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異世界転生救済課─「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」【フォーニーファミーリア】  作者: ねず ただひま
朝憲紊乱の章

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08. 大人の流儀

千代草ちよぐさ



 え〜っと……何の用だろう?


 突然声をかけられ、私は首を傾げた。ぱちぱちと目をしばたかせていると、にやけ顔の男二人はこう言った。


「おい、オッサン。若い子ふたりもひっかけて焼肉かよ? 羨ましいねぇ〜」

「楽しそうだな? オレらも仲間に入れてくんねぇ?」


 ええ〜! 嘘でしょ? 焼肉屋さんで輩に絡まれるとは、夢にも思わなかった。

 芙蓉ふようはプイと顔を背け、再び焼肉を堪能しはじめる。私もそれにならって無視を決め込んだ。でも花冠かかんさんは違った。


「あぁ、すいません。騒がしかったですか? 少し静かにしますね」と、大人の対応を見せたのです。


「オッサン。悪いと思うなら、その女の子二人。ちょっとでいいからオレらに貸してくれよ」


 金髪の男が、私と芙蓉ふようの全身を下から舐めるように見てそう言った。

 貸せって……この人達は女性をなんだと思ってるのだろう。

 

 いやらしい目つきに寒気が走った。芙蓉ふようも私と同じ気持だったのだろう。


「う〜わウッザ。普通にキモいんすけど……」


 汚い物を見るような目つきで芙蓉ふようは言った。


 それを聞いて二人は席を立って近づいてくる。


「へぇ〜彼女、口悪いタイプ? オレの好みだけど、あんまオレら怒らせないほうがいいよぉ〜」


 坊主頭のぽっちゃりは薄ら笑いを浮かべる。不快だなぁ……

 もしも私が、異世界転生救済課に勤めていなければ、今の状況に怖くて震えているのかもしれない。

 私は異世界から魔法を持ち帰っている希少種レアケース。異世界でモンスターや異能力を持った救出対象者ドリーマー等との出会いを経験している。

 目の前の輩二人は、悪ぶってはいるけれど普通の人間だ。恐怖の対象として映らない。私には多くの経験がある。良いことも、悲しいこともいっぱいあったんだ。


「気を悪くしたのなら謝ります。私たちはただ、仕事終わりに食事をしていただけなのです。ご勘弁を」


 花冠かかんさんは席を立つと、男たちの前で頭を下げた。


花冠かかんさん……」

 そこまでするものなのかと驚き、立ち上がると、

花冠かかんさん、謝ることないよ! 絡んでくるコイツらが悪いんじゃん!」


 テーブルに箸を叩きつけて芙蓉ふようも立ち上がった。


「おいおい、そうカッカすんなよ〜、オレらにビビって簡単に頭下げちゃう男より、若いオレらのほうがいっぱい楽しませてヤレるぜぇ」


「なんだとぉ〜……」芙蓉ふようが歯を食いしばっている。これはまずい。


 恐怖の対象ではないけれど、嫌悪の対象であることには間違いなかった。芙蓉ふようが二人を蹴り飛ばして怪我をさせる前に、ちょっとだけ魔法を使ってこらしめてやろうとした瞬間だった。


「お客さん、騒ぎは困りますよ……」


 二人の輩の背後に巨大な人影が現れた。


「んだよ!? 邪魔す……!」


 二人は同時に振り向くと、体を固まらせる。そこには……


 丸太のような太い腕の、まるで熊のような大男が立っていた。おそらく二メートル以上の上背があるその大男は、冷めた目で輩の二人を見下ろしている。

 

「でっか……」芙蓉ふようが呟く。


 ──熊と出会ってしまったら、刺激しないようにゆっくりと距離を取る──


 輩の二人もそれくらいの知識はあったのでしょう。

顔を青くした彼らは、大男からゆっくり離れると、一目散に店を出て行った。大男はその姿を見送ると、私たちに目を向けた。


 大男はお店のエプロンを着用している。それに気づいた私はすぐに頭を下げる。


「お騒がせして申し訳ありません! 私たちもすぐに出て行きますので、お会計をさせてください!」


「……いいえ、お客さんたちは絡まれていただけです。よろしければ、引き続きお食事をお楽しみください」

 思いがけない返事に顔をあげると、大男は厳つい表情を消し、可愛らしい笑顔をみせていた。


 そのギャップに戸惑っていると、彼は何かに気づいたようで、花冠かかんさんをじっと見て尋ねた。


「あのぅ……人違いならすみません。お客さん……昔どこかでお会いしませんでしたか?」


 しばし沈黙の後、微笑んだ花冠かかんさんは答えた。

「いえ、おそらく人違いかと……私なんてどこにでもいる()()()()()()ですから」


「そうですか……失礼しました。では、ごゆっくり」


 大男はそう言って背を向けると、小首をかしげながら厨房へと消えて行った。


「ふぅ……助けられましたね」


 花冠かかんさんは安堵すると、ハンカチを取り出して額の汗を拭う。


「まったく! もう少しで顔面にキックするところだったよ!」


 芙蓉ふようはドカっと椅子に座った。私も面倒ごとが去ったと胸を撫で下ろし、着につく。


 花冠かかんさんは、大男の店員さんが消えて行った厨房を見つめて言った。


「実はさっきの店員さん……昔、私が救出した救出対象者ドリーマーだったんですよ」


「ええ!?」


 私と芙蓉ふようは同時に驚いた。


 花冠かかんさんは水を一口喉に流し込むと、表情を曇らせた。


「彼は昔……奥さんを事故で亡くしているのです」


 私と芙蓉ふようは、花冠かかんさんが語る過去の話に、静かに耳を傾ける。


「そのことで塞ぎ込んだ彼は、いつの間にかスマホにインストールされていたネペンテスを使い、死んだ奥さんが存在する異世界を創って転生したのです……当時、紫雲英げんげ班に所属していた私は、バディと一緒に、無理矢理異世界から彼を連れ戻しました……その時に次元の歪み(ストレイン)から、彼が蘇らせた奥さんが追跡者トラッカーとなって現れたのです」


 後悔? 自責? 花冠かかんさんの表情からはそのどちらとも取れる色が伺えた。


「私たちは、醜悪な追跡者(トラッカー)に成り果てた彼の奥さんを……目の前で……」

 

 言葉を詰まらせた花冠かかんさんは、ハッと顔をあげ、私たちを見て、無理に笑顔を作った。


「あはは、すいません、急にこんな話をして。まぁ、彼の記憶は改竄しましたので、ちゃんとは覚えていないのでしょう。私の顔を見て少し引っかかったのかも知れませんね。それにしても、ちゃんと社会復帰して真面目に働く姿を見て安心しました………あはは」


 私は少しだけ花冠かかんさんの過去を知った。

相当な実力者だというのは雰囲気から分かるけど、一度退職したのは、その時の事があったからなのだろうか?


「なる〜。花冠かかんさんも、思い悩んだ時期があったんだね。あの人は悲しみを異世界あっちの虚構で満たしてた。それはそれで幸せかも知んないけど、ウチはやっぱり現実の世界で生きて、現実の世界で死ぬのがいいと思うんだ」


 救出した救出対象者ドリーマーが、そのあと、どのような生活を送っているのか私たちは知らない……気にはしていたが、次から次へと仕事が舞い込んでその後は調べようがないのだ。


「彼がここで働いていると聞いて、今回の食事会、私が店を選んでしまいました。おまけにお二人に不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」


 花冠かかんさんが私たちに頭を下げる。


「ちょっと花冠かかんさん! 謝ってばっかだよ! ウチら全然気にしてないからさ!」

 

「そうですよ、それに私、昔花冠(かかん)さんが助けた人の、その後が知れて良かったです」


「はは、二人とも優しいんですね」

 花冠かかんさんは、少し困ったような笑顔を見せた。


「今回、お二人が救出した上原リョーコさんも、無事社会復帰できるといいですね」


「それは大丈夫っしょ、リョーコさんなら心配いらないよ……てか、ヤバっ! お肉焦げてる!」

 芙蓉ふようが慌てて網から真っ黒な肉を摘み出した。


「あわわ、勿体無い! お、お皿に乗せましょう!」


 慌てる二人を見て私ははなぶさ班長のことを考えていた。


 もしこの場に彼がいたら、あの輩二人をコテンパンにしていただろうと……いや、その前に、彼の鋭い目つきと雰囲気で絡んできやしないだろうな……


 私はふふふと笑っていた。




 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 次回は蒲公英たんぽぽ課長に呼び出されたはなぶさパートがスタートします。お楽しみに(^^)


*次回、『面倒ごとがはじまる予感』

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