第19話 お嬢様と体育祭の準備
《春の体育祭編》
「きゃああ! 白川しらかわさん、おはよう! 今日の髪型もすっごく素敵!」
「お嬢様! 今日の昼、食堂で私たちと一緒に食べない? 特別な席を予約してあるの!」
下駄箱のエリアに足を踏み入れた途端、俺の耳は感嘆の歓声で迎えられた。
同級生だけでなく、先輩であるはずの3年生の女子生徒数人までもが群がり、白川さんを『お嬢様』や『お姫様』と呼んでいた。
「あら、皆さんおはようございます。お褒めいただきありがとうございます、皆さんも今日はとても可愛らしいですね。でもごめんなさい、先輩。今日はクラスメイトと一緒に昼食をとる約束をしているんです」
白川さんは、貴族のお姫様特有の愛想の良い微笑みを浮かべながら、とても滑らかで上品な口調で答えた。
遠くからその姿を見て、俺はただ首を振るしかなかった。正直なところ、メッセージの返信が遅れただけで、昨夜ラッパーのように俺に説教をしてきたあの女子を思い出すと、かなりうんざりする。
この学校の連中は、本当に完全に騙されているんだな。
しかし、あんな白川さんの姿を見れば、普通の人間なら少なくとも一つの例えを思い浮かべるだろう。
――光が眩しければ眩しいほど……そこには必ず濃い影ができる。
その例えは非常に理にかなっている。誰もがそういう大げさな称賛を好むわけではないからだ。
1年A組の教室の入り口に向かって歩いていた時、俺は立ち止まった。ドアの敷居のところで、1年B組の女子生徒3人が、白川さんと天海あまみさんの行く手をわざと塞ぐように立っているのが見えた。
「チッ。朝から騒がしいわね。少しチヤホヤされてるからって、まるでこの学校のオーナー気取りじゃない」B組の女子生徒の一人が、わざと声を大きくして嫌味を言った。
「本当よね。顔だって大したことないのに。安っぽいメイクと大げさな髪型で誤魔化してるだけじゃない」ショートヘアの友達が、胸の前で腕を組み、見下すような表情で相槌を打った。
教室の入り口付近の空気が突然張り詰めた。教室に入ろうとしていた数人の生徒たちは、関わり合いになるのを恐れて立ち止まるしかなかった。
白川さんの隣に立っていた天海さんは、すでに拳を握りしめているように見えた――。
「ちょっと! あんたたち、言葉に気をつけてよね! まどっちは全然そんなこと――」
しかし、天海さんが彼女たちに詰め寄る前に、白川さんは片手を上げ、親友の肩を優しく押さえた。
金髪の少女は一歩前に出た。その美しい顔には、怒りや気分を害した様子は微塵もなかった。それどころか、彼女は少し首を傾げ、先ほどよりもはるかに甘く魅惑的な微笑みを浮かべたのだ。
「あら……1年B組の皆さんも、おはようございます」
「その通りですね、メイクは多くの欠点を隠してくれます。そういえば、今日皆さんがつけているリップグロスの色、制服にとてもよく似合っていますよ。明るくて目を引きますね。どこで買ったんですか? 私もいつか、そんな明るい色を試してみたいです」
悪意を持った3人の女子生徒は一瞬で言葉を失った。心からの称賛と優雅な微笑みによる反撃は、彼女たちをどう反応していいか完全に混乱させた。
喧嘩を吹っ掛けようとしたにもかかわらず、謙虚な態度で返されたことで、彼女たちは手も足も出なくなってしまったのだ。
「えっ、あ、あー……こ、これは駅前のコンビニで……」
「そうなんですか……教えてくれてありがとうございます。失礼します、私たちはもう教室に入りますね? もうすぐチャイムが鳴りますから」
白川さんは軽く頭を下げ、まだ混乱している天海さんを従えて、優雅に彼女たちの横を通り過ぎた。
3人のB組の女子生徒たちは、悪意が全く通用しなかったことに恥ずかしさを感じながら、足早にドアから立ち去った。
まあ、こういうことは日常茶飯事なので驚くことではない。俺が心配する必要は全くない。
「よお、宇佐美うさみ! 朝からぼーっとしてんなよ!」
肩をポンと叩かれた。振り返ると、水沢みずさわ、中村なかむら、林はやしが明るい顔で俺の後ろに立っていた。
「あ、ああ……おはよう、お前ら。ぼーっとしてたわけじゃないぞ。ちょっと道が塞がってたから、教室に入る順番を待ってただけだ」
「ああ、俺たちもさっきの見てたぜ」俺たち4人が席に向かって歩き出した時、中村が俺の肩を組みながら小声で言った。
「それにしても、白川さんって本当にすごいよな。あんな風に嫌味を言われても、逆に褒め返すなんて。マジで聖なるお姫様だよ、もしかして聖女の生まれ変わりなんじゃないかって思うくらいだぜ!」
「本当だな! さっきの出来事を見て、俺はお前の昨日のアドバイスが正しいって確信したよ、宇佐美! 俺たちも、絶対に彼女にはエレガントで礼儀正しくアプローチしなきゃな!」林が、決意に満ちた表情で拳を握りしめながら言った。
(あはは……ごめんな、みんな。お前らは知らないだけなんだ。あの聖女のような微笑みの裏で、彼女は絶対に今日の夕方俺に愚痴るために、あのB組の女子3人の名前を脳内にメモしてるってことを)
全員が自分の席に着くと同時に、チャイムが鳴った。間もなく、教室のドアがスライドして開いた。
若くてエネルギッシュなことで有名な俺たちの担任、長谷川はせがわ先生が、手にプリントの束を持って入ってきた。
「みんな、おはよう! 元気いっぱいの1年A組の諸君、おはよう!」長谷川先生はプリントの束を教卓の上に置きながら挨拶した。
「おはようございます、先生!」
「さて、退屈な数学の授業について考える前に、先生からとっても重要で、絶対にみんなが盛り上がるお知らせがあるぞ!」長谷川先生は黒板を黒板消しで叩き、白いチョークで大きく文字を書いた。
【春の体育祭】
「体育祭!!???」クラス中が突然、大歓声に包まれた。
「さて、みんなも知っている通り、5月の終わりに、うちの高校では創立以来の伝統行事が行われる!」長谷川先生は大きな声で説明した。「これはただのスポーツ大会じゃないぞ? 1年生から3年生まで、全クラスが競い合うんだ! 君たちのクラスのプライドがここにかかっているんだ!」
「先生! 俺たちのクラスが絶対に優勝します!」前の席の男子生徒の一人が叫んだ。
「おっ、いい意気込みだな! というわけで、今日の1時間目の授業は潰す!」
「授業を潰す」という言葉に、生徒たちの歓声はさらに大きくなった。
「この時間を使って、競技の出場者を決める話し合いをするぞ」
「藤本ふじもとさん、クラス委員長として、前に出てこの話し合いの進行を手伝ってくれないか」
しっかり者でテキパキとしたメガネ女子の藤本さんが、すぐに教壇の前に出てチョークを受け取った。
「みんな、聞いてください! 生徒会からのプリントによると、各クラスの代表が参加しなければならない必須競技が5つあります」藤本さんはそう言いながら、黒板にリストを書き出した。
【第一種目】『クラス対抗リレー』
【第二種目】『綱引き』
【第三種目】『玉入れ』
【第四種目】『騎馬戦』
【第五種目】『男女混合リレー』
競技のリストが書かれると、1年A組の教室はたちまち競りの会場のような騒ぎになった。誰もが自分のグループと話し合いに夢中になっている。
教室の隅で、水沢が俺の机をバンッと強く叩いた。
「おい、宇佐美! 中村! 林! 俺たち4人で騎馬戦に出るぞ! 男のロマンはあの競技に詰まってる!」
「賛成! 俺は先頭で敵に突っ込む馬になるぜ!」
「俺は横の馬だ! そして水沢が上に乗る騎手な!」
「あ、そうだ宇佐美……お前はもう片方の横の馬な!」
俺はすぐに両手を上げ、胸の前でバッテンを作った。
「勘弁してくれよ。俺はパスだ。あんな野蛮な競技……俺がインドア派だって知ってるだろ。選べるなら、俺は深呼吸大会に出たいよ」
「あははは!! 深呼吸大会なんてあるわけないだろ、宇佐美」
「頼むよ、宇佐美! 俺たちちょうど4人だし、騎馬を組むのにぴったりじゃないか!」
男子たちが言い争っている間、教室の前方では、藤本さんが競技選びに悩む女子生徒たちをまとめようとしていた。
「女子の皆さん、綱引きに立候補してくれる人はいませんか? 力持ちの人が10人必要なの!」
しかし、手にタコができたり汚れたりするのを恐れてか、多くの女子生徒は手を挙げるのをためらっていた。少し行き詰まったその状況を見て、白川さんが席から立ち上がった。
一瞬にして、クラス中の視線が彼女に注がれた――。
「藤本さん」白川さんは柔らかく、しかし教室中に響き渡るはっきりとした声で呼びかけた。「もしよければ提案があるのですが……女子は、玉入れと男女混合リレーを優先的に決めるのはどうでしょう? 綱引きは、運動部に所属している女の子たちにお願いすれば、きっと快く引き受けてくれると思います」
「まどっちの言う通り!」天海さんが親友の隣に立ち、拳を宙に突き上げた。「混合リレーなら、私、女子の第一走者として走る準備できてるよ! 誰かまどっちと一緒に玉入れに出たい人いない!?」
「私、出たい!」
「白川さんが出るなら、私も玉入れ出る!」
「白川さん、後でボールの投げ方教えてね!」
まあ、これが学校一のギャル姫の影響力というやつだ。
ほんの数言の言葉と天海さんのサポートだけで、ためらっていた女子生徒全員が、急にやる気を出して立候補し始めたのだ。
藤本さんは安堵の息をつき、すぐに彼女たちの名前を黒板に書き留めた。
ずっとその様子を見ていた水沢が、俺の腕を軽く突いた。
「なあ宇佐美、見ろよ。白川さんって本当にカリスマ的なリーダーのオーラを持ってるよな? 彼女の提案は、誰も文句を言わずにすんなり受け入れられたぜ」
「まあな、彼女はみんなに好かれる話し方を知ってるからな」
「白川さんといえばさ……」林が身を乗り出し、俺たち3人にひそひそ声で話しかけた。「昨日宇佐美が教えてくれたアドバイス、試してみたんだ。今朝廊下ですれ違った時に、いつものみたいに大声で騒いだりせず、落ち着いて挨拶してみたんだよ」
「それで? どうだった!?」中村が興味津々で尋ねた。
「挨拶、返してくれたんだ! しかもあの笑顔……うっ! だめだ、俺、耐えられない。いつもの硬い笑顔じゃなかったんだ! 俺のこと、名字で呼んでくれたんだぞ!」林はまるで金色のトロフィーでももらったかのように、感動した顔で自分の胸を押さえた。
俺は視線を窓の外にそらし、吹き出しそうになるのを必死に堪えるために、口の内側を強く噛まなければならなかった。
(そりゃあ、そんな風に挨拶してくるだろうよ、林。あいつは、俺の新しい友達と親しげに話せるのが嬉しくて、こっそり浮かれてるだけなんだから)
クラスの話し合いが盛り上がる中、俺はふと前の方に視線を戻した。ちょうどその時、黒板の近くに立っていた白川さんが、突然教室の後ろの隅を盗み見ていた。
彼女の透き通るような青い目が、俺の目と合った。
おしゃべりに夢中になっているクラスメイトの誰にも気づかれないように、彼女は俺に向かって素早くウインクをし、そして俺たち二人にしかわからない、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
まるでテレパシーでメッセージを送ってきているかのようだった。『どう、おじいちゃん? 私の演技、完璧でしょ?』
俺は椅子の背もたれに寄りかかったまま、親指と人差し指を使って、ほんのわずかに『OK』のサインを作った。
「おい、宇佐美! またぼーっとすんな!」水沢が突然、後ろから俺の制服の襟を引っ張った。「お前も絶対に騎馬戦に出るんだからな! 拒否権はないぞ!」
「嫌だって言ってるだろ! 離せ、水沢! 俺は中村の上に乗られるのはごめんだ――!」
「頼むよ、宇佐美! 1年A組の男のプライドのために!」中村がふざけて俺の首をヘッドロックしながら懇願した。




