27.プルトンの野望
超広域銀河警察惑星ポリシア。
恭子はデビルキングに会いにきていた。
「アリスか。何の用だね?」
アリス——恭子の生まれ故郷、ヴァルシア星での名前。
「この間の閲覧不可ファイルは何?」
「そこ気になるか。実はそれ、君をここに呼ぶための口実だったんだ」
「はあ?」
「君は火星での事件では大活躍をしたそうだね。実はあの事件は裏話があってな」
デビルキングは恭子が火星での事件に首を突っ込む前、ガイアスターを破壊した時にその電子頭脳を回収したことを話した。
そしてその電子頭脳がエルザーレの手に渡り、ダークアストライアの頭部に埋め込まれたということ。
「それで、君には5000年前の地球、エジプト地下にある小国のガイアコットへ行って、プルトンの周辺を洗ってきて欲しい」
「断るわ。大体、そんなの自分で行けばいいでしょ?」
「いや、あの時間には過去の私がいてね。鉢合わせするわけにはいかないんだ」
「どうして?」
「……宇宙が消える」
「はあ……。しょうがないわね」
恭子はいったん地球に戻ると時空転移装置にガイアコットの年代と座標に合わせる。
「それじゃあ、任務へレッツゴー!」
装置のボタンを押す。
瞬間、恭子の体は亜空間へ飛ばされた。
「5000年前って何分くらいかかるのかなあ……」
周囲は巨大な円柱状の空間だった。
円柱は横向きに延々と続いており、その内部を恭子の体が水平に飛行している。
壁面には無数の発光ライン。
白い光が流れ続け、まるで巨大なトンネルの中だった。
周囲では様々なタイムトラベラーが行き交っていた。
宇宙人。
機械生命体。
見たこともない生物。
球体の乗り物に乗っている者までいた。
「この景色にももう慣れたわね」
その時、一台の小型時空艇が恭子を追い抜いていった。
しばらく航行すると、目的の時間軸に到着したのか、恭子は5000年前のガイアコットに転移した。
「ああああ!」
突然叫ぶ恭子。
「アストライア持ってくんの忘れたああああ!」
どうやら宇宙船に置いてきたらしい。
「ま、いいか」
恭子は能天気にガイアコットの街を散策し始めた。
ガイアコットの街は異様だった。
「……古代?」
恭子は周囲を見回した。
機械。
空中を飛ぶ搬送機。
露店に並ぶ見たこともない道具。
どう見ても文明水準がおかしい。
「これ絶対、歴史の教科書に載ってないでしょ……」
その時だった。
前方が騒がしくなる。
「道を空けろ!」
「研究区画への搬送だ!」
白衣姿の男達が、大型の機械部品を運んでいた。
部品には見慣れない紋章。
そして。
『P.LAB』
「P?」
恭子は目を細めた。
「……プルトン?」
男達は慌ただしく去っていく。
恭子は腕を組んだ。
「周辺を洗えって言ってたわね。……尾行するか」
恭子は研究員達の後を追った。
街外れ。
巨大な研究区画。
厳重警備。
機械が大量に搬入されていく。
「でっか……」
門の上には。
『王立ガイア機械研究局』
その奥。
見覚えのあるシルエット。
巨大な青い設計図。
人型。
そして胸部。
「……ガイアスター?」
恭子は目を見開いた。
まだ未完成。
だが間違いない。
ガイアスターだった。
その時。
「そこで何をしている?」
「げ」
後ろ。
白衣の男。
長い髪。
鋭い目。
プルトン。
「……。誰だ君は」
「えーっと……」
恭子は周囲を見る。
「観光客?」
「……。観光?」
「……。ガイアコットは鎖国国家だが」
「……あ」
やってしまった。
「一応、身元確認を」
研究員達が近づく。
「げ」
その時。
「待て」
プルトンだった。
「その必要はない」
研究員達が止まる。
「彼女は面白い」
「は?」
プルトンは恭子を見た。
「ちょうど被験者を探していた」
「……へ?」
「来たまえ」
「いや待ちなさい」
恭子は後退した。
「何で私が」
「珍しい」
「は?」
「研究区画付近を堂々と歩き回る人物は初めて見た」
「そこ?」
「しかも鎖国国家で観光客などと言い出した」
「うっ」
「興味が湧いた」
プルトンは歩き出した。
「来たまえ」
「ちょ、勝手に話進めないで!」
研究員達は道を開く。
どうやらプルトンの命令は絶対らしい。
恭子は少し考えた。
(待てよ? 周辺を洗えって任務だったわよね。むしろ好都合?)
「……しょうがないわね」
恭子はプルトンの後を追った。
巨大な研究施設。
内部へ入る。
長い通路。
研究員達。
見たこともない機械。
そして。
壁一面の巨大設計図。
人型。
胸部コア。
巨大な腕部。
恭子は立ち止まった。
「……ガイアスター」
しまった。
言った瞬間に気づいた。
空気が止まる。
研究員達の動きが止まった。
プルトンも動かない。
「……今」
プルトンがゆっくり振り返る。
「何と言った?」
恭子の頬を冷や汗が伝う。
(やばい、やばいやばいやばい)
ガイアスター。
それはまだ外部に公開されていない開発コード。
知っているはずがない。
「えっと……」
恭子の視線が泳ぐ。
「……。何となく?」
プルトンの目が細くなる。
「何となくで正解したのか?」
鋭い視線。
完全に疑っている。
恭子の頬を冷や汗が伝う。
(しまったああああ!)
「えっと……その」
「……。続けたまえ」
恭子は周囲を見回した。
巨大な設計図。
腕部。
脚部。
そして中央の巨大な人型。
「何となくこう……ガイアっぽいから?」
「ガイアっぽい?」
「ほら、何か強そうだし」
「……」
プルトンは設計図を見る。
再び恭子を見る。
「……。適当だな」
「バレた」
研究員達がズコッと転びそうな顔をした。
だが。
プルトンは笑わない。
むしろ興味深そうだった。
「……面白い」
「は?」
「来たまえ」
「まだ続くの!?」
プルトンは歩き出した。
研究員達が静かに道を開く。
恭子は少し距離を取りながら後を追った。
「どこ行くのよ?」
「実験室だ」
「じ、実験室?」
「安心したまえ」
「その言い方が一番怪しいんだけど!」
長い通路。
途中には巨大な機械。
見たこともない装置。
ガラス越しには研究員達が忙しそうに動いていた。
そして。
一室の前でプルトンが立ち止まる。
『適性検査室』
「……何これ」
「簡単な検査だ」
「何の?」
「君の」
「私の何を!?」
扉が開く。
内部には奇妙な装置。
中央に椅子。
頭部へ接続する大量のコード。
「座りたまえ」
「絶対嫌!」
恭子は後退した。
「どう見ても怪しいじゃない!」
「怪しくない」
「いや怪しい!」
プルトンは装置を指差した。
「これは精神適性検査装置だ」
「精神?」
「人の思考。感情。意識」
「それらを数値化する」
恭子は装置を見た。
大量のコード。
脈打つように点滅する光。
どう見ても嫌な予感しかしない。
「……。それ検査じゃなくて改造装置じゃないでしょうね」
「違う」
プルトンは少し考える。
「今は」
「今は!?」
研究員達がざわついた。
「プルトン様!」
「余計なことを!」
「……失言だった」
「いや今の絶対アウト!」
恭子は逃げ腰になる。
その時だった。
恭子の視線が部屋の奥で止まる。
「……ん?」
壁一面の資料。
設計図。
実験データ。
そして。
『精神転移理論』
『人格保存』
『電子人格記録媒体』
恭子は目を細めた。
(電子……人格?)
火星。
電子頭脳。
ダークアストライア。
脳裏で何かが繋がり始める。
(待って。電子頭脳だけで火星事件まで説明できる? まさか……)
「興味深いかね?」
「げ」
プルトンだった。
「理論上、人は時間を超えられる」
「……………………」
「未来の知識も手に入る」
「……………………」
「もし完成すれば、死すら超越できる」
(まさかこいつ……、未来へ行った?)
恭子はプルトンを見た。
「……ずいぶん詳しいのね」
「研究者だからな」
「未来の知識も手に入るって、もう手に入れたみたいな言い方じゃない?」
プルトンの目が細くなる。
「君は妙なところに気づく」
「よく言われるわ」
恭子は笑って誤魔化しながら、視線を資料棚へ向けた。
『時空転移実験記録』
『精神転移装置試作』
『被験体P』
『未来観測結果』
(あった)
物証。
少なくとも、プルトンが精神転移だけでなく時空移動にも手を出している証拠。
恭子は素早く端末を操作する。
「何をしている?」
「見学」
「許可した覚えはない」
「今したってことで」
恭子は端末から小型記録チップを抜き取った。
プルトンの表情が変わる。
「返したまえ」
「嫌よ」
研究員達が一斉に動く。
恭子は後退した。
「これ、持って帰らせてもらうわ」
「それは私の研究だ」
プルトンは腰の剣へ手を伸ばした。
二本。
左右の手に、細身の剣が握られる。
「へえ。研究者なのに剣を使うの?」
「研究者だからこそだ。奪われて困るものくらい、自分で守る」
「じゃあ、こっちも本気で逃げるわ」
恭子は床を蹴った。




