第18話 ギャル姫様のお説教
「はぁーっ……やっぱり疲れたな」
アパートのドアがしっかりと閉まり、新しい友達の足音が聞こえなくなってから、俺は空になったコーラの缶を拾い集め、ポテトチップスの袋を大きなゴミ袋にまとめ、4つのゲームコントローラーを引き出しに片付け始めた。
リビングは少し散らかっていたが、今夜の俺の気分はとても晴れやかだった。
俺みたいな陰キャ男子に、一緒にゲームをして馬鹿な話ができる男友達がようやくできたのだ。
今までどんよりとしていた俺の高校生活に、間違いなく新しい色が加わった。
外のゴミ置き場にゴミを捨て終わった後、俺はカーペットの上に寝転がった。
夕方からマナーモードにしていたため、全く触っていなかったスマホをズボンのポケットから取り出した。
スマホの画面が点灯すると――。
【MINEから99+件の未読メッセージ】
【白川 円香しらかわまどかから27件の不在着信】
「や、やばい……」
俺はすぐにチャットアプリを開いた。画面は、あのギャル姫からのスタンプ、大文字のテキスト、そしてメッセージの嵐で埋め尽くされていた。
【宇佐美うさみくん! 用事まだ終わらないの!?】
【もう6時だよ! まさか死んでないよね!?】
【返事しなさいよ、おじいちゃん!】
(MINEスタンプ:画面の内側からスマホを叩くウサギ)
【用事なんてほっといて! 電話出て!】
【あんた、本当に一人でゲーセン行ってるんでしょ!? この嘘つき! あんたの漫画コレクション燃やしてやるから!】
【ど・こ・に・い・る・のーーーー!? ヽ( `д´*)ノ】
彼女をなだめるための返信を打ち込む間もなく、スマホの画面が突然切り替わった。着信だ。「白川 円香」という名前が画面に大きく表示されている。
俺はツバを飲み込み、深呼吸をしてから緑のボタンを押し、スマホを耳に当てた。
「も、もしもし――」
「宇佐美くん! 今までどこ行ってたの!?」
電話越しの甲高い叫び声に、俺は反射的にスマホを耳から遠ざけた。
「さ、叫ぶなよ、耳が遠くなるだろ――」
「うるさい! ついでに耳遠くなっちゃえ!」
「今何時だか分かってる!? もう夜の8時半だよ! 私、夕方の5時から6時、7時ってずっとメッセージ送ってたんだからね! 何十回も電話したのに、全部留守電だったし!」
「あんた……生死に関わる重要な急用があるって言ってたじゃん!?」
「何時間もスマホ触れない用事って一体何なのよ、え!? 私、すっごく心配したんだからね! 道間違えて誘拐されたのかとか、ドブに落ちて気絶して誰も助けてくれないんじゃないかとか……」
「本当にゲーセンで遊んでたなら、せめて連絡くらいしてよ! 宇佐美くんのバカ! ひどい! ブサイクおじいちゃん!」
彼女は息継ぎの暇も与えず、まるでライブ中のラッパーのように俺に説教を浴びせ続けた。
一体いつ息をしているのか不思議に思うほどだった。
「とりあえず深呼吸しろ、白川さん……」
電話越しに、とても重くて長いため息が聞こえた。どうやら、自分のお説教のせいで本当に息切れしてしまったらしい。
「はぁっ……はぁっ……とにかく、私怒ってるから」
「で、宇佐美くん、正直に答えて。本当はどこに行ってたの? なんでこんな時間になってやっとスマホ触ってるの?」
俺はアパートの天井を見つめた。もう彼女に嘘をつき通すことはできない。それに、遅かれ早かれ明日の学校で、俺が水沢みずさわたちのグループと関わっているのを彼女は目にするはずだ。
「ゲーセンには行ってないし、ましてや誘拐されてもない」
「俺は……夕方からずっとアパートにいたよ」
「え……? アパート? 一人で?」
「いや。来客があったんだ」
「ら、来客? 誰?」彼女の声は急に少し警戒心を帯びた。「まさか……こっそり他の女の子を部屋に連れ込んでたとか言わないよね!?」
「俺みたいな陰キャの部屋に遊びに来る女なんて、お前以外にいるわけないだろ、馬鹿!」
「来たのは……水沢、中村なかむら、林はやしだよ。クラスメイトの3人だ」
「…………」
「…………」
数秒間、電話の向こうからは何の音も聞こえなかった。
「もしもし……? 白川さん?」
「ええええええええっ!? み、水沢くん!? 中村くん!? 林くん!?」彼女はとてつもなく驚いた声で叫んだ。「あ、あの3人が!? あの人気男子たちが!? あんたのアパートに!? な、何のために!?」
「話すと長くなるんだけど、要するに、今日の昼にちょっとした誤解があってさ」
「でも……手短に言うと、さっきまで一緒にカーレースしてコーラ飲んでたところだ。それで……ええと……俺、あいつらと友達になったんだ」
「…………」
「…………」
今度の沈黙はさっきより少し長かった。俺は不安になり始めた。俺たちがいつも遊んでいる場所に他の人間を入れたことに怒っているのか……? それとも、自分の秘密がバレたのではないかと疑っているのか?
しかし、スマホのスピーカーから聞こえてきた声は、怒りの声とは全く違っていた。
「よかったぁ……」
彼女の声は震えており、優しく、そして信じられないほどの安堵感に満ちていた。
「は……? よかった? なんで?」
「うん! よかったね、宇佐美くん!」白川さんの声は再び明るさを取り戻し、以前よりもずっと弾んでいた。今の彼女が、自分の部屋でどれほど満面の笑みを浮かべているか、容易に想像できた。
「わあ……ほんっとにびっくりしたよ! でも、それを聞いてすっごおおおく嬉しい!」
「え? 嬉しい……? メッセージ無視してあいつらと遊んでたのに、怒ってないのか?」
「う、うん……さっきまでは怒ってたけど、今は100パーセント許してあげる!」
「だって……私、本当はずっと宇佐美くんのこと心配してたんだよ?」
「クラスにいる時、宇佐美くんいっつも一人で座ってるでしょ。本読んだり、窓の外見たりしてるだけで、誰とも話してなかったし。宇佐美くんが静かなのが好きなのは分かってるけど……でも、馬鹿なこと一緒にやれる男友達がいない高校生活なんて、寂しいでしょ? 葵あまみちゃんにお願いして、クラスの男子を何人か紹介してもらおうかなって思ってたことすらあったんだから……」
なんてこった……彼女のあの口うるさくておせっかいな態度の裏で、彼女が俺の学校生活のことをそこまで心配してくれていたなんて、思いもしなかった。
「でもまさか……私のおじいちゃんが、自分で友達を作れるなんてね! すごい! えらい! あははは! しかも水沢くんたちのグループなら、絶対楽しいに決まってるし!」
今まで、俺たちの友達関係はひどく不釣り合いなものだとずっと思っていた。しかしどうやら……俺とは全く違う次元にいる彼女も、俺が教室で一人ぼっちなのを心配するくらい、俺のことを大切な友達として本当に想ってくれていたようだ。
「そうか……」
「あ、ありがとう、白川さん。心配してくれて」
「えへへ、どういたしまして! 初めての友達として、宇佐美くんが陰キャこじらせすぎないように見守るのは、私の義務だからね〜!」
「はいはい。お前のお説教のおかげで、俺の陰キャオーラも少しは薄れたみたいだ」
「へえ! それは宇佐美くんがメッセージ返さなかったのが悪いんでしょ! あ、そういえば、約束はまだ有効だよね!?」
「何の約束だ?」
「記憶喪失のフリしないでよ、馬鹿! 今度の日曜日! 私の家に遊びに来るって言ったでしょ! チャットに残ってるんだからね、これは絶対の契約だよ!」
俺はこらえきれずに小さく吹き出した。彼女のエネルギーは本当に尽きることがないな。
「はいはい、覚えてるよ。日曜日は行くよ。美味しいおやつ用意しといてくれよ」
「任せて! お母さんがすっごく美味しいケーキ作ってくれるから! じゃあ、宇佐美くんも一日遊んで疲れたでしょ。ゆっくり休んでね、いつまでもスマホいじってちゃダメだよ!」
「お前がずっと電話してたんだろ」
「ふふふっ、おやすみ、おじいちゃん! また明日学校でね!」
「ああ。おやすみ、おしゃべり姫」
高校に入学して一ヶ月、俺には一緒にいて楽しい男友達と、おせっかいな態度の裏でいつも気にかけてくれる女友達ができた。
願わくば……俺の高校生活が、本当にとても楽しいものへと変わり始めますように。




