42.転移装置の新機能
ヴァルシア。
ロボット研究所。
研究員の前に、恭子そっくりのAIロボットが立っている。
「できた……」
そう。
恭子が偶然持ってきた恭子用のサポートロボットだ。
「アリスさんのサポート、しっかり頼むよ」
「お任せください」
恭子型ロボットはそう言うと、時空転移で地球へと飛んだ。
「早くアリス様のところに行かないと」
恭子型ロボットは恭子を捜して歩き出した。
柳田時間漂流保護事務所の前にやってくる。
扉を開けて中に入った。
「アリスか。もう戻ってきたのか」
恭子型ロボットが記録装置のデータを確認する。
柳田 光一。恭子の友人。
「アリス様はただいまどちらに?」
「……? アリスは君だろう」
「いいえ、私はアリス様のサポートAIロボットです」
「え?」
光一は理解できなかった。
そこへ、恭子が戻ってくる。
「アリスが二人?」
「あら、もう送られてきたのね」
恭子型ロボットが振り返る。
「アリス様あ!」
恭子型ロボットが嬉しそうに恭子へ抱きつく。
「ちょっと!?」
「アリス様、お会いしたかったです!」
「わかったからちょっと放してくれる?」
「ああ、すみませんでした」
恭子型ロボットが恭子を放した。
「あ……あの、どういう状況? なんでアリスが二人いるんだ?」
光一の問いに、恭子は恭子型ロボットがヴァルシア製のAIロボットであることを説明した。
「そんなものを用意してどうしようと?」
「なんか、アストライアとして活動してる間に、身代わりとして行動するようにと作られたそうよ」
「そうなんだ」
恭子型ロボットが懐から転移装置を取り出した。
「それは?」
「アリス様にお届けするようにと預かってきました。今持ってるものと交換してください」
恭子は転移装置を取り出した。
「これと?」
「はい」
恭子型ロボットが転移装置を交換する。
「前のと形状が変わってるわね」
今までのスティック状から、新しいものはブレスレット型だった。
「取説は?」
「取説ですね」
恭子型ロボットがスティック状の転移装置をしまいながら、新型の転移装置の取扱説明書を取り出した。
恭子が受け取った取扱説明書を開くと、ヴァルシア語で機能と使い方の説明が書かれている。
「えーっと、なになに?」
新型転移装置には、従来の時空移動とアストライア召喚時の自身の格納機能に加え、恭子型ロボットの瞬間入れ替え機能がついているようだ。
恭子はブレスレットを操作して恭子型ロボットを亜空間へと転送した。
「なんだろう、このボタン?」
説明書に書かれていないボタンがついている。
恭子はボタンを押してみた。
すると、恭子型ロボットが映ったホログラムが現れた。
どうやら亜空間内部の恭子ロボットとの通信機能のようだ。
「なんでこれ取説にないの?」
その時、ヴァルシアのロボット研究所の研究員は叫んだ。
「ああ! 取説に通信機能のこと書くの忘れたああああ!」
地球の恭子は思った。
(どうせあの人のことだから、忘れたのかしらね)
そこへ、小学女児が飛び込んでくる。
「変態変態! 柳田のおじちゃん、変態だよー!」
「あ? 何が大変なんだ?」
二人の会話に恭子が口を挟んだ。
「この子、変態って言ってるけど?」
「ああ、大変が言えないんだ」
光一が女児に言う。
「変態じゃなくて”大変“だろ?」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わない」
「そんなことより、美代ちゃんがいないの!」
「ああ?」
「美代ちゃん、いきなり黒い穴ができて吸い込まれちゃった」
恭子と光一は顔を見合わせると互いに頷いた。
「お嬢ちゃん、その美代ちゃんって子が消えた場所はどこ?」
恭子が訊ねる。
「私と同部屋だよ」
「同部屋?」
恭子が首を傾げると光一が答えた。
「この子はうちで預かってる親戚の子でね。美代ちゃんって子は双子の妹なんだ」
「お嬢ちゃん、消えた場所に案内して」
恭子が言うと、女児は彼女を事務所の部屋に案内した。
「美代ちゃんが吸い込まれた穴は大体どの辺りかしら?」
「ここ! ここでこうなったの!」
女児は左右のベッドとベッドの間に立ち、現れた時空の裂け目に指を突っ込んだ美代が吸い込まれてしまったと説明した。
恭子は時空転移の痕跡を調べる。
どうやら時空乱流が発生して吸い込まれたということで間違いはなさそうだ。
恭子はブレスレットを操作してタイムトンネルに行き、時空乱流が発生した座標を特定すると、2039年の美代がいる公務員官舎へとやってきた。
「あれ?」
美代と共に、姉である女児がいた。
「お嬢ちゃん、ここへはどうやって?」
「お姉ちゃんがさっき連れてきたんじゃん」
あり得なかった。
女児は置いてきたはずだ。
なのになぜかこの時間に存在している。
「私のことは佳代って呼んで」
「うん、佳代ちゃん。私は連れてきた覚えはないんだけど?」
「え? でもお姉ちゃん、さっきここへ連れてきて、元の時代に帰ったじゃん」
全く記憶にない。
玄関から物音。
「ただいまー」
中に入ってきた女性が靴を脱いでこちらへ歩いてくる。
「あ」
恭子はそのシルエットに見覚えがあった。
「美智子さん!?」
「え? ああ! アリスさんじゃん!」
美代は美智子に訊ねる。
「お母さん、このおばちゃん誰?」
「お……おばちゃん……」
と、呟く恭子をよそに美智子は。
「13年前に世話になったのよ」
「そうなんだ」
美智子は恭子に訊く。
「13年ぶりですね。どうして突然?」
「私の時代で美代ちゃんがいなくなったって聞いたから追いかけてきたんだけど……親子なの?」
「春人さんとの子です」
「え、ええええ!?」
恭子は事務所での光一の発言を思い出した。
『この子はうちで預かってる親戚の子でね。美代ちゃんって子は双子の妹なんだ』
(柳田は親戚って言ってたけど、そういうことか)
「ああ、そうだ」
と、美代が口を開いた。
「お母さん、私、変な夢を見て」
「変な夢?」
「夢の中でお姉ちゃんと一緒に迷子になってるところを見知らぬおじちゃんが助けてくれて、一週間ほど暮らすの。それで、部屋にいたら丸くて黒い何かが出てきて、触ったら目が覚めた」
佳代が美代に言う。
「美代ちゃん、それ夢じゃないと思うよ」
恭子は佳代を見ると、美智子に向き直った。
「美智子さん、私、もう一仕事あるから、これで」
恭子はブレスレットを操作してタイムトンネルへ飛び込み、13年前の2026年へと戻った。
美代が消えた部屋には佳代がいた。
「佳代ちゃん、一緒に来て!」
恭子は佳代の手を掴むと、一緒にタイムトンネルへ飛び込んだ。
「お姉ちゃん、ここは?」
「ここはタイムトラベルを行うための専用の航路よ」
「え、私たち時間移動してるの!?」
「うん。今、佳代ちゃんの家に向かってる。美代ちゃんもそこにいるわ」
「お姉ちゃん、どうして私の名前を?」
「あなたを送り届けたあと、もう一度私が来きて、あなたのことをお嬢ちゃんと呼ぶわ。その時は”私のことは佳代って呼んで“って答えるのよ」
「わかった」
目的地に着き、タイムトンネルから出る二人。
部屋には誰もいない。
「美代ちゃんは? ここにいるって言ったのに」
恭子はブレスレットを見た。
(急いでて時間を間違えたわ)
恭子は佳代を見るとこう伝えた。
「佳代ちゃん、もうすぐ美代ちゃんが帰ってくるわ」
刹那、時空の裂け目が現れ、美代が飛び出してきた。
恭子は気絶した美代を捕まえると、ベッドへ運んで寝かせた。
直後、時空の裂け目は閉じて消え去った。
「じゃあ佳代ちゃん、私はもう行くわ」
そう言って恭子が帰還した直後、別の恭子が単身で部屋に出現した。




