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タイプじゃないと言われたので、好きな子ができるまで恋人にしてもらいました。  作者: momomo
第二章:言えないまま近づくふたり

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第九話:まだ、好きでいて

『待ってるね』


 そのメッセージを見た俺は、急いだ。


 向かう途中、何人も学校のやつに会ったけれど。

 挨拶もそこそこに、人波の間を進んでいく。


 やがて――藤沢が見えた。


 目が合った途端、その顔が思いきり綻ぶ。

 そして、元気よく手を振ってきた。


(いや、その笑顔はやりすぎだって……)


 やや焦りながらも、つられてにやけそうになる。

 控えめに、手を上げて応えた。


 目の前まで行くと、彼女は心底嬉しそうに俺を見上げてきた。


(浴衣姿……えぐい……)


 尋常じゃない暑さだ。

 急いだから、というだけではないのだろう。


 ◇


 みんなが遊び終わったという射的を、やってみた。


 トンッ。


「……よっしゃー」


 久しぶりだったけど、狙っていたお菓子のセットを倒すことができた。


(見たか、俺の銃さばきを……)


 振り返った先に、いたのは。


「おお! さすが〜」


 あまり感情のこもっていない声で褒めてくれる、立花さんだった。


(……あれ)


 藤沢も、さっきまでそこにいたはずなのに。


 立花さんが、小声と目線で『あっち』と教えてくれた先にいたのは。


 藤沢と——蓮沼?


「おめでとう!」


 蓮沼の声がでかくて、それだけが薄っすらと聞こえた。


「ん? はっすーがひな子に、クマあげてるね」


 立花さんが呟いたとおり。

 差し出されたぬいぐるみを、藤沢が笑顔で受け取っている。


 それから蓮沼が、気恥ずかしそうに何かを切り出そうとして。

 藤沢は、それに顔を強張らせていた。


 喧騒もあって、内容はまったく聞こえない。


(……なんなんだ)


「あれ。割り込まなくていいの?」


 俺と藤沢の関係を知っている立花さんが、飄々とそんなことを言ってくる。


「…………」


 何も返せないまま、屋台のおじさんから、当てたお菓子を受け取った。


 誕生日プレゼントは、俺もTシャツを用意している。

 彼女は『一緒に夏祭りに行けるだけでいいよ』と言っていたけれど、買ったのだ。


 でも今は、持ってきていない。


 みんなの前では渡せないと、思ったから。


 ◇


 ぼーっとしながら歩いていると、隣の男子が「ぬおっ!?」と変な声をあげた。


「あの子、佐々木と付き合ってなかったっけ!?」


 佐々木というのは、サッカー部の同期だ。


 視線の先で、見覚えのある女子が、佐々木ではない男と仲睦まじく歩いている。


「ん? 佐々木とは別れたんだよ。知らねーの?」


 別の男子が答えた。


「一年近く付き合ってたのに、あっけねーよな」


(…………)


 ずしり、と、胸の奥に何かが乗っかる。


 高校生の『好き』は、儚い。


 現に、藤沢と新山も、三か月で別れている。

 藤沢と俺に当てはまらないとは、言えない。


 ◇


 一緒に来たメンバーのほとんどは、かき氷を買うと言って並び始めた。


 かき氷が苦手な俺は、参道の中央で待つことにした。


 すると。


 藤沢が、いそいそと隣にやってきた。


「……食べないの?」


 静かに尋ねる。


「うん。歯がキーンってなるの、苦手」


「俺も」


 彼女は「えっ」と見上げてきた。


「一緒、嬉しい」


 はにかんだその腕の中には、さっきのクマが抱かれている。


「みんな帰ってくるまで、喋ってても、いい……?」


 こっそりと、問いかけられた。


「……うん」


 俺の返事を聞くと、喜びを滲ませていた。


(…………)



 藤沢が好きなのは『俺』?


 それとも。


『俺を振り向かせること』?

『秘密の付き合い』?


 もし、そうであっても。

 彼女が、俺のほうを向いてくれるなら。


 まだ、このままでいたい。


 まだ、好きでいてほしい。



 参道は人でひしめき合って、身動きが取れないくらいになってきた。


「めっちゃ混んできたね。あっち、行く?」


 比較的空いている、屋台の裏のほうを指されたけれど。


「……いや……」


 小さな手を、そっと握った。



「ここに、いよ」



 彼女は驚いたように瞬きをして、俺を見る。


 そのまま、みんなが戻ってくるまで。

 人混みに紛れて、手を繋いだままでいた。


 ◇


「いやー、めっちゃ楽しかったな!」


 祭りが終わって、女子たちと別れたあと。

 男子だけでファストフードに寄り、足りない腹を満たしていた。


「てか。おまえ、藤沢さんにクマ渡してなかった?」


 ひとりが、蓮沼に話を振る。


「え? ああ! 誕生日って言ってたからさ」


「まさか、狙ってんじゃねーよな?」


 そのやり取りを無心で聞きながら、ポテトを口に運んだ。


「あ、違くて……」


 蓮沼は、二個目のハンバーガーの包みを開ける手を止め、言った。



「……やっぱ、おまえらにも言っとく。俺、立花さんのこと好きなんだわ!」



 唐突な告白に、一斉に「え!?」と声が漏れる。


「マジ?」


「うん。藤沢さんには、その話聞いてもらってただけ」



(…………紛らわしいことすんじゃねーよ!)


 大口を開けてハンバーガーにかぶりつこうとした蓮沼が「ん? だれか今、足蹴った?」と不思議そうにする。


「わり。当たったわ」


 喉に残るポテトを、コーラで流し込みながら答えた。


 ◇


 一度家に帰って、それから向かった先は。


「慎っ!」


 ――藤沢の家だ。


 中で待っててと言ったのに、彼女は門の前にいた。

 浴衣はもう脱いで、ポロワンピースを着ている。


「急にどうしたのっ?」


 嬉しそうに尋ねたあと、俺の手元の紙袋に気づいた。


 そのまま、差し出す。


「これ……誕生日プレゼント」


 彼女は、目を丸くした。


「えっ! 夏祭りも、行ってくれたのに?」


「まあ、それはプレゼントとはまた違うし……」


 ごにょごにょ言っている俺の手から、そっと受け取ってくれる。


「開けても、いい?」


「うん」


 中から取り出したTシャツを見て、目を輝かせた。


「かわいーっ!」


(……よかった)


 安堵の息が漏れる。


 ネイビーの生地に、明るい色のロゴが入っている。


 ひとしきり喜んでくれたあと、彼女は言った。


「少しだけ、お喋りしたいっ。あそこ、行こ?」


 そう言って、俺の腕を引いていった。


 ◇


 着いたのは、すぐ近くにある、子ども向けのこじんまりとした公園。


「あれー。誰かいるー」


 あいにく、先客がいた。

 大学生くらいのカップルが、線香花火をしている。


 藤沢はいったん紙袋に戻したTシャツを、大切そうに膝の上に置いて、ブランコを小さく揺らしている。


 俺は、その前にある柵に腰掛けた。


「今日は、最高の一日だったなあ」


 そう言って、浸っている。


「慎が、手、繋いでくれたし」


「……ごめん」


「えっ、ううん? 二人だけの秘密みたいで、楽しかった」


 鼻歌で、盆踊りの曲を奏でている。


「…………」


 ここに来るのは、二度目。

 前回も、こんなふうにご機嫌だった。


「あのときのこと、思い出すね」


 そう言って、はにかんだ。

 彼女も、同じことを考えていたらしい。


 ◇


 付き合って一か月の、ホワイトデーの夕暮れ。

 俺があげた、小ぶりなクッキーの詰め合わせを、宝物みたいに抱いてくれていた。


 それで。


 彼女にねだられて、初めてのキスをした。


 照れて視線を落としながら「わあ……」と呟き、にこにこしていた彼女。

 一方で、柔らかい感触と、加減や長さはあれでよかったのかと焦りまくる俺。


(藤沢はきっと、初めてじゃないよな)


 そう感じて、胸がひどく痛んだ。


 そんな、甘くてほろ苦い思い出。


 ◇


 熱い夜風に包まれながら、しばらく喋ったあと。


 家まで送って、帰った。

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