5.もう一人の適合者
日本人のある考古学者は、懇意にしている光一を引き連れて、エジプトを訪れていた。
その名を、村雨 幸雄という。
今回は光一がプライベートで仲良くしている幸雄のお手伝いで来ているので、恭子は同席していなかった。いや、訂正しよう。そもそも恭子は戸籍がないので、パスポート取得が申請できず、海外への渡航そのものができない。だから不在なのである。
しかし本音を言うと、恭子は光一について行きたかったのではあるが。
「幸雄さん、ピラミッドの地下から古代文明の証拠となり得そうな遺跡が見つかったって本当ですか?」
「ああ、現地の知人が写真を送ってきたから間違いないよ」
「じゃあ今回の旅の目的って、その確認ですか?」
「それもある」
「それも、と言うと?」
「実はな、送られてきた写真には奇妙なものが写っていたんだ」
「奇妙なもの?」
「これだよ」
幸雄は光一に一枚の写真を見せる。
そこには、アストライアと同じくらいの古びた巨大な手が遺跡の地面から生えているのが写っていた。
「これは?」
「俺はな、これが巨人の手なんじゃないかと思っている」
「そんなバカな。巨人だとしたら物理的法則に反してるはずだから、自重で体が潰れますよ。誰かがいたずらで製造した偽物では?」
「だから調べに来たんだ」
「なるほど」
二人を乗せたガイドの車が問題のピラミッドの前に止まる。
車を降りると、幸雄の現地の知人が出迎えてくれた。
知人はエジプト語で、「幸雄くん、よくぞ来てくれた」と、言った。
しかし、光一にはその言語を理解できなかった。
「そちらは?」
幸雄はエジプト語で知人に紹介する。
「彼は友達の柳田 光一くんだ」
知人は光一に手を差し出した。
握手を求めていると解釈した光一は、その知人の手を握った。
「初めまして、光一さん。僕は幸雄くんの友達のサミール・ファルークです。よくぞ遠いところから起こしで」
サミールはそう言ったが、エジプト語で喋られているので、光一には全く理解できない。
(こうなるんだったらエジプト語を勉強しとくんだった……)
「サミールくん、彼は日本語オンリーでね、エジプト語はわからないんだ」
「え? それじゃあ、通訳してくれないか?」
幸雄は光一に言った。
「こちら、考古学者のサミール・ファルークくん。はるばる日本からようこそって言ってるよ」
「そうなんですか? えっと……じゃあ、よろしくお願いしますって伝えてもらえますか?」
幸雄はエジプト語で言う。
「サミールくん、よろしくお願いしますだって。ちなみに、彼はACRの隊員なんだよ」
「ACRの!? すごい方なんだね!」
光一は訊ねる。
「何ですって?」
「いや、大したことは言ってないから気にしないでいいよ」
それで、とエジプト語でサミールに向かって話出す幸雄。
「例の地下遺跡というのは?」
「そうだった。ついてきてくれ」
サミールは二人を地下遺跡に案内する。
「遺跡はここさ」
「おお! これはすごい!」
遺跡の中は過去にも現代にもない様々な機械式の古びた人工物と思われる残骸があった。
「何ですかこれは!?」
と、驚きの表情を見せる光一。
「サミールくん、巨大な手はどこにあるんだい?」
「こっちだよ」
サミールは二人を遺跡の奥の方へ案内する。
そこには確かに巨大な古びた手が写真の通りに地面から生えているようだった。
光一は巨大な手に近づく。
「すげえ……」
「光一くん、君の組織の力とやらでこれを掘り起こせないか? 俺はこいつを発掘したくてうずうずしてるんだ」
「うーん……。やってみましょう」
いったん三人はピラミッドから出ると、光一が通信端末でACR基地に連絡を入れた。
やがて調査のため、仲間の隊員が専用の機材を持って、現地にやってきた。
もちろん、恭子は国境を越えられないので不在だった。
「隊長、高木さんはいないんですか?」
「高木隊員はパスポートがなくて入国ができないんだ。柳田隊員、君は高木隊員にも来てもらいたかったのか? 高木隊員、可愛いもんな」
「べ、べべべ、別にそんなことないですよ!」
「ほおう。顔が赤くなってるぞ? もしかして恋心か?」
「ななな、何を言ってるんですか!? からかわないでください!」
「まあ、冗談はこれくらいにして、例の巨大な手を掘り起こしに行こうか」
一同はピラミッドの地下に潜り、遺跡の奥の方へとやってきた。
「こんなものがピラミッドの底に眠っていたのか」
「よーし、みんなで掘り起こすぞ!」
隊員たちは巨人と思しき物体の発掘作業に取り掛かった。
発掘には数日かかり、姿を現したのは巨人の石像であった。
「石像?」
「これが古代に地球で動いていたとでも言うのか? ただの石だぞ?」
『適合者よ……』
光一の脳裏に何者かの声が響く。
「誰か何か言いました?」
「いや、何も?」
『適合者よ。私の声が聞こえるか?』
確かに何者かの声が頭に訴えかけてきている。
(やべ。連日の怪獣騒動で疲れてんのかな? 幻聴が聞こえるぞ……)
『私の名はガイアスター。この星の守護者の超機械生命体だ。私の封印を解いてくれないか?』
「封印? 何を言ってるんだ?」
光一の独り言に隊員の一人が、「お前、誰に喋ってるんだ?」と、声をかける、
「今の声聞こえなかったんですか?」
「だから何のことだよっさきから。お前、ちょっと疲れて脳がイカれてんじゃないか?」
「だったら長期で休暇が必要かもしれませんね」
その時、激しい地響きと共に、怪獣が姿を現した。
「なに!? こんなところで怪獣だと!?」
隊長の鈴間は隊員に指示を出し、それぞれ怪獣と応戦させる。
戦闘機に乗り込んだ隊員たちが、怪獣を迎撃する。
「ぎゃああああんああああ!?」
怪獣は変な鳴き声を上げた。
すると、その怪獣とそっくりなもう一体の怪獣が姿を現した。
双子怪獣だった。
その双子怪獣の名はキラーガイアとスターキラーだ。
二体の怪獣は直立する巨大石像を破壊しようと接近していく。
光一は巨大な石像を見上げる。
(もしもあれが超機械生命体だというなら、どうやって復活させればいいんだ!?)
『適合者よ。戦闘用巨大ロボット同期ブレスを探せ』
「ブレス? 息を吐いてどうするんだ?」
『ふざけているのか?』
「いやいや、冗談だ」
そこへサミールが声をかけてきた。
「今、ブレスがどうとか言いましたよね?」
だがエジプト語のため、意味を理解できない。
「幸雄さん、通訳してください!」
「ああ。ブレスについて聞いている。なんのことかはわからんが」
光一は答えた。
「ブレスについて何か知ってるんですか?」
幸雄の通訳を介して会話が始まる。
「実は古代エジプト王の墓から、こんなものが見つかってるんだ」
サミールは懐から綺麗なブレスを取り出した。
「これは?」
「よくわからないが、君の探しているブレスなんじゃないか?」
光一はブレスを受け取り、石像に訊ねた。
「これか? これが君の探しているブレスなのか?」
『そうだ。まさしくそれだ。そのブレスを腕にはめて念じるがいい。君にあの双子怪獣と戦う力を授けてやろう』
光一は石像の言う通りにブレスを腕にはめる。
「それで?」
『私の電子頭脳に君の意識を転移させる。想像するだけでできるはずだ』
「やってみよう」
光一は念じる。
すると、光一の体が瞬間的に石像に収納され、それと同時にその巨像の電子頭脳に彼の意識が転移し、さらにエメラルドブルーの本来のガイアスターの姿を取り戻す。
ガイアスターは自分の体を改める。
(これは……?)
『これが私の真の姿だ』
(なんだかわかんないけど、あの怪獣を倒せるってわけだな!)
ガイアスターは怪獣に突進する。
戦闘機に搭乗する隊員がガイアスターを見て言う。
「石像が動いてるぞ!」
「そんなバカな! 無機物が動くはずがない!」
ガイアスターは二体の怪獣を相手に最初は優勢だったが、双子怪獣の見事な連携プレーに翻弄され、やがては逆に追い詰められていく。
(く、くそ……!)
ガイアスターはキラーガイアに拘束され、スターキラーにタコ殴りにされる。
(このままではやられる一方だ)
その時、我らがヒーロー、アストライアが飛来し、キラーガイアを捕まえ後方に放り投げた。
「アストライア、一緒に戦ってくれるのか?」
アストライアは聞き覚えのある声色に疑問符を浮かべる。
「柳田?」
「え? 何で俺の名を」
「後で説明する。とにかく今は怪獣を倒しましょう」
「ああ」
アストライアという戦力が加わり、戦況が再び変わる。
ガイアスターは力任せの攻撃と優れた防御力でスターキラーを攻め、アストライアは逆に回避カウンターで一切の打撃を受けずにキラーガイアを追い詰めていく。
やがて双子怪獣は同じポイントにまとめられ、二人同時に放つ必殺光線のダブルエンシェントフラッシュを喰らって大爆発を起こし、跡形もなく消え去るのだった。
アストライアとガイアスターは向き合いながら話す。
「助けに来てくれてありがとう、アストライア」
「別にあなたを助けるつもりで来たわけではないわ。ただ、来なきゃいけない気がして急いできたの」
「そっか。でも何で俺の名前知ってるの?」
「ああ、それは……」
アストライアは考えた。
明かすべきか隠すべきか。
しかし、今は同一の力を持った戦士同士だ。明かしても問題はないだろう。
「あそこで元の姿に戻ろう」
アストライアはピラミッドの影を指差した。
「そこでならみんなに気づかれない」
ガイアスターは元の体をピラミッドの裏に移動させ、意識をその体に転移させ、自身はどこか別の場所に転送させた。
そして、アストライアも少し遅れて恭子の姿に戻って、光一の前に出現した。
「高木さん!?」
「私がアストライアってことは秘密だから誰にも言わないでね」
「君も俺と変わらない人間なのか?」
「いや、私はヴァルシア出身の小さきロボット生命体よ。本当の名は、アリス」
「……………………」
「でも、まさか地球にも超機械生命体がいたなんて、思いもしなかったわ」
「アリス……そう呼んでもいいかな?」
「それは構わないけど、人の前では高木にしといてね」
恭子はアストライアの姿になり、地面を蹴って飛翔し、一足先に日本へと戻っていく。
光一は飛び去っていくアストライアの姿を見つめながら思った。
(アリスのことが好きだって、結局言えなかった……)




