11.帰省
ここ一ヶ月、怪獣による被害は後を絶たなかった。
どんなに人類が抵抗し、窮地に陥っても、アストライアが現れることはついになかった。
人々はSNSで不満を撒き散らし、あるものはアストライアを貶し、裏切り者と罵り、しまいには地球を捨てたなどと根拠のない投稿を拡散する。
人類はアストライアを怪獣退治の神だとでも思っているのか、すかっり心酔しており、そこへ来て現れなかったものだから、その絶望感は半端ではない。
しかし、アストライアの機体はダメージを受けているため、動かすことができなかったのだ。
恭子は、アストライアの体がある自分の宇宙船に来ていた。
「いつまで待てばいいの? アストライア」
『あと一週間ほど耐えてくれ』
「その一週間が長いのよ。人々はもう痺れを切らしているわ」
それと、と続ける。
「ガイアスターのことなんだけど」
『どうした?』
「禁忌の技術で作られたらしいわ。人工的に」
『そうなのか』
「この間、デビルキングってのが教えてくれた。まあ、私も薄々推測はしていたが」
『それで、なんと』
「警察組織として破壊すると言っていた」
『ほおう?』
「そういえば負けたデビルマスターなんだけど、以前は勝ってるんだよね?」
『当然だ』
「あいつ、自律行動って言ってたけど、どういうことなの?」
『やつは超機械生命体の始祖だ』
「どういうこと?」
『超機械生命体はやつから枝分かれして産まれたのだ』
「そうなの?」
『じゃあ、なんで敵対しているの?」
『私がいつ敵対していると言った? やつは私にとって旧知の仲であり、永遠のライバルだ』
「なんですって!?」
『5000年前の話だ——』
5000年前、超機械生命体の始祖であるデビルマスターがヴァルシアを訪れた際、国同士の戦争が各地で起こっていた。
そこでデビルマスターは自身の遺伝子を複製して異なる容姿の機体を生成し、一人の勇敢なヴァルシア人との共鳴率を高めたのである。
デビルマスターが抜擢したその女性はアストライアと同期して国同士での戦争を止め、世界統一を行なったのだ。
惑星王には自らが君臨し、惑星の民を導いたのだ。
「それ初耳なんですけどお!?」
『だって話していないもん』
「で? 結局、デビルマスターは口が悪いだけなのかしら?」
『そういうことだ』
「なんだか納得できないんですけど」
『まあ、そうだろうな』
「結論を言うと、仲間なんだね?」
『そういうことだ』
恭子は頭を抱える。
「頭が痛い」
恭子の無線が鳴る。
「こちらACR基地。神奈川県に怪獣出現。各隊員は現地へ直行せよ。繰り返す——」
「行ってくる」
恭子は神奈川県に空間転移を行った。
横浜で怪獣が暴れている。
海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊の三隊がそれぞれ持ち場について警戒している。
ACRの戦闘機も上空を旋回中だ。
地上では陸上自衛隊員や警察官が避難誘導をし、レスキュー隊が逃げ遅れた人々を救助している。
恭子はスティックを取り出すが。
(無理、できないよね……)
その時だ。
遥か上空からデビルマスターが降り立つ。
「俺が相手だ」
デビルマスターが圧倒的なパワーで怪獣を瞬殺してみせた。
「おい、デビルマスター!」
と、恭子が叫ぶ。
デビルマスターは振り返り、恭子を見下ろした。
「誰だ貴様は?」
「現アストライアだよ! あんた人が悪いんじゃない!? 私にいっぱい食わせたでしょ!」
「その様子だとアストライアに全て聞かされたようだな」
「あんたのせいでアストライアは機能できないわよ!」
「それは申し訳ない。やりすぎたと思って反省はしているよ。それと人工超機械生命体ガイアスターは遅かれ早れ破壊した方がいい」
「やっぱり、あんたも同じ意見なんだね」
「誰とだ?」
「デビルキング」
「おお、デビルキングか。お前、あいつに会ったのか」
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、俺はデビルーク星の守護神で、やつはそこの出身だからな」
「どんどん知らない情報が出てくるな、おい」
「お前、デビルというだけで悪だと思っていたのか? デビルはデビルークに肖ってつけただけだぞ」
恭子は頭を抱える。
「はあ……頭痛がする」
それで、と続ける。
「強制機械合体とは?」
「超機械生命体の始祖である俺にだけ扱える究極の合体方法だ」
「アストライアは禁忌って言ってたぞ」
「ふん。やつの冗談に乗せられたな」
「ああん! もう! 修羅場で言われたら誰だって信じるでしょうが!」
「ふっふっふ」
「笑うな!」
デビルマスターは、「じゃあな」と、飛翔して空の彼方へ消え去った。
(ぶっ殺す)
イラつく恭子は内心そう思い、宇宙船へと戻る。
(久しぶりに帰ってみるか)
恭子は操縦席のパネルを操作し、宇宙船をアルクビエレ・ドライブで惑星ヴァルシアの前に移動させた。
説明しよう。アルクビエレ・ドライブとは、メキシコ人物理学者のミゲル・アルクビエレが1994年に提案した、時空を歪めて宇宙船自体は光速未満のまま超光速移動を実現しようとする「ワープ航法」の理論モデルだ。
(お父さんとお母さん、何してるかなあ?)
恭子は宇宙船をヴァルシアの旅客用エアポートに着陸させた。
服を着替え、宇宙船から降りる恭子。
街に出て散歩がてら実家へと向かう。
(変わり映えしないな)
その時だ。
通りかかった銀行の前に、複数のパトカーが駆けつけて来た。
「何かあったんですか?」
パトカーから降りて来た警察官に恭子は訊ねた。
「君は?」
「アリスです」
「アリス? まあいいや。今、この銀行に強盗が押し入ったって通報を受けて駆けつけて来たんだ」
「強盗?」
恭子は銀行を見る。
ライフルを持った覆面が立てこもっているのが見える。
「おい、早く金を用意しろ! 殺されたくなければ言うこと聞け!」
(面白い)
恭子は目にも留まらぬ速度で銀行の入り口に移動し物陰に隠れた。
「あ、君!」
恭子の移動に気づいた警察官が手を伸ばす。
(人数は……)
恭子は銀行内の強盗の数を数えた。
(一人……二人……?)
「おい、そこで何してる?」
見張の仲間がいたのか、もう一人の強盗が声をかけて来た。
「あら、見つかちゃった」
強盗はライフルを恭子に向ける。
恭子は一瞬で強盗の背後に周り、頸にチョップを入れて気絶させる。
(とっとと終わらせた方がいいわね)
恭子は銀行内に強行突入をした。
「やめなさい!」
「なんだお前は!?」
強盗たちが恭子を見る。
「見張はどうした!?」
「外でおねんねよ」
「使えねえやつめ」
もう一人の強盗が恭子の前に歩く。
「あんた可愛いな。俺たちと奪った金で遊びに行かねえか?」
「嫌だね」
恭子は強盗に往復ビンタを浴びせ、回し蹴りで外へ吹っ飛ばす。
「うわああああ!」
吹っ飛んだ強盗は外で横たわる強盗の上に重なる。
「おい、てめえ! いてまうどこらあ!」
残りの強盗がライフルを向けて連射する。
ゆっくりと迫り来る無数の弾丸が、恭子の体に触れる瞬間、彼女は後方に体を倒して横たわった。
「死んだか」
恭子はネックバックで跳ね起き、強盗の顔に足でしがみつく。
「んん!」
強盗はバランスを崩して倒れた。
恭子は強盗を担ぎ上げ、銀行の外へ放り投げてみせた。
残りの強盗も仲間の強盗の上に重なった。
恭子は両手を叩きながら銀行から出た。
「ご協力感謝します」
警察官が敬礼をすると、強盗たちを警察署に連行する。
恭子は実家に向かって歩き出すのだった。




