4.アストライアの出自
これは、地球より遥か遠くにある惑星ヴァルシアの物語。
時はアストライアが地球へ到着する前に遡る。
惑星ヴァルシアは、地球のように生命が存在する。
しかし、少しだけ違うところがある。
それは、人型の生命が全てトランスフォーマーのようなロボット生命体であることだ。
後に地球で恭子と名乗る少女は、この星で唯一の若年警察官である。
体が地球人より強固で、身体能力も全員がずば抜けているため、地球では年齢に比例した体力を使う仕事も、この星では歳に制限なく誰でも務めることができるのである。
今、この星では宇宙中の平和に貢献するべく、巨大な戦闘ロボットを開発していた。
警察官の彼女もまた、平和を愛する性格で、その戦闘ロボットに興味を示している。
彼女は今ロボット開発施設の見学をしていた。
格納庫には後にアストライアと呼ばれる巨大ロボットが直立している。
彼女はアストライアの姿を見て、その出で立ちに心を惹かれた。
(あのロボットかっこいいなあ)
彼女は施設の職員にアストライアのことを聞いてみた。
「あれは開発中の戦闘用機体でアストライアと言います」
「アストライア?」
「はい。ですが、まだ機体の適合者が見つかっておらず、始動はできませんが、我々研究員は目下、適合者を惑星中より捜索しています」
「あの、私、あのロボットの適合者かどうか試してみたいんですけど」
「立候補するんですか?」
「はい。なんか初見で惹かれて、魅入ってしまったんです」
「わかりました。担当のものに連絡するので、待っていてもらえますか?」
職員は担当の研究員を呼び出し、恭子のことを紹介する。
「ああ、あなたは警察官の。えっと……?」
「アリスです」
「そうそう、アリスさん。あなたの活躍は聞き及んでいますよ。この星の最年少警察官で検挙率ナンバーワンだと噂されていますよ」
「それは嬉しい限りです」
「それで、アストライアの適合実験に立候補されたいとのことですが……」
「はい。あのロボット、なんかカッコよくて。私に動かせないのかなあって思って」
「わかりました。せっかくなので実験してみましょう」
彼女、アリスは研究員に連れられ、様々な検査を受けることになった。
そして、検査を受けた結果、驚くべき数値を叩き出した。
なんと、アリスの意識とアストライアの電子頭脳適合率が100%だったのだ。
これには研究員たちは大驚きで歓喜の声を上げた。
「それでは、これをあなたに」
研究員はアリスに、ボタンのついたスティック型の装置を渡す。
「これは?」
正式名称、戦闘用巨大ロボット同期端末。
ボタンを押すことで、近くにある場合に自分と適合する待機中の巨大ロボットに意識を転移させ、元の体をその巨体に格納して始動させることができる究極の軍事用装置である。
「これ、押すと私どうなるの?」
「あのロボットに意識が転移されます」
「失敗の恐れは?」
「検査数値が100%と出てるのでないと思いますね」
「なるほど。押してもいい?」
「始動テストをしてみましょうか」
アリスはスティックのボタンを、緊張しながら徐に押し込んだ。
「あれ?」
何も起きない。
「おかしいですね」
研究員はスティックを受け取った。
「調整が悪いのかなあ?」
スティックを手にどこかへと研究員は行ってしまう。
アリスはアストライアを見上げる。
「なんで? なんで受け入れてくれないの? 私はあなたと適合しているのよ?」
その時、アリスの脳裏に声が響いた。
『嫌だ』
「え?」
『嫌だと言ったのだ。私はお前を受け入れるつもりはない』
「誰? 誰なの?」
『私だ。お前の前にいるだろう。その目は節穴か?』
「どういうこと? あなた、ただのロボットでしょ?」
『私は超機械生命体アストライア。自律行動こそ叶わぬが、意思はある。私の体が欲しくば、それ相応の働きをしてみろ。さすればこの体は貴様にくれてやろう』
声はそこで終わった。
(一体何をすれば……?)
研究員が戻ってくる。
「装置に異常はありませんでした」
「あ……実はさっき声を聞いたんです」
「声?」
「アストライアの声でした。超機械生命体って言ってました。なんなんですか、超機械生命体って」
「実はですね——」
研究員は説明する。
アストライアは無から作り上げたものではなく、古代遺跡で発見された巨大ロボットだった。
考古学者が発見したそのロボットは、報告を受けた研究員たちが回収をして密かに調査をしていたのだ。
古き時代に超機械生命体アストライアは、その当時、唯一心を開いた一人の女性ロボットと共に、数々の侵略の魔手からヴァルシアを守護するために休む間もなく戦い続けていたという伝説が書かれた古文書が発見されていた。
そこに目をつけたロボット研究所は、これを平和のために再利用できないかと、日夜研究をしていたのである。
「なるほどねえ……」
「もしかして、拒否されたのですか?」
「はい。お前は受け入れないと、意識転移を断られました」
「なるほど。それで始動できないんですね!」
研究員は納得した。
「では、アストライアに受け入れてもらうための方法を探しましょう」
その時、惑星中に緊急アラームが鳴り響いた。
放送によると、巨大ロボットがヴァルシアに侵入し、破壊活動を始めたと言うのだ。
「アリスさん、チャンスですよ! この事態をアリスさんが解決して、アストライアに認めてもらうんです!」
「けど巨大ロボットなんて、警察官人生の中でも今まで経験したことありませんよ」
「と、とにかく、巨大ロボットを倒しましょう!」
壁が崩落し、巨大ロボットの腕が侵入してくる。
(アストライアは自律行動ができない。アストライアを守らないと。でも何をすれば……)
アリスは考えを張り巡らせる。
周囲に利用できるものはないか。
メンテナンス用の大型クレーンがある。
(あれを使えば倒せはせんでも追い返すことはできるかも!)
アリスは大型クレーンの操縦席に駆け込む。
(アストライアの心を開いてみせるわ!)
アリスは大型クレーンを操作し、敵の巨大ロボットの攻撃を受け止める。
「アストライア、あなたのことは私が守る! 守ってみせる!」
『お手並み拝見といこうか』
攻撃をガードされた巨大ロボットは熱り立って大型をクレーンに痛恨の一撃を繰り出す。
破壊される大型クレーン。
アリスは他の手段を探す。
(そうだ! 警察署にロケットランチャーがあったわ! でもそれを取りに行ってる余裕はなさそうだし、どすうれば……!)
「ねえ、なんか武器になりそうなものはない!?」
アリスは操縦席から降りて研究員に訊ねる。
「武器ですか。確か武器保管庫にグレネードランチャーが」
「それ持ってこれる!?」
「すぐに持ってきます!」
「なるはやでお願い!」
研究員は大急ぎで武器保管庫へ走っていった。
(どうする?)
アリスは拳銃を取り出す。
(こんなものでも、足止めぐらいにはなるか)
アリスは崩落した壁から外に飛び出すと、拳銃で巨大ロボットに攻撃する。
巨大ロボットの体から火花が散るが、全くもって効いていない。
敵はアリスの方を振り向くと、彼女を踏み潰しにかかった。
アリスは目にも留まらぬ速度で踏み下ろしてくる巨大ロボットの足をかわして距離を取る。
「ここまでおいで、ベロベロバー! ベロないけどー!」
アリスは巨大ロボットを挑発し、その巨体がアストライアから離れるように誘い込む。
『貴様、正気か?』
アストライアがアリスに訊ねる。
「言ったでしょ! あなたのことは全力で守るって!」
『ふっ……』
アストライアは嘲笑した。
少しは心を開いてきたか。
『面白いやつだ。5000年前に死別した相棒もお前みたいな無鉄砲なやつだったよ』
「アストライア……」
『だがまだだな。そのロボットをお前一人の力でねじ伏せてみせろ』
そこへグレネードランチャーを持った研究員が戻ってくる。
「アリスさん、これを!」
研究員がアリスにグレネードランチャーを投げ飛ばす。
「そのグレネードランチャーは弾倉に空間転移機能を完備してますのでリロードの必要がありません! 思う存分撃ち込んでください!」
アリスはロボットに向かってグレネード弾を発射する。
被弾したロボットはバランスを崩して後退する。
『……?』
「形勢逆転ってところかしら!?」
アリスはさらにグレネード弾をぶっ放す。
ロボットはグレネード弾をくらい、さらに後退する。
そして、体勢を立て直してミサイルを放ってくる。
「うわああああ!」
アリスは咄嗟にミサイルをかわすが、爆風で吹っ飛ばされ、アストライアの腹部に叩き付けられた。
『貴様、何を遊んでいるのだ?』
「楽しくなってきたわね」
『愉快なやつだな。及第点をやろう。私の体を貴様にくれてやる』
「え? 倒せって言ってなかった」
『気が変わったんだ。貴様は磨けば光る。悪魔の囁きに乗るか?』
アリスはスティックを手にする。
「上等じゃない。あなたの体、貰い受けるわ」
アリスはスティックを頭上に掲げ、勢いよくボタンを押した。
その瞬間、アリスの体がアストライアの体に収納されると同時に、その意識が巨人の電子頭脳に転移する。
「アストライア、始動よ!」
叫んだアストライアは、襲い来るロボットの攻撃を受け流し、カウンターからの乱打を浴びせて追い詰めていく。
『貴様の戦闘タイプは回避カウンター型か』
「戦いでダメージを受けるのは素人のやることよ」
『面白いことを言うな』
アストライアは広げた右手をロボットに突き出し、接近してきたところに必殺のヴァルシアブラストを叩き込み爆砕する。
爆炎が舞い上がり、沈静化するとロボットのいた地面に大きな穴が開いていた。
アストライアは地上にアリスの体を戻し、電子頭脳に入っていたその意識を元の体に転移させた。
「すごいじゃないですかアリスさん! アストライアに認められたんですね!?」
「うん、なんかそうらしいですね」
「そうそう、我々はアストライアごと搭乗できる巨大宇宙船を保有していましてね、別の惑星にも遠征に行けますが、いかがいたしますか?」
「それはそれで楽しそうですね」
「では、来週までに準備をしておきますね」
研究員はそう言って、陽気に鼻歌を歌いながら去っていく。
アリスはアストライアを見上げた。




