衝撃
宮里くんの問いかけに、口を一文字に結ぶ僕。……うん、やっぱりバレてた。まあ、それはそうだよね。挨拶すらほとんど交わしたことのないとはいえ、クラスメイトなんだし見覚えくらいはあるだろうし。……ただ、そうは言っても――
「……なんで、僕の名前を……?」
「……いや、なんでも何も、同じクラスだし」
「……まあ、そうだけど……」
僕の疑問に、至極ご尤もな回答が届く。……まあ、そうなんだけども。でも、地味で陰キャラでコミュ障の僕のような生徒の名前を、よもや知ってくださっていたとは衝撃で……そして、すごく嬉しい。
「……まあでも、驚くよな。その格好で、すぐに自分だと分かられたら。正直、俺も最初は誰だ? って思ったし」
すると、小さく微笑みそう口にする宮里くん。驚いたのはそこよりも、僕の名前を知ってくれていたことなんだけど……でも、そこに関しては改めて言う必要もないよね。それに、今はそれよりも――
「……その、どうかこのことは、誰にも……」
そう、縋るように口にする。バレてしまったのは仕方がない。あの時は、あのようにせざるを得なかったわけだし。……うん、分かってる。気持ち悪いって、自分でも重々分かってる。……でも、この際どう思われてもいい。それでも、どうかこのことは宮里くんの心の中だけに――
「……別に、言うつもりなんてねえよ。お前がそれを隠してるのは流石に分かったし、その気持ちも理解できるしな。けど……めっちゃ似合ってるよ、蒼良。マジで可愛い」
「……ふぇ!?」
すると、届いたのは思いも寄らないお褒めの言葉。僕がお願いせずとも、宮里くんがこのことを他の人には言わないでくれる、というのは、正直のところ分かっていた。……いや、だったらなんでお願いしたんだ、という話ではあるけども……その、念には念をということで。
……でも、まさかそんな……可愛い、だなんて言ってもらえるなんて寸毫たりとも思っていなくて。気持ち悪がられて当然だと覚悟していたのに、まさかそんな……えっと、どうしよ? ……うん、ここはやっぱり、ありが――
「……そ、その、それじゃあまた!」
「あっ、おい待っ――」
一方的に挨拶をして、一目散に走る僕。引き留める声は聞こえていたけど、一度も振り返ることもなく去っていく。……やっぱり、感じ悪かったよね? そもそも感謝を伝えるべきところなのに、あろうことか最後には無視して……うん、本当に申し訳ないと思う。思う、けども……その、鏡を見なくても分かるくらい、顔が真っ赤なのが自分でも分かるから恥ずかしくって。なので、とにかく一心不乱に大通りを駆け抜け――
「…………あ」
いつの間にか入っていた閑散とした住宅街にて、ふと立ち止まり声がこぼれる。……いや、何ということもない。何ということもないのだけれど……そう言えば、いつ以来だろう。それじゃあまた、なんて口にしたのは。




