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タイプじゃないと言われたので、好きな子ができるまで恋人にしてもらいました。  作者: momomo
第二章:言えないまま近づくふたり

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第十話:耳が赤くないときは

 夏休みの、静かな校舎。

 暑い廊下に集合し、ダンスの振り付けを確認している。


「ここは、あずさをセンターにして、この向きにするのはどう?」


「いいねっ!」


 今、取り組んでいるのは、文化祭のステージで発表する作品だ。


 振り付けや構成は、自分たちでつくっている。

 昔、プロのダンサーだった顧問の先生が、仕上がりの確認はしてくれるのだけれど。


 少しずつ形づくられていくこの時間が、とても楽しい。



 そこへ、三年の先輩が「二年生! これ、受け取ってー」とやってきた。


 手に持っているのは、チアリーディングの衣装。


「今日の午後から野球部の応援団が来て合わせるので、ここに集合してくださーい」


「はあい」


 うちの学校には、チア部がない。

 だから、野球部の夏の大会には、有志の子たちが応援に行くのだけれど。

 そこにダンス部も、駆り出されるのだ。


「これきっかけで、野球部とダンス部のラブとか、あるんですか!?」


 近くにいた一年生が、目を輝かせる。


「あるよー。去年のひな子とかねえ」


 同期が、衣装を眺めながら悪気なく言った。


 私は、苦笑いする。


「まあ、すぐ別れたけどね……」


 その呟きに、同期は「ごめん!」と焦り、後輩は「そうなんですね……!」と気まずそうにする。


「あっ……気にしないで! 全然!」


 慌ててフォローした。


 だって、少しも引きずっていない自分に、罪悪感を抱いてしまうほどなのだから。



 元彼の新山とは、夏までは、たまに話す程度のクラスメイトだった。

 たしかに大会の応援で仲良くなり、付き合うことになった。

 ベンチに入っていなかった彼も、応援側に回っていたから、一緒にいる時間が長かったのだ。


 話していて楽しかったし、悪い人じゃない。


 だからこそ、気持ちがないのに恋人という『かたち』ではいられないと、思ってしまったのだけれど。



 そんなことを思い出して、ぼうっとしていたら。

 踊り場のほうから響いてくる声をキャッチした。


 これは――たぶん、蓮沼くんだ。


(慎、いるかな……!)


 今日は早速、誕生日にもらったTシャツを着ているのだ。


 じっ、と見つめていると。

 角を曲がってきた四人の集団に——彼がいた。


 目が、合う。


 その顔に、静かな動揺が見えた。

 私のTシャツに、気づいたからだろう。


「あ。藤沢さん、おつかれー」


 蓮沼くんが挨拶してくれる。

 自然な笑顔をつくりながら「おつかれ〜」と返した。


「それ、チアの衣装?」


 蓮沼くんに、尋ねられる。


「うん。明日から行くんだ」


 そんな会話をしながらも。

 私の意識は、Tシャツ姿にドギマギしているであろう慎之介に全集中している。


「野球部、勝ち進んでるもんな。明日もめっちゃ暑いらしいから、気をつけて!」


「ありがとー」


 去っていく彼らに、静かに手を振ると。

 慎之介は、小さく会釈をしてきた。


(なにあの、懸命な他人行儀……かわいいい……)


 内心で悶えまくる。


 今度は、クラスの文化祭準備が被る日に着ていこうと、心に決めるのだった。


 ◇


「ねーえー、慎ー」


 部活のあと。

 そのまま慎之介の部屋に、お邪魔している。


「…………」


「ねえってば。Tシャツ、似合ってたー?」


「……あー、うん」


 歯切れ悪く、返されたあと。



「ていうか…………どけって!」



 大きめの声で、ツッコまれた。


 私は、今。

 ベッドの上にうつ伏せで寝転ぶ慎之介の上に、うつ伏せで乗っかっている。


「やだやだ。くっつくもん」


「……っ」


 目の前にある耳が、いつも以上に真っ赤だ。


 可愛すぎて、たまらなくて。

 思わず、後ろからそこにキスをした。


 慎之介が、バッと振り返る。


「!? 何してんの!?」


 耳を手のひらで押さえながら、目を見開いている。


「えへへ」


「ヘンタイかよっ!」


「あっ。ついに本人からも言われちゃった」


「なに!?『本人』って」


「いやー。あずさからも、よく言われててさ」


「…………」


 眉間に皺を寄せて、フイッと目を逸らされた。


 また、背中にぴたりと身を寄せる。


「……だから! さすがに、くっつきすぎだって」


「だって! 明日は会えないし、明後日から合宿で五日間も会えないんでしょー!?」


 背中でシクシクと泣き真似をしながら「チャージさせてー」と息を吸っていたら、頭をはたかれた。


「せめて明日、会えたらよかったなあ」


 明日は野球部の応援で、帰りが遅くなるのだ。


「…………」


「あっ、そういえば。チアの衣装、今持ってるけど、見たい?」


「いい」


「着てみよっか?」


「……いいって!」


 やや強めに、返された。


 恥ずかしがっているときとは、ちょっと違うトーン。

 耳も、赤くない。


(おや……?)


 もしかして、と思ったけれど。

 追及はしなかった。


「……会えないのさみしいけど、毎日連絡するねっ」


 ぎゅっと抱きつきながら、言った。


 すると、慎之介は「……あれ」と呟く。


「言ってなかったっけ」


「? なにが?」



「合宿中、スマホ没収だって」



「…………」


 部屋の外まで聞こえてしまうくらいの大きさで、「聞いてないよおおお」と泣き言を響かせてしまった。


 ◇


 翌日のお昼前。

 茹だるような暑さの中、私たちを乗せたバスが走り出した。


 これから、野球部の応援に向かう。


「はあ……」


 窓の外を眺めながら、大きく溜息をつく。

 お菓子を頬張るあずさが、こちらを見た。


「しょぼくれてますねえ」


「だって、一週間近く会えないし、メッセージもできないなんて……干からびちゃうよ……」


 小声で愚痴をこぼすと。


「私なんか、夏休み入ってから一度も拝めてないんだからねっ!?」


 そんな文句を返された。


 涌井のことだ。

 何度かあずさに連れられて、職員室を覗いてみたけれど。

 お休みなのか、たまたま席を外しているのか、いつもいない。


「あっ、そういえば……」


 ふと、思い出す。


「昨日、慎に『チアの格好見たい?』って聞いたら、ちょっと怒ってたんだよね。もしかして、やきもちだったりするのかな」


 あずさは、お菓子をぽりぽりと食べ進めながら、こちらをじっと見ている。


「もしそうだったら、ちょっと心配で……」


「……そう言いながら、顔、めちゃくちゃにやけてるけど。本当に心配してる?」


「えっ」


 慌てて、頬を手で覆った。


「心配してる! 不安にさせたくないもん!」


「嘘くさ! 嫉妬させて喜んでるとか、いい性格してんねえ?」


「ちがうちがう!」


 秘密のお喋りに熱中していたら、あっという間に球場に到着していて驚いた。

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