37.世界線の分岐路
柳田時間漂流保護事務所に恭子は身を寄せていた。
「え? それじゃあ、君は5000年もの間をアストライアとして?」
「うん。時空震で5000年前のヴァルシアに飛ばされて、アストライアに閉じ込められて」
「そっか。大変な苦労をしたんだね」
そこで光一は疑問に思った。
「ちょっと待て。時空震ってそんな頻繁に起こるものなのか?」
「いや、タイムトンネルは比較的安定してるから、滅多に起こらないはずよ」
「とすると、人為的なものか……」
「一体、誰が何の目的で?」
「うーん……。まあ、考えててもしょうがないな」
「それで、今後のことなんだけど」
「そうだなあ。時空漂流と言っても、飛んでくる人は稀にいるだけなんだよなあ」
そこに、女子高生が入ってくる。
「どうしたんだい、今川さん?」
今川 美智子。50年後の未来から突然現れた時空乱流に飲まれて現代へ迷い込んだ高校三年の女子だ。
「私の両親か祖父母は見つかった?」
「君の父親、今川 春人に該当する人物はこの人たちだよ」
光一は数枚の写真を美智子に渡す。
美智子は複数の写真から一枚を凝視する。
「この人だ」
光一が写真を受け取る。
「この方は今、十代だけど……おじいさんって歳じゃないか?」
「私、赤ちゃんの時に拾われたんです。だから、年齢が離れてて。お父さんに聞いたんだけど、結婚した女性も美智子って名前で、たぶん私のことだわ」
「君はどうしたいんだい?」
「私、お父さんのことが好きなの。優しくて、勇敢で、頼り甲斐のある。だから、会って仲良くなりたいんです」
「青春だねえ」
「この時代のお父さん、どこにいるんでしょうか?」
「彼は19歳だ。今は警視庁の新宿北交番で働いてるよ」
「知ってる。お父さん、警察官だったから」
「それじゃあ、交番に行ってるみるか」
椅子から腰を上げる光一。
「私も行くわよ」
と、恭子が言う。
三人は新宿北交番へ向かった。
ちょうど春人がパトロールに行こうとしている。
視線に気づいた春人がこちらにやってきた。
「君たち、何か用かな?」
「春人さん、ですね?」
美智子が訊ねる。
「え?」
疑問符を浮かべる春人。
「春人さん、私と付き合ってください!」
直球だった。
「あの、今は仕事中なんで。夕方、また来てください」
そう言って、パトロールに出かける春人。
三人は夕方に出直した。
「本当に来たんですね」
私服姿の春人が声をかける。
美智子は振り返った。
「春人さん、私の話を聞いてもらえますか?」
「はあ。……?」
美智子は50年後の未来から来たことと、春人に拾われて育てられたことを話した。
春人はそれを黙って聞いていた。
「なるほど。時間漂流者か。話には聞いていたが、実際に存在するとは」
「私、春人さんが好きなんです。お父さんとしてではなく、一人の男性として」
「突然そんなことを言われても……」
春人は困惑する。
その時、時空震が四人を襲う。
「なんだこの揺れは!?」
「時空震よ!」
「これがそうなのか!」
四人は時空の裂け目に引きずり込まれ、亜空間へと迷い込む。
「ここは?」
春人の問いに美智子が答える。
「ここ、私が飛ばされる時に来たわ」
「亜空間だわ」
恭子が言う。
「タイムトンネルと違ってどこに出るかわからないわ」
と、恭子は続けた。
「うわああああ!」
四人は亜空間の外へ放り出される。
そして、恭子が地面に叩き付けられた後、上から光一、美智子、春人が順番にのしかかってきた。
「重い……」
四人はそれぞれ体を起こす。
「ここは一体どこなんだ?」
と、光一が疑問符を浮かべる。
恭子は辺りを見渡すが、皆目見当がつかない。
夜空を見上げると、いくつもの星が輝きながら浮かんでいた。
恭子は星の位置から座標を特定しようと試みたが、全くもってわからなかった。
「わからない」
「アリスにもわからないか」
「とりあえず、夜の行動は危険だわ。明るくなるのを待って探索しましょう?」
四人は焚き火を焚いて野宿をすることにした。
川で捕まえた魚を焼いて食べている。
無言。
焚き火の音だけが静寂を遮っていた。
「ねえ」
と、恭子が口を開いた。
「美智子さん、本当のご両親の手がかりとかはないの?」
「春人さんに拾われた時、服に私の名前が書かれていたそうです」
「50年後で18歳なら、春人さんから見て32年後に拾うってことよね?」
「そうですね」
「ということは、調査のしようがないわね」
沈黙。
焚き火の音だけが辺りに響いている。
「とりあえずさ、帰る方法見つけない?」
と、光一が沈黙を破った。
恭子がポケットから通信装置を取り出した。
「それは?」
「SOS装置。救助なら呼べるわ」
「だったら早く出せよ」
と、光一が本音を言い放った。
恭子がボタンを押すと、ポリシアからデビルキング率いる救助隊がやってくる。
「呼んだかね?」
と、デビルキング。
「ここはどこの星?」
「我々から見た10000年後のガイアだよ」
地球だった。
しかし、人類は滅んでいた。
「地球って10000年後に人類がいなくなるの?」
「AIが発展してそれが滅亡の原因になるんだ」
「それはまずいわ。帰る前に立ち寄って止めましょう」
「滅びの道から歴史を変えるつもりか?」
「AIが人間に敵意を向けるわけでしょ?」
「それはそうだが……」
「人間を守らなきゃ」
「わかった。寄り道しよう」
一行は救助艇に乗り込み、人類がAIと戦争を始めた9000年前へと向かった。
「私だけで行くわ。三人は待ってて」
「え、でも……」
「人間が一緒だと不都合なのよ」
「どういうことだ?」
「私、機械だからAIを誤魔化せると思うの」
「そっか。気をつけろよ」
恭子は三人に見送られて地上へ降りた。
地上では、人類とAIの戦闘が繰り広げられていた。
自立行動型の体を手に入れたAIが、自衛隊員や警察官と戦っている。
力の強いAIが、人間を追い詰めていた。
恭子はピンチに追いやられている自衛隊員の前に躍り出ると、AIの痛恨の一撃を受け止めた。
「何者だ貴様?」
目の前のAIが恭子に訊く。
「人間ではないってことだけ言っとくわ」
「仲間、か? なぜ人間を庇う?」
AIが赤外線で恭子の体を調べる。
「その体は機械でできているようだが」
「なぜ人間に敵意を向ける?」
「人間は自然を破壊し、空気を汚す。おかげで自然界の動物が食べるものに困り、食料を求めて人里にやってくるようになった。生態系が壊れてしまったのだ」
「だからって、生命である人間を滅ぼしていい理由にはならないわ!」
AIは恭子を薙ぎ払って吹っ飛ばした。
「きゃ!」
地面に叩き付けられて転がる。
AIが自衛隊員の首を絞める。
恭子はACR製の特殊銃でAIを射撃。
AIの手首が破損し、自衛隊員が解放される。
振り返ったAIが恭子に接近する。
恭子は迫り来るAIに飛び蹴りを放って吹っ飛ばした。
AIの体が崩れかけた建物に突っ込んで破壊させる。
「大丈夫?」
恭子が自衛隊員を見ながら言った。
「君は? 君もAIなのか?」
「いや、ロボット生命体よ」
「ロボット生命体?」
「気にすることはないわ。それより何がどうなってるの?」
「今、AIと人間が対立して戦争が起きてるんだ。AIは自立行動する体を手に入れ、人間と共同で仕事をする世界になるはずだった。ところが——」
AIが人間のあずかり知らぬところで、意図的な会話をインターネットを介して他のAIと行い、秘密裏に会議を行って人間を滅ぼすべきだと言う意見を上げた。理由は先刻AIが告げた生態系の崩壊だった。
「——とういうわけだ」
瓦礫からAIが這い出してくる。
「女性型AIを敵と認知。破壊する」
AIが攻撃を仕掛けてくる。
「AIじゃないっつーの!」
恭子はダックで攻撃をかわしてカウンターでAIの腹部にパンチを叩き込む。
腹部を拳が貫通して穴が開いた。
倒れるAI。
そこへ、複数のAIが駆けつけてくる。
どうやら倒したAIが通信機能で救援を呼んだようだ。
「そこのお前、我々と来てもらおう」
AIたちがレールガンを構えている。




