改訂【塀の上、綱渡りのハッカーズ】 本編 7 馬券スキーム
冷たい雨が、新宿の路地裏を灰色に染め上げている。アスファルトに叩きつけられる雨音は、都市が発するノイズを消し去るための鎮魂歌のようだった。
戸田のため息は、戦後の焼け野原で誰にも看取られずに息を引き取った者たちの呟きのように響いた。
この国は、かつての責任を誰一人として負わず、ただ「平穏」という名の仮面を被り続けている。そのシステムに適合できない者は、こうして路地裏でゴミのように佇む。
彼の中にある、「火垂るの墓」の清太のような少年が、冷酷なまでに世界を断罪しているのか。
ただ、路地裏の向こう、新宿の摩天楼を見上げた。眩い灯りが、雨の夜を不気味に照らしている。
そこには、過去の清算を放棄した人間たちが、何事もなかったかのように眠っている。彼らは戦後七十年、一度も国民に頭を下げることなく、自分たちが作った「安寧」に浸っているのだ。
「深見は、俺たちに『歴史を塗り替えれるか?』と言った」
過去の戦争の記憶を隠蔽した、かつての「記録者」たちは、システムを支えているのは、法や正義ではなく、過去の汚点を隠し続けるための「恐怖」だと言っている。それを暴くこと。それこそが、深見が望んだ「復讐」の形だ。
深見がどう思おうと関係ない。これは、深見のための仕事ではない。戸田自身が、この理不尽な世界で生きてきた自分自身を、せめてこの最後の一撃で「清算」するための物語だ。
「火垂るの墓」のような悲劇は、もう繰り返さない。死ぬなら、せめて彼らを地獄の道連れにしてからだ。
足音に気づき、戸田は身を潜めた。路地の入り口に、警官の影が映る。
戸田は懐からライターを取り出し、自分の「異物」としての気配を消した。
戸田は静かに、戦後という名の欺瞞の中で、意思を埋めた。
「さあ、祭りの時間だ」
誰に言うでもなく呟くと、戸田は警官の隊列とは逆方向に向かって、一歩ずつ、しかし確実な足取りで踏み出した。彼の背中には、この国が忘れてきた、重く冷たい歴史の影が、まるで炎のように揺らめいていた。
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