第4話 一人暮らしは時々退屈だ
食卓の上には、まだ薄っすらと湯気を立てている大盛りの親子丼と、冷たいウーロン茶のグラスだけが置かれている。
俺は座布団の上であぐらをかき、夜のバラエティ番組を映し出しているテレビの画面を、特に気にも留めずにぼんやりと眺めていた。
これが毎晩の俺のルーティンだ。
退屈だって? まあ……そうかもしれない。高校一年生で一人暮らしなんて、漫画やライトノベルの中ではよく胸躍るような出来事として描かれている。
だが現実の世界では、胸がときめくようなことからは程遠い。
料理をして、一人で食べる。食後は、棚にある青年漫画のコレクションを寝転がって読むか、そんなに疲れていなければゲーム機の電源を入れるくらいだ。
全くもって単調な生活だ。だが、外で人間関係のドラマや社交辞令の相手をするよりは、よっぽどマシだ。
鶏肉の欠片を口に運ぼうとしたその時、テーブルの上のスマホから長めのバイブレーションが鳴り、俺の動きを止めた。
スマホの画面が点灯し、連絡先の名前が表示された。『母さん』。
俺は箸を置き、画面の緑色のボタンをスワイプした。スマホを完全に耳に当てる前に、甲高く元気いっぱいの声が先に飛び込んできた。
「秋穂く〜ん! お母さんの世界一かっこよくて働き者の息子! そっちは元気にしてる? もう夕ご飯は食べた? まさかまたインスタント食品ばっかり食べてるなんて言わないわよね!?」
「あー……こんばんは、母さん。声が大きすぎるよ、耳が痛くなる。それに、たった今親子丼を作り終わったところだ。インスタントなんか全然食べてないから、安心してくれよ」
「わあ! よかった! やっぱりお母さんの子は一番自立してて、お料理上手ね!」
「あ、そういえば、秋穂くん……」
母さんの声のトーンが急に少し下がり、どこか申し訳なさそうな響きに変わった。
もちろん、俺にはこの話がどこへ向かうのか、すでに予想がついていた。
「どうしたの? 東京の仕事がまた忙しくなってきたのか?」
「うぅ……あなたって本当に鋭いんだから。そうなのよ。本当にごめんなさいね? この春の4月は、お母さんもお父さんも埼玉には帰れそうになくて……お父さんの会社のプロジェクトが、たまたま立て込んじゃってるの」
「そっか。大丈夫だよ、母さん。忙しいなら無理して帰ってこなくていいから。今月のお小遣いもまだ十分あるし。自分のことは自分でできるよ」
「本当に大丈夫? 高校入学のお祝いに、あなたの大好きなカニのスープを作ってあげようと思ってたのに。お父さんもすごく悲しんでるのよ。愛する息子に会えなくて寂しいって、さっきからカーペットの上を転げ回って嘆いてるんだから」
電話の向こうから、会話に割り込もうとする父さんの負けず劣らずうるさい声がかすかに聞こえてきた。
「母さん! そんなこと言わないでくれよ! 秋穂の前で父さんがカッコ悪く見えるだろ! もしもし、父さんの自慢の息子! しっかり勉強しろよ! このプロジェクトが終わったら、お前が欲しがってた最新のゲームを買ってやるからな!」
「夜遅くにうるさくするな、アパートの隣人に怒られるぞって、父さんに言っといてよ。だいたい、俺はもうゲームで簡単に買収されるような小学生じゃないんだ」
「あははっ!! ほら、聞いた、お父さん! 私たちの息子はもう大人で自立してるのよ! あ、そうだ秋穂……そういえば、学校生活はどう? もう新しい友達はできた? それとも……まさか、もう彼女ができちゃったりして? ふふふっ」
その質問に、今日の昼間、俺と無理やり友達になろうとしてきた、あざとい笑顔の金髪の女子の顔が頭をよぎった。
「う、うーん……いや、別に……特別なことは何もないよ」
「母さんも俺のポリシーを知ってるだろ。もしまた引っ越すことになった時、友達なんて面倒なだけだから」
「もーう……秋穂くん、まだそんなこと言ってるの? お父さんもお母さんも、あなたが高校を卒業するまではもう絶対に引っ越さないって約束する! 絶対の約束よ! だから、お願いだから青春を楽しんでちょうだいね? 友達、いっぱいつくるのよ!」
「はいはい、わかったよ。もう切るからな。二人の相手をしてたらご飯が冷めちゃうだろ」
「えっ、ちょっと待って、お母さんまだ寂し――」
「おやすみ、母さん。父さんにもよろしく言っといて。東京でも体に気をつけてな」
「はぁ……わかったわよ。あなたも体に気をつけてね。愛してるわよ。おやすみなさい!」
俺はゆっくりと食卓から立ち上がり、バルコニーの近くにある大きな窓へと歩み寄った。カーテンを少し開けて、外の景色を眺める。
正直なところ……口では母さんに「大丈夫だ」と言ったものの、胸の奥には少しだけ寂しさがあった。
毎日一人で家にいると、時々、一緒にご飯を食べる温かさが恋しくなる。
食卓で二人が冗談を言い合っている声を聞くのが……本当はすごく恋しい。
だが、俺はすぐに首を横に振った。母さんと父さんは、俺の将来のために東京で身を粉にして働いているんだ。寂しいくらいで弱音を吐いてはいけない。ここでの俺の仕事は、しっかり勉強して、平穏に暮らし、何の問題も起こさないことだけだ。
食卓に戻り、俺はスマホをいじりながら冷め始めた親子丼を平らげた。
食器を片付けてシンクで洗った後、テレビを消してそのままベッドに向かうことにした。
漫画のコレクションを読むのも、ゲームをするのも、明日に回せばいいだろう。
どうせ明日の朝は少し早く起きなきゃいけない。服を取りにまたあのコインランドリーに行かなきゃならないし……それに明日は、あのやたらとうるさいギャル姫とまた顔を合わせることになる。
まあ、願わくば……今日彼女と友達になるという決断が、俺の青春の災難の始まりにならないことを祈るばかりだ。




