。なので、宮里くんがいいのなら、是非……」

「……そっか、よかった。じゃあ、さっそく」


 心からの言葉を伝えると、先ほどとは違うホッとした微笑《えみ》で答えてくれる宮里くん。そしてほどなく、柔らかなイントロが部屋の中を包み込み……うん、めっちゃドキドキする。……保《も》つかな? 僕の心臓。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。