8.覚めない夢
その日の晩から、眠りに就いた子どもたちが、幾日経っても目を覚さないという奇妙の事件が勃発していた。
眠った子どもたちの意識は夢の中に入り、抜け出して現実空間に戻れないという前代未聞の状況に追いやられている。
その夢は他の子どもたちと共有された同一の世界で、想像したことが全てタイムラグもなし現出するという理屈で成り立っていた。
子どもたちは、本物さながらの本気のヒーローごっこをしたりして、その世界で楽しく遊んでいた。
その世界で延々と遊んでいられる子どもたちは、現実で何が起こっているのかは露知らず。
だが、その夢に迷い込んだ一人の少年は、そこが現実ではないと考え、その世界から抜け出す方法を思案していた。
どうすれば夢から覚められるの。
事件の一報を聞いた恭子と光一は、鈴間の指示で病院に入院する目覚めない子どもたちを調べていた。
親御さんの話によると、子どもたちは皆、眠りに就くその日、不思議な的屋から楽しい夢を見られる夢枕というものを購入して使い始めたのだという。
恐らく、空間転移系を応用した技術で子どもの意識を特殊な世界に閉じ込めているのだろうと二人は推測した。
夢枕を売った的屋に会うため、二人は現地に捜しに行った。
そこは神社の一角で、お祭りの一夜に的屋が出されていた。
流石にお祭りも終わっており、的屋は残っていない。
「あー、どこに行けば会えるんだー」
それ以降もお祭りをやっている各地の神社を巡り、問題の的屋を捜していたが、ついには見つけることができなかった。
「どうするんだよ。件の夢枕がなきゃ、夢の世界に攻め込めないじゃないか」
そこへ、枕を持った二人の子どもの男女が通りかかった。
「柳田、あれ」
恭子はその二人を指差す。
「ああ」
光一は子どもたちに声をかける。
「やあ、君たち。その枕、どうしたのかな?」
「あっちで屋台の兄ちゃんが売れ残りだってくれたんだ」
男の子はそう答えた。
恭子と光一は、顔を見合わせて頷いた。
「行ってみよう」
二人は、ありがとう、と言い残して屋台を探した。
「あれじゃない」
目の前に枕を扱っている屋台を見つけた。
二人は屋台の前に歩く。
「すみません、その枕、二個もらえますか?」
「お兄さんたち、この枕が欲しいの?」
「うん」
屋台の男は二人に枕を差し出した。
「この枕は楽しい夢を見ることができる優れものさ」
当たりだった。
「これを使って寝れば見れるんですか?」
「そうだよ。いい夢を見るんだよ」
男はそう言ってニヤリとほくそ笑む。
枕を持って帰った二人は、早速その枕で眠り、夢の世界に入り込んだ。
そこは、どんなことも想像するだけで、願いが叶う不思議な空間。
「柳田?」
恭子は光一の姿を確認できず、考え込んだ。
すると、光一が姿を現した。
「やっと来たのね、柳田」
「好きだ、アリス」
「え?」
唐突に告白され、素っ頓狂な声を上げる恭子。
「ちょっと、何言って……?」
「アリスも俺のことが好きなんだろう?」
(見透かされてる)
「バカじゃないの? なんで私があんたなんかを好きになるの? 柳田の分際でつけ上がらないでよね」
「そんなこと言うなよ。俺、本当に好きなんだ。付き合ってくれ」
「そ、そんなこと言われたって……」
恭子は頬を赤らめる。
一方その頃、光一は別の場所にいた。
「アリス、どこにいるんだ?」
光一の問いに、恭子が現れる。
「呼んだ?」
「どこにいたんだよ。俺から離れないでくれ」
「それって、好きってことだよね?」
「ちげえよバカ」
「でも、私は光一のこと好きだよ?」
光一は違和感を覚えた。
恭子は光一だなんて呼ばない。
「アリスは俺のことは柳田と呼ぶ。お前は何者だ?」
「……!?」
偽物であることを見抜かれた恭子のイミテーションは正体を現した。
それはバクのような姿をした異星人だった。
バク。人が見る夢を食べている空想上の動物である。
「お前の夢の蜜は美味しそうだったんだけど、バレちゃったかあ」
星人は惑星ドリーマーから人々の夢を貪り尽くし希望を奪うためにやって来ていた。
「あはは、あはは」
「ピュージュみたいな笑い方すんな!」
光一は星人をぶん殴った。
「おお、野蛮な地球人よ」
星人は巨大ロボットを召喚し、コックピットに乗り込んだ。
「さーて、お前を踏み潰してやろう」
光一はガイアスターを召喚し、自身の体を収納し、電子頭脳に意識をダイブさせる。
「へえ、君って超機械生命体だったんだあ。あはは、あはは」
「ムカつくんだよその口調!」
切れたガイアスターが力任せの攻撃をする。
「ぎゃあ! 痛いじゃないかあ」
「本物はどこだ?」
「ここではない別の場所で僕と恋愛を楽しんでるかもね」
別の場所にいる恭子は頬を赤らめていた。
「柳田、本当に私なんかでいいの?」
「いいよ」
「じゃ、じゃあ……」
「なあんちゃってえ。美味しそうだから食べちゃおう」
光一は星人に姿を変え、恭子の夢を大きく開けた口で吸い込み始めた。
絶望感に囚われた恭子は、放心状態に陥って立ち尽くす。
「ばあいばあい」
星人はそう言って姿を暗ます。
一方、ガイアスターはロボットの腹部を渾身の一撃で貫き破壊した。
爆発を起こし、星人が吹っ飛ばされる。
目から光子ビームを放ち、星人を粉微塵にする。
「アリス!」
光一の姿に戻り、恭子の居場所の座標を特定して空間転移をした。
正気を失った恭子の前に光一が現れる。
「大丈夫かアリス!」
虚空な目をする恭子の肉眼には光一の姿が映りはするものの気には留めてはいなかった。
「アリス! しっかりするんだアリス!」
光一は恭子の肩を掴んで体を揺さぶる。
「や……柳田……?」
「そうだよ!」
「あなたもどうせ偽物なんでしょう?」
「俺は本物だよ!」
「私はもう何も信じない。お願いだから消えて」
ピシッ!——光一は恭子の頬を叩く。
「そんなの俺の知ってるアリスじゃない! 本当の自分を思い出せ!」
「本当の、自分……?」
それは一体なんだ。恭子は自分がアストライアだったこと、光一と共に敵勢力と戦っていたことを思い出す。
「は!? 私としたことが!」
その時だ。星人が現れる。
「あれれえ? 絶望してたんじゃなかったのかなあ?」
「もう惑わされないわよ!」
「あはは。君の相手はしてる暇がないんだよねえ。だけど、希望を取り戻したのなら……」
星人はロボットに乗り込み、恭子を踏み潰しにかかる。
恭子はスティックを取り出すと頭上に掲げてボタンを押す。
刹那、恭子の背後でアストライアの巨大な右腕が足場から飛び出し、彼女の体をその大きな手が掴んで収納すると、そのまま一気に上昇して全身を露にした。
「え?」
敵ロボットの操縦席で星人が固まる。
アストライアはヴァルシアブラストでロボットを爆破し、爆風で飛び出した星人を捕まえ、そのまま握りつぶす。
星人が圧死すると同時に、作られた空間が崩壊を始めた。
アストライアは自身の体を転移させると共に光一と空間移動で現実の肉体へ意識を戻した。
星人の消滅と夢世界の崩壊で、病院に入院中の眠り続けていた少年たちが、一斉に目を覚まして起き上がった。
こうして事件は解決で幕を閉じるのだった。




