28.超古代文明崩壊の裏
恭子は床を蹴った。
一直線に出口へ向かう。
「止めろ!」
研究員達が動いた。
だが。
「邪魔!」
恭子は一人の腕を掴む。
投げ飛ばす。
さらに机を蹴り飛ばした。
機材が倒れる。
研究室が騒然となる。
「警備を呼べ!」
「侵入者だ!」
「げ、ちょっと待ちなさい! 侵入者扱い!?」
「侵入者だろう」
後ろ。
プルトンだった。
二本の剣。
左右で構えが違う。
右は正眼。
左は逆手。
研究者の構えじゃない。
「……嘘でしょ」
恭子の頬を汗が伝う。
「何よそれ」
「護身術だ」
「護身術のレベル超えてるんだけど!?」
プルトンはゆっくり歩く。
一歩。
また一歩。
空気が変わった。
研究員達も下がる。
誰も声を出さない。
恭子は記録チップを握りしめた。
(まずい。これ……戦闘始まるやつ?)
プルトンは止まらない。
一歩。
また一歩。
「返したまえ」
「嫌」
「返したまえ」
「嫌」
「……そうか」
次の瞬間だった。
「え?」
消えた。
目の前にいたはずのプルトンの姿がない。
横。
「しまっ——」
金属音。
恭子は反射的に身を引いた。
髪の毛が数本宙を舞う。
「うっそ!?」
壁。
ほんの数秒前まで恭子の首があった場所。
二本の剣が深々と突き刺さっていた。
「今の避けるのか」
「いやいやいや!」
恭子は慌てて距離を取る。
「研究者の動きじゃないでしょ!」
「研究者だからな」
「意味わかんない!」
プルトンは剣を抜く。
まるで何事もなかったかのように。
「研究には護身が必要だ」
「護身で首飛ばしに来る人初めて見たわ!」
研究員達は完全に壁際へ避難していた。
「プルトン様が本気だ……」
「まずいぞ……」
「施設が……」
「施設?」
恭子は嫌な予感がした。
次の瞬間。
床が砕けた。
「え?」
プルトンの踏み込みだった。
床が陥没する。
「ええ!?」
次の瞬間には目の前。
二本の剣が恭子へ向かう。
恭子は咄嗟に身を捻った。
頬の横を刃が通り過ぎる。
さらに左。
逆手の一撃。
「うわ!」
しゃがむ。
頭上を剣が通過した。
後方の機材が真っ二つになる。
「ちょっと待ちなさい!」
恭子は後退する。
「研究者じゃないでしょあんた!」
「研究者だ」
「嘘つき!」
プルトンは追撃する。
一歩。
踏み込み。
右。
左。
斬撃の速度がさらに上がる。
恭子は避けるだけで精一杯だった。
(まずい。普通に強い!)
壁際。
逃げ場がなくなる。
プルトンが構えた。
「返したまえ」
「嫌!」
恭子は横にあった机を蹴り飛ばした。
機材。
書類。
研究器具。
全部まとめて宙を舞う。
プルトンの視界が一瞬塞がれる。
「今!」
恭子は飛び込んだ。
腹部。
膝。
肘。
さらに回し蹴り。
プルトンの体が吹き飛ぶ。
壁へ激突。
研究員達が慌てて駆け寄った。
「プルトン様!」
「大丈夫ですか!?」
恭子は息を整える。
(よし、今のうち!)
記録チップを握りしめる。
レイクローディ発動。
恭子の姿が消えた。
プルトンは壁に手をつきながら立ち上がる。
「……逃がしたか」
口元から血が流れる。
だが。
その目はまだ死んでいなかった。
恭子は人気のない場所に隠れた。
時空転移装置に元の時間と座標を入力する。
(急いでここから出ないと)
恭子は装置を起動した。
体が光に包まれ、亜空間に飛ぶ。
巨大な円柱空間。
無数の発光ライン。
タイムトラベラー達が行き交っていた。
その時だった。
警報。
亜空間全域に赤い光が走る。
『緊急時空警報』
『時空災害発生』
『地球紀元前3000年付近に大規模干渉を確認』
「……え?」
恭子は振り返った。
遠く。
ガイアコット側の空間が赤く染まり始める。
「嘘でしょ」
恭子は顔色を変えた。
(おいおいおいおい!)
ガイアコット周辺の空間が歪み始めた。
通過していた時空艇が大きく揺れる。
「うわっ!」
「何だ!?」
「乱流だ!」
亜空間全体が騒然となる。
空間が波打つ。
発光ラインが乱れた。
ガイアコット付近で時空乱流が発生していた。
原因は不明。
だが、その規模は明らかに異常だった。
「嘘でしょ……」
恭子はガイアコット側を見つめた。
赤い光は次第に遠ざかっていった。
しばらくすると、亜空間の発光ラインも徐々に安定を取り戻していく。
「びっくりした……」
恭子は大きく息を吐いた。
そして。
前方。
出口ゲート。
青い光が広がる。
超広域銀河警察惑星ポリシア。
「帰ってきた……」
恭子は出口へ飛び込んだ。
瞬間。
景色が切り替わる。
巨大な警察施設。
無数の宇宙船。
行き交う警備隊。
ポリシアの日常だった。
「いた」
恭子は一直線に歩き出した。
目的地は一つ。
デビルキング執務室。
扉が開く。
「今戻ったわ」
「帰ったか」
デビルキングは椅子に座ったまま言った。
「どうだった?」
「大変だった」
恭子は記録チップを机へ置いた。
「これ」
デビルキングの目が動く。
「……ほう」
精神転移。
電子人格。
未来観測。
時空転移実験。
被験体P。
恭子は腕を組む。
「プルトン。黒よ。しかも剣まで持ち出してきた。研究者やめて傭兵になった方がいいと思う」
デビルキングはチップを手に取った。
「……なるほどな」
「何その反応。驚かないの?」
「いや」
デビルキングは資料を閉じた。
「むしろ繋がった」
「は?」
「プルトン。やはり君の予想通りだ」
「予想?」
「奴は時間へ干渉している」
恭子は目を細めた。
「やっぱりタイムトラベラーだったの?」
「断定はできん。だが、限りなく黒だ」
デビルキングはしばらく黙っていた。
資料。
記録チップ。
そして恭子。
何かを整理しているようだった。
「……一つ聞く」
「何?」
「ガイアコットで異常はあったか」
「異常?」
恭子は少し考える。
「最後に変なのがあった」
「変?」
「亜空間が赤くなった。警報も鳴ってた。ガイアコット側だけ時空乱流が起きてたわ」
その瞬間、デビルキングの表情が止まる。
「……何だと」
「だから赤く——」
「時空乱流が発生したと言ったのか」
恭子は少し引いた。
「な、何よ」
「そんなにまずいの?」
デビルキングは立ち上がった。
「時刻は」
「え?」
「発生時間だ」
「いや知らないわよ! こっち戻るの必死だったんだから!」
デビルキングは端末を操作する。
無数の画面。
座標。
時刻。
時空ログ。
そして。
画面が止まる。
「……そういうことか」
「何よ」
「やっと全部繋がった」
「だから何が!」
デビルキングは画面から目を離さない。
「君は歴史の中心を通過していた」
「は?」
恭子は眉をひそめた。
「一番まずい時間って?」
デビルキングは画面から目を離さない。
「ガイアコット崩壊直前だ」
「……は?」
「王宮、寝室、アルテウス誕生」
恭子は固まった。
「待って、待って待って。生まれた瞬間?」
「正確にはその少し後だ」
デビルキングは画面を切り替える。
時空波形。
座標。
異常な乱流記録。
「そして、その直後。タイムクラッシャー事件が発生する。怪獣出現、プルトン死亡、核爆発、ガイアコット消滅」
「……………………」
恭子は黙った。
「……。いやいやいや。ちょっと待ちなさい。私そんな所にいたの!?」
「いた。しかもかなり近い」
「何それ怖っ!」
デビルキングは腕を組んだ。
「時空乱流が起きた理由も説明がつく。歴史の重要地点、アルテウス誕生、国家崩壊、核爆発。複数の大事件が短時間で重なった。……なるほど」
「なるほどじゃない!」
恭子は机を叩いた。
「あと数分遅かったら私巻き込まれてたってこと!?」
「もしも巻き込まれて君を失うようなことになれば……」
世界は崩壊するであろう。
「ちょっと何なのよ!」
デビルキングは答えなかった。
デビルキングもまた、全てを知っているわけではなかった。




