登校
――翌日、晴れやかな朝のこと。
街路樹が彩る通学路を、いつもの通り一人で歩いていく。いつもと同じ道を、いつもの通り一人で。……だけども、頭の中はいつもとはまるで違っていて。昨日のことが――あの衝撃的なお言葉が、今もまだ頭の中をぐるぐると巡っているからで。……夢、じゃないよね? まあ、夢でも全然驚かない……というか、その方がすんなり納得するくらいで――
「――よっ、蒼良」
「……へっ?」
卒然、すぐ後ろから声が。ハッと驚き振り向いて見ると、そこには息を呑むほどに爽やかな笑顔を見せてくれる秀麗な男の子の姿が。……まあ、流石に声で分かったけども。なので、
「……うん、おはよう宮里くん」
「おう、おはよ。折角だし一緒に行こうぜ」
「……あ、うん」
ともあれ挨拶をすると、ニコッと笑い答えてくれる宮里くん。……うん、カッコいい。まあ、今に限らずいつもだけども。……ところで、それはそれとして――
「……宮里くんって、こっちの道だったの?」
「ああ。だから、お前のことはわりと目にしてたんだけど、そう言えばこうして声かけたのは初めてだよな」
「……あっ、その……ごめん、気づいてなくて」
「いや、それはしょうがねえだろ。いつも、お前の方が前を歩いてたんだから。だから俺は少し遠くからお前が見えてたけど、そりゃお前の方からは気づかねえよ」
「……そっか」
宮里くんの言葉に、……そっか、それで気づかなかったんだ。登校中にわざわざ後ろを振り返る理由なんて基本的にないはずだし、実際に振り返った覚えもほとんどない。そして、どこかで振り返っていたとしても、宮里くんが遠くを歩いていたなら気づかなくても不思議じゃないし。
……でも、だとしたら今日はどうして……いや、深く考えることでもないか。きっと、たまたまいつもより早くお家を出たのだろう。そして歩いていたら、たまたま僕が近くにいたから声をかけてくれたのだろう。もちろん、それでもとてもありがたいことだけれども。
「ところで、今更で悪いんだが昨日はありがとな。ほんと助かった」
「あっ、いやそんな! ……その、少しでもお役に立てたのなら光栄です」
引き続きドキドキしながら歩いていると、ふと隣から届いた言葉。……そっか、感謝を伝えてくれるためにわざわざ話しかけにきてくれて……うん、やっぱり優しいなあ、宮里くん。……そして、どうしてだろう。いつもと同じ道なのに、こんなにも違うように見えてしまうのは。
その後、他愛もないお話――とは言っても、僕から会話を回すなんてできるはずもないので、ご質問にたどたどしく答えているだけなのだけども――ともあれ、他愛もないお話を交わしている間に、いつの間やら校門が見えてきていて。なので慌てつつ周りを見ると、果たしてチラホラと生徒達の姿があって。なので、
「……そ、それじゃあまた」
「いや、なんでだよ。……あっ、もしかして急ぎの用とかあったか?」
「……いや、全然ないけども……」
「……いや、じゃあなんで一人でさっさと行こうとすんだよ。時間だってまだ余裕だろ?」
「……まあ、それはそうなんだけど……」
そそくさと校門に向かおうとする僕に、不思議――いや、不服そうに尋ねる宮里くん。……さて、なんて答えよう。でも、流石に正直に言うのも――
「……もしかして、迷惑だったか? まあ、ほとんど話したこともないヤツが、いきなりこんな馴れ馴れしくしたら――」
「あっ、いやそんなことない! ほんとに、それは絶対ないから!」
「……そ、そっか……うん、それならいいけど」
宮里くんの言葉に、慌てて否定の意を示す。迷惑なんかじゃない。それははっきり言いたいし、言わなくちゃいけない。宮里くんに、そんな悲しい誤解をしてもらいたくないから。……まあ、そもそも僕の言動が原因なんだけども。そして、こうなっては理由を説明しないわけにはいかない。なので――
「……その、僕と一緒にいるのは、宮里くんの評判が傷つくから……その、よくないかなって」
「……もしかして、昨日のことを言ってんのか?」
「……うん」
「……まあ、言いたいことは分かった。昨日ので分かっちゃいたが……ほんと優しいな、蒼良。でも、そんなの俺は気にしちゃいねえよ。お前と一緒にいることで、仮にお前の言う通りになったとしても、そんなのは放っときゃいい」
「……宮里くん」
瞬間、胸が熱くなる。……いや、分かっていた。宮里くんが、こういう素敵な人だって……分かってた。それでも、こうして口にしてもらえると、やっぱり嬉しくならずにはいられなくて。……だけど、
「……ありがとう、宮里くん。でも……その、宮里くんと一緒にいたら、きっと目立っちゃうから……」
「……まあ、そう言われちゃ仕方ねえか。目立つの苦手そうだもんな、お前。……よし、分かった。学校の中では、なるべく話しかけないようにするわ。でも、話しかけた時に露骨に無視とかは止めてくれよ? 流石に傷つくから」
「……うん、ありがと……ごめんね、宮里くん」
僕の言葉に、渋々といった様子ながらも納得を示してくれる宮里くん。そんな彼に謝意を伝え、そそくさと校門へと走っていく僕。……ごめんね、宮里くん。それでも、僕は――




