第20話 体育祭のチーム分け
「さて、みんな! 話し合いが長くなりそうだから、席の形を変えましょう!」藤本ふじもとさんが少し声を張って言った。
「机と椅子を端に寄せて、床に丸く座って、もっとリラックスして話し合いましょう」
委員長の指示はすぐに実行された。机や椅子の脚が床とこすれる音が教室中に響き渡る。
数分後には1年A組の教室の中央が空き、白いタイルの床に座るスペースが出来上がった。
俺は水沢みずさわと林はやしの間にあぐらをかいて座り、中村なかむらは藤本さんと意見を交わしやすいように少し中央寄りに位置を取った。
俺たちの向かい側には、事実上白川しらかわさんと天海あまみさんが率いる女子のグループが座っていた。
「よし、まずは男女混合リレーから始めましょう」藤本さんが再びノートを開いた。
「女子は……うーん、天海さんね? 第一走者をやってくれるんだよね?」
「実はあと3人、女子2人とアンカーの男子1人が必要なの」
「アンカーは俺がやる!」水沢が即座に高く手を挙げた。「俺たちのクラスが1位でゴールすることをお約束しよう!」
「いいね! それじゃあ残りの女子の走者2人は……」
話し合いが白熱している最中、突然誰かの視線が俺に向けられているのを感じた。振り返ると、いつも白川さんの後ろをついて回っている明るいピンクの髪の少女――天海さんが、俺を見つめていたのだ。
「ねえ、宇佐美うさみくん!」突然天海さんが陽気な声で呼びかけたため、何人かの視線が俺たちの方へと向いた。
(え……? 天海さん? なんで急に俺を? この1ヶ月間、挨拶すら交わしたことがないのに……)
「えっ、と? どうしたの、天海さん?」
天海さんは少し身を乗り出し、両手で顎を支えながら甘く微笑んだ。
「さっきから見てたんだけど、宇佐美くん、まだ何の競技にも立候補してないよね? 男子なんだから、クラスのためにポイント稼いでよー!」
背筋に冷たいものが走るのを感じた。
天海さんの隣で、さっきまで他の女子と話していた白川さんがこちらを振り向き、俺たち二人を鋭く睨みつけていた。
「お、俺、運動はあんまり得意じゃなくて……」
「得意なやつに任せるよ。俺は……えーっと……コートの端からみんなを応援することで貢献するよ」
「ええーっ、何その言い訳!」天海さんはくすくす笑いながら言った。彼女の口調は本当にフレンドリーで、誰とでもすぐ打ち解けられそうだった。「宇佐美くん、体力ありそうなのに! ほら、私と一緒に混合リレー出ようよ! もし勝ったら、食堂でオレンジジュース奢ってあげるからさ!」
「「「!!!!!」」」
心臓が高鳴ったのは、彼女にからかわれたからではない。白川さんがゆっくりと目を細めるのを見たからだ。彼女の唇には完璧で優雅な微笑みが浮かんでいたが、その周りのオーラは恐ろしいほどだった。
隣に座っていた水沢が肘で俺の腕を突き、ふざけた調子で囁いた。
「おい宇佐美……お前、密かに魅力隠し持ってたんだな? あの可愛い天海さんに競技誘われてるぞ」
「うるさい」
「そ、そういうわけじゃないんだ、天海さん」
「俺、体力全然ないから。俺が走ったら、クラスは絶対に負けるよ。それに……俺、こいつら3人に騎馬戦に出るように予約されてるんだ」俺は仕方なく嘘をつき、水沢、林、中村を指差した。
「えっ!? さっきお前、頑なに断って――」と言いかけた林の膝を、俺は素早く足で踏んづけて黙らせた。
「あ、そうなの……? 残念だなあ……」
「同じチームになれたら、もっといっぱい話せると思ったのに。宇佐美くん、話してみると面白そうな人だし」
俺が天海さんの言葉に適当に相槌を打とうとしたその時、突然、白くて細い手が伸びてきて、天海さんの手首を非常に優しく、しかし確固たる力で掴んだ。
白川さんの手だった――。
「葵あまみちゃん……」
「宇佐美さんにあまり無理を言わないで。彼、困っているみたいだし。それに……騎馬戦はたくさんの男子の力が必要になる競技よ。そこは男性陣の貢献に任せましょう?」
天海さんは親友の突然の言葉に驚いたようにまばたきをした。
「あ……そ、そうだね。ごめんね、宇佐美くん! 無理強いするつもりはなかったんだよ! えへへ」
「だ、大丈夫だよ」俺は少し安堵した。向かいにいるギャル姫から微かに発せられる威圧感を感じながらも。
(うわあ……あいつ、マジで怒ってるな。さっきの俺への視線は『葵ちゃんと一緒に走るなんて言ったら、ただじゃおかないからな!』って言ってるみたいだった)
「さて、それじゃあ女子の走者は、佐々木ささきさんと八神やがみさんでどうかな?」たった今起きた小さなドラマを無視して、長谷川はせがわ先生が再び話し合いの主導権を握った。
その後、話し合いはスムーズに進んだ。リレーと綱引きの割り当てが終わると、次は玉入れ――高く吊るされた竹かごにボールを入れる競技――について話し合う番だった。
「玉入れは、白川さんを含めて何人か立候補者の名前をメモしてあるんだけど」藤本さんが黒板を叩きながら言った。「でも、相手の玉から自分たちのかごを守りつつ、ボールを投げる男子の代表が2人必要なの。誰かやってくれる人いない?」
玉入れは綱引きや騎馬戦に比べて男らしさに欠ける競技とされているため、多くの男子が参加を渋っていた。
俺が自分の靴のつま先を見つめていると、突然白川さんが手を挙げた。
「藤本さん、もう一つ提案してもいいですか?」
「あ……うん、どうぞ、白川さん」
「男子の代表は、宇佐美さんにお願いするのはどうでしょう? 先ほどご自身で、激しい運動は苦手で野蛮な競技は好きではないと仰っていましたよね? 玉入れのようなボールを投げる競技なら、彼の……ええと、『ない』体力にもぴったりだと思います」
一瞬にして、クラス中の視線が再び俺に向けられた――。
(おい! おい! おい!? なんだよこれ!? 俺が騎馬戦を断って、あいつの親友と長く話しそうになったことへの復讐か!?)
「いいアイデアだ!」長谷川先生が熱心な声で賛同した。「宇佐美くん、どうだ? やってくれるか? たくさん走る必要はないぞ、必要なのは集中力と投げる正確さだけだ!」
「で、でも先生、俺さっきあいつらと一緒に騎馬戦に出るって――」
「ああ、お前、その心配はいらないみたいだぜ」
この裏切り者め……水沢が突然裏切った。彼は笑いをこらえながら俺の肩を叩いた。
「騎馬戦はまだ全然人が足りないから、俺が他のメンバー探すよ。お前、インドア派だって言ってたし……だから玉入れがお前にはぴったりだ!」
「そ、そうだな! 玉入れ頑張れよ、宇佐美!」林も便乗して後ろから俺を小突いた。
「お前ら……」
「よし、宇佐美くんは白川さんのグループと一緒に玉入れに参加することが正式に決定しました!」藤本さんはそう言いながら、白川 円香しらかわまどかの名前のすぐ隣に、俺の名前を黒板に大きく書き込んだ。




