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タイプじゃないと言われたので、好きな子ができるまで恋人にしてもらいました。  作者: momomo
第一章:内緒で甘々なふたり

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第三話:変な扉を開けられた

「んーっ、生き返るー」


 スプーンに乗せたソフトクリームをひとくち含んだあずさは、大げさに目を細めた。


 部活からの帰り道。

 約束通り、駅前にあるファストフードに、あずさと二人で寄っている。


 半額のメニューがある日は、いつも混んでいる。


「校門出たとき、南くんと何か話してなかった?」


 そう聞かれ、さっきの出来事を思い出す。


 視線を泳がせながら、タオルを受け取った彼。

 指先をすっと当てたら、軽く睨んできた彼。


「……うん。めっちゃ可愛かったあ」


 思わずうっとりとしながら、呟く。


 あずさは「また何か、悪戯したの」と訝しんでいた。


「昨日の『予定』は? 楽しかった?」


「うん! それも楽しかった」


 部屋で擦り寄る私に呆れながらも、彼の口元は緩んでいた。

 思い出すと、たまらない。


 帰りだって。

 同級生に見られたときのための変装として、わざわざ私服に着替え、キャップを深く被って。

 いつものように、私の家の近くを走るバスの停留所まで送ってくれた。


「なに、にやけてんのよ」


 あずさに突っ込まれる。


「えへ。いろいろ、思い出して」


 ソフトクリームをひとくち頬張り、「あー」と宙を見る。


「早く『俺も好き』って、言ってくれないかなあ」


 きっと『満更でもない』というのは、ああいう顔のことだと思うのだ。


「でも、我慢してる顔も可愛いから、それを見られなくなるのは、惜しいんだけど……」


「……南くんも、大変だね。ひな子みたいなのに、捕まっちゃって」


「開花させたのは、慎だから!」


 そう返したら、声を出して笑われた。



 彼――南(みなみ)慎之介(しんのすけ)には、やや強引なかたちで、恋人になってもらった。


 思い切って告白したら、『タイプとは違う』なんて言われてしまったものの。

 顔を真っ赤に染めて照れている姿を見たら、諦めきれなかったのだ。


 あずさが、次のひとくちをすくいながら言う。


「ひな子。元彼のときと、全然違うもんね」


 手元のソフトクリームを、スプーンでつつきながら返した。


「……ねー。そうなんだよ」


 付き合っても、好きになれないことはある。

 それを、私は知ってしまっている。


 ◇


 一年の夏から秋までは、当時同じクラスだった他の男の子と付き合っていた。


 告白してくれたのは、彼で。

 別れてほしいと言ったのは、私。


 うまく理由を説明できないまま、ただ謝った。

 彼は最後まで、納得していない顔をしていた。


 それから、しばらくして。

 また次の季節へ差し掛かろうとしていた、ある日。


 部活を終えると、雨が降り始めていた。

 置き傘があることを思い出し、教室の手前まで来て、足を止めた。


 中から、声がした。


「――だからさあ、……」


 慎重に覗いてみると。

 元彼と、同じく野球部のメンバーがいた。


「たった、三か月だぞ?」


 自嘲混じりの声だった。


 内容のすべてが、聞こえたわけではないけれど。

 私との話をしている、かもしれない。


 壁に背中をつけて、どうしたものかと立ち尽くした。


 傘は諦めて帰ろうか、とも思ったけれど。

 廊下には、本降りになってきた雨音が響いている。


 すると。


 階段のほうから足音が近づいてきた。



「藤沢さん?」



 それは、同じクラスの男子。


『南くん』だった。


 サッカー部で。

 教室で騒いでいる集団の中にいる人。


 喋ったことは、たぶん数えるほどしかない。


 南くんは私を見たあと、教室の中にちらりと視線を移した。


 そして。


「傘?」


 ただ、そう聞いてきた。


「えっ? あ、うん」


「どこにある? 机? ロッカー?」


「ロッカーだけど……」


「おけ」


 彼は、すっと教室に入っていった。



「あれ? 南じゃん。どうしたの」


「傘。降ってきたから」


「げ。マジかよ」



 軽い会話が聞こえたあと、彼はすぐに出てきた。

 二つの折りたたみ傘を、その手に持って。


「ハイ」


「あ……」


「じゃあなー」


 差し出すと、もう歩いていった。


 私はしばらく、傘を抱えたまま突っ立っていた。

 それから、ハッとして追いかけた。


 階段の途中で追いつき、前にまわって顔を覗き込む。


「……ありがとうっ!」


「わっ。ビックリしたー」


 彼は肩を跳ねさせ、目を丸くしていた。



「……驚かせんなよ」



 そのときの顔が、私の中の変な扉を開けた。



 そしてすぐに、隣の席になり、話すことが増えた。


 教科書を忘れたから見せてほしいとお願いしたら、照れながら机を寄せてくれたり。


 女の子が投げたボールが、背中に直撃したのに、『へーき。ちょうど凝ってたし』とか言っていたり。


 そんな姿を目にするうち、気づいたら、夢中になっていたのだ。


 ◇


「――ひな子。溶けてるよ?」


 あずさの声で、我に返る。


「あ。やばっ」


 慌てて、液体になりかけているソフトクリームの続きに戻った。


「明日、水曜日。歴史の授業あるーっ」


「おめでとー」


 あずさは、社会科担当で、クラス担任でもある涌井(わくい)を推している。

 男性で、たしか三十代後半。


 気怠そうで、眠そうなところが、いいらしいけれど。


「どこがいいんだか……」


 空になったカップをコトッ、と置きながら、思わずこぼしてしまうと。

 あずさは、輝く瞳で身を乗り出してきた。


「えっとね!?」


(しまった!)


 慌てて「大丈夫っ!」と片手で制す。

 話し始めると、三十分くらい止まらないのだ。


 あずさは、唇を尖らせる。


「私からすると、南くんの良さのほうがわからないけどね?」


「いいの。わかるのは私だけでっ」


「だってなんか、少年っぽいじゃん」


「いやいや。そこがいいの。今日だってね……」


「はいはい。ストーップ!」


 二人で顔を見合わせ、笑った。


 ◇


 あずさと別れ、家の最寄駅で降りるとすぐに、彼へメッセージを送った。


『今、電話できたりする?』


 改札を出るとき、返事が届いた。


『いいよ』


 そのまま発信すると、すぐに出てくれた。


『……ハイ』


「慎! あずさとソフトクリーム食べてきたよ〜」


 声が勝手に浮ついてしまう。


『あー。駅前のね』


「慎は今、何してた?」


『風呂、入ろうとしてた』


「あっ、そうなんだ! じゃあ、また……」


 挨拶を告げようとすると、『ちょ、待って』と、引き留められた。


 そして。


『そっちが家着くまで……大丈夫だから』


 軽く咳払いしながら、そう言ってくれる。


「……やさしい」


 夜道をひとりで歩く私を、心配してくれているらしい。


「好きっ」


『…………』


「大好き!」


『……うるっさいなー』


 台詞とは裏腹に、声には照れと喜びが滲んでいる。


 今すぐぎゅっとしたい衝動に駆られながら。

 湿った空気の中を、ゆっくりと帰った。

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