第3話 出会いのきっかけ2
「ふざけないでくれ、白川さん」
俺は、たった今一方的に俺たちが友達だと決めた女子をジッと睨みつけた。
「本気で断る。きっぱりと断る。絶対に嫌だ。だいたい、お前と友達になって俺に何のメリットがあるんだ? 俺の平穏な生活のポリシーが崩れるだけだろ」
「えー? ひどーい! せっかく私がわざわざ提案してあげたのに!」
白川さんは胸の前で腕を組み、納得がいかないという表情で俺を睨み返してきた。
「いい、宇佐美くん。私と友達になったら、メリットいっぱいなんだからね! 特別割引でここで洗濯させてあげる! あ、いや、たまにはタダにしてあげてもいいよ! それからそれから、うちのお母さんの超美味しい手料理だって食べさせてあげる! どう? 魅力的でしょ!?」
「いや、遠慮しておく」
「ええーっ!? なんで!? うちのお母さんのご飯、五つ星レストラン並みなんだからね!」
「自炊はできるし、コインランドリー代を払うくらいの小遣いはある。だから、お前のその提案は俺のポリシーを揺るがすには全く至らない」
全く興味を示さない俺を見て、白川さんの表情がさっと変わった。さっきまでの強気な態度はどこへやら、少し肩を落としている。
彼女はわざとらしく目を潤ませ、下唇を少し震わせながら俺を見つめてきた。
「う、宇佐美くん……私みたいにか弱い女の子からの友達の誘いを、無下に断る気? ねぇ……ね? ね? 私と友達になってよ。毎日迷惑かけたりしないって約束するからさ! せいぜい週末くらいだって……ね?」
彼女はあざといくらい可愛い顔を作って懇願してきた。ものすごく、必死に。
正直なところ、うちのクラスの普通の男子がこの光景を見たら、土下座して感謝しながら何も考えずに即答で頷いていたかもしれない。
そりゃそうだろう。学校一の『ギャル姫』が、友達にしてくれと涙声で懇願しているのだから。
だが、魅力的な提案も可愛い顔も関係ない。すべては友達を作らない平穏な生活のポリシーのためだ!
「悪いけど、お前と友達になりたくないわけじゃないが、やっぱり断るよ。洗濯物はもう機械に入れたし。ほら、小銭は机の上に置いておくからな。あとは機械がやってくれるだろ」
「えっ? ち、ちょっと待ってよ!」
彼女の泣き言を無視して、俺はすぐにきびすを返した。足はすでに、このコインランドリーのガラス扉から走り出す準備ができている。俺はただ、孤独で、平穏で、面倒くさくない日常に戻るだけでいいのだ。
だが、踏み出そうと一歩足を踏み出した瞬間、後ろから上着の裾をグイッと強く引っ張られた――。
「待ってってば、宇佐美くん!」
「離してくれ、白川さん。帰るんだ。俺のベッドが俺の名前を呼んでる」
「やだ! なんでそんなに頑なに私と友達になるのを嫌がるのよ!?」
彼女の声が少し大きくなった。振り返ると、さっきまでのあざとい表情は消え去り、代わりに真剣で、少し……悲しそうな顔つきになっていた。
「学校の噂のせい? 私が上品ぶってる『ギャル姫』なんて呼ばれてるのに、今のこんなボロボロな素の姿を見たから、引いちゃったんでしょ? そうだよね? 私のこと、変な女だって思ってるんでしょ?」
矢継ぎ早に質問が彼女の口から飛び出してきた。上着の裾を握る力がさらに強くなる。
突然考え込み始めた彼女を見て、俺はなぜか少し可哀想になってしまった。
「はぁ……何言ってんだよ。そんな理由じゃない」
「じゃあ、なんで!?」
「俺と友達になっても、ちょっと損するだけだからだよ、白川さん」
「損? 何が損なの?」彼女は眉をひそめ、本気で理解できないという様子だった。
「俺は本当につまらない人間なんだ。人混みは嫌いだし、愛想笑いも大嫌い。それに正直言って、遊びに行くより機械を分解してる時間の方が好きなんて、結構変わってるだろ。お前は注目の的だ。俺なんかと友達になったら、お前の評判まで下がるかもしれない。わかるか?」
俺はできるだけ落ち着いた声で説明した。俺たちの間のスクールカーストの差がどれだけ離れているか、彼女に気づいてほしかった。
しかし、返ってきた反応は完全に予想外のものだった。
『パシッ!』
「痛っ! な、何を――」
突然、白川さんが少し冷たい両手で俺の頬を挟み込んできた。かなり強く押されたため、俺の唇は彼女の顔に向かって少し尖ってしまった。
「よく聞きなさい、宇佐美くん!」
「二度とそんなこと言わないで! もう少し自分に自信持ちなよ! 機械が好きで何が悪いの? 人混みが嫌いで何が悪いの!? あんたは全然、変なんかじゃないから!」
「ひらがわはん、ほっへがいはい……(白川さん、頬が痛い……)」
「だいたい、スクールカーストだか何だか知らないけど、誰がそんなの気にするって言うの!? 私があんたを友達に誘ったのは、そんな退屈なこと気にしてるからじゃない。私はただ……さっきの親切のお返しがしたいだけ! あんたは、私をお母さんの説教から救ってくれたんだからね!」
この女子は本当にめちゃくちゃだ。頑固で、勝手で、論理も破綻している。
だが、純粋に輝き、少し赤くなったその目を見ていると、なぜか俺の口からはもう拒絶の言葉が出てこなくなっていた。
俺はゆっくりと、自分の頬から彼女の手を外した。
「……わかった、わかったよ。俺の負けだ」
「え? 本当に!?」
「ただし、一つ条件がある」俺は人差し指を立てた。「俺たちは秘密の友達だ。学校で馴れ馴れしく話しかけてこないこと。クラスでは、目を合わせることもないただのクラスメイトだ。どうだ?」
白川さんは少しの間黙り込み、俺の出した条件について考えているようだった。
「ふふふっ、秘密の友達、ね〜? なんかドキドキする響きじゃん! わかった、宇佐美くん! その条件、乗った! 交渉成立!」
彼女は手を差し出し、俺はためらいながらもその手を握り返した。正直言って、彼女の手はとても柔らかかった……。
「それじゃあ、俺はもう帰る。洗濯物はとりあえず機械の中に置いといてくれ」
「え? 終わるまで待ってないの?」
「いい。明日、日曜日にまた洗濯物を取りにここに来るから」
『明日の日曜日』という言葉を聞いて、なぜか白川さんの顔に浮かんだ笑顔がさらに大きく広がった。彼女はとても、とても嬉しそうだった。
「うん! じゃあまた明日ね、宇佐美くん! 待ってるからね!」
俺は軽く手を振り返しただけで、すぐにコインランドリーを出て歩き出した。
帰り道、俺は埼玉の街の上に広がる青空を見上げた。
こんなにも簡単に……俺は学校一のギャル姫と友達になってしまったのだ。
しかし、俺はまだこれが間違った選択だったのではないかと恐れていた。過去、小学生の頃からずっと転校を繰り返してきた。誰かと親しくなり始めるたびに、いつも別れがやってきて、それを奪い去っていった。
怖いのだ。もし、いつかまた転校しなければならなくなった時……また友達と離れ離れになるのが怖い。
はぁ……俺の青春は、本当にすこぶる面倒くさい時期になってしまったようだ。




